表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴミ箱勇者の魔道具ハック  作者: そんたく_
1/6

第1話 ゴミ箱の底で、俺は魔法を拾った

えっ。


終わった。


見えるのは、漆黒の闇。


体が宙に浮いている感覚。いや、違う。落ちている。


耳元で風が鳴っていた。胃が喉までせり上がる。手足をばたつかせても、掴めるものなんて何もない。


落下。


その言葉だけが、やけに冷静に頭の中で浮かんだ。


その瞬間、走馬灯が見えた。


前の人生。


たいしたことは何もしていなかった。


家では親に「PCの先生」なんて呼ばれて、Wi-Fiが繋がらないだの、プリンターが動かないだの、スマホの写真が消えただの、そういう時だけ頼られていた。


外ではただのニート。


昼夜逆転して、ネットを見て、ゲームをして、たまにコンビニへ行く。


そんなくだらない人生。


そのくせ、最後だけは妙にドラマチックだった。


たまたま外に出た日。


道路に飛び出した猫を見つけて、考えるより先に体が動いた。


猫は助かった。


俺はトラックに轢かれた。


本当に、くだらない人生だった。


そして今世。


例のごとく異世界転生。


目が覚めたら城の大広間。周囲には王様、姫、騎士、神官。みんなが俺を見ていた。


「勇者様!」


そう呼ばれた時は、正直ちょっと浮かれた。


今度こそ人生やり直せる。


そう思った。


けれど、現実は甘くなかった。


魔力測定。


結果はゼロ。


魔法適性なし。


剣の才能も普通。


身体能力も普通。


異世界転生者特典みたいなものも、何もなかった。


その日から、周囲の目は変わった。


勇者様から、役立たずへ。


救世主から、失敗作へ。


そして最終的に、俺はここに落とされた。


城の地下奥深く。


使えなくなった魔道具、壊れた武具、処分に困る実験体、そして死体。


そういうものをまとめて捨てる場所。


いわゆる、ゴミ箱行きだった。


落下とはいえ、途中から石造りの斜面に体を叩きつけられた。滑り台のような通路を、背中と尻と肘を擦りながら転がっていく。


「ぐっ、あっ、いって、待っ、止まっ」


止まるはずもない。


最後に、俺の体はガラクタの山へ突っ込んだ。


ガチャーン!


金属の悲鳴みたいな音が、地下の闇に響いた。


「い、いてて……」


痛い。


でも、生きている。


それだけで、少し安心してしまった。


また死ぬよりはマシだ。


周囲は暗かった。


湿った空気。カビの匂い。鉄錆の匂い。何かが腐ったような臭いも混ざっている。


手探りで起き上がると、指先に硬いものが当たった。


折れた杖。


ひしゃげた腕輪。


穴の空いた金属板。


砕けた水晶。


その奥には、白いものが見えた。


骸骨だった。


「……同じく、落とされた人か」


笑えなかった。


ここはゴミ捨て場であり、墓場でもあるらしい。


足元に転がっているのは、ほとんどが魔道具だった。


この世界の魔道具は使い捨てだ。


火を出す杖。水を生む壺。風を起こす扇。光を灯す球体。


便利ではあるが、一定期間使うと魔力が抜けて使えなくなる。


だから、役目を終えた魔道具はこうして捨てられる。


もっとも、魔法が使えない俺には関係のない話だった。


そう思っていた。


指先が、一本の古びた杖に触れた。


瞬間。


ぽうっ。


赤い光が、かすかに灯った。


「……え?」


思わず息を止めた。


壊れた杖の先端が、蛍みたいに弱く光っている。


残留魔力。


魔道具にわずかに残った魔力だ。


普通は魔法使いが触れれば反応する。だが、魔力ゼロの俺には反応しないはずだった。


「なんで……」


俺は杖を握りしめた。


薄赤い光が、ぼんやりと周囲を照らす。


そして、見えた。


ぬるり。


闇の向こうで、何かが動いた。


半透明の体。床を這う粘液。丸く膨らんだゼリー状の魔物。


「ス、スライム……!」


某RPGなら最弱の代名詞。


だが、この世界では違う。


物理攻撃がほとんど効かない。剣で斬っても潰しても、すぐ元に戻る。


魔法が使えない者にとっては、十分すぎるほど脅威だった。


スライムが跳ねた。


俺の顔面めがけて飛びかかってくる。


「うわああああ!」


反射的に、手に持っていた杖を振った。


その瞬間。


ぼっ。


杖の先から、小さな火球が飛び出した。


火球はスライムに直撃し、じゅうっという音を立てて蒸発させた。


ぬめった体が床に崩れ、煙のように消える。


あとには、丸い石だけが残った。


「……出た」


魔法が。


俺の手から。


いや、違う。


俺が魔法を使ったわけじゃない。


魔道具に残っていた魔力を、引き出せたのだ。


「残留魔力なら……俺でも使える?」


測定以来、魔道具なんて触らせてもらえなかった。


役立たずに高価な魔道具を持たせる意味がない。そう言われていたからだ。


だから、気づかなかった。


俺は魔法が使えない。


けれど、魔道具は使える。


しかも、普通の人間が見向きもしない、壊れかけの残骸からでも。


スライムの落とした丸い石を拾う。


魔石だった。


りんごくらいの硬さ。けれど表面は少し弾力があって、指で押すとわずかにへこむ。


腹が鳴った。


そういえば、城で最後に食事をしたのは昨日の昼だ。


地下には食べ物なんてない。


あるのはガラクタと骸骨と、たぶん魔物だけ。


俺は魔石を見つめた。


「……りんごだと思えば」


ごくり、と唾を飲み込む。


そして、かじった。


シャクッ。


本当に、りんごみたいな歯ごたえだった。


ただし味はない。


甘くもない。酸っぱくもない。うまくもない。


でも、まずくもなかった。


俺は無言で魔石を食べ続けた。


腹は少しだけ膨れた。


代わりに、口の中と喉の奥が妙にぬめった。


「……気のせいだな」


気のせいということにした。


手に持った火の杖が、さっきより少し明るくなっている。


「魔石を食うと、魔力が補充されるのか?」


試しに杖を振ってみる。


ぼっ。


火が出た。


もう一度振る。


何も出ない。


「一発だけかよ……」


どうやら魔石を食べても、自分自身が魔法使いになるわけではないらしい。


残留魔力を扱える量が、ほんの少し増えた程度か。


それでも十分だった。


少なくとも、完全な詰みではない。


俺は座り込み、手元の火の杖をじっくり観察した。


元は立派な魔道具だったのだろう。


だが今は、装飾は折れ、金属部分は禿げ、杖の本体には細かなヒビが入っていた。


そのうちの一箇所。


装飾が欠けた部分に、小さな穴があった。


「……USB?」


見覚えがあった。


前世で散々お世話になった、あの端子。


いや、そんなはずがない。


ここは異世界だ。魔法の世界だ。USBなんてあるわけがない。


でも、どう見てもそれだった。


「ついに頭がおかしくなったか……」


そう呟きながら、俺は杖の先端を見た。


反対側には、別の装飾パーツが付いている。


試しに地面に叩きつけてみた。


ガンッ。


装飾が割れ、中から銀色の突起が出てきた。


「……オス端子じゃねえか」


笑いそうになった。


いや、笑うしかなかった。


魔道具は、魔法の道具じゃない。


少なくとも俺には、そう見える。


これは、周辺機器だ。


俺はガラクタの山を漁った。


青い杖を見つける。先端には氷の結晶みたいな飾り。


「氷の杖か?」


地面に叩きつける。


同じように、先端からUSB端子が出てきた。


火の杖の端子を、氷の杖の穴に差し込んでみる。


カチッ。


青い光が、赤い杖へ流れ込んだ。


「……充電できる」


赤い杖が少し強く光る。


振ってみると、火が二回出た。


俺は息を呑んだ。


「これ、モバイルバッテリーだ」


壊れた魔道具同士でも、残留魔力を移せる。


つまり、捨てられた魔道具は全部、俺にとってはバッテリーだった。


そこからは夢中だった。


火の杖に、氷の杖、水の杖、風の杖、土の杖。


片っ端から端子を見つけ、繋ぎ、魔力を移す。


気づけば、火の杖は五十発ほど撃てる状態になっていた。


さらに俺は、携帯用らしい短い杖を見つけた。


小型で、先端に別の端子がある。


これを親機の杖に差し込む。


また一本。


また一本。


傘の骨みたいに、短い杖が放射状に繋がっていった。


完成したそれは、もはや杖というより、開きかけの傘だった。


「命名、炎のアンブレラステッキ」


ダサい。


でも、今の俺には最高に頼もしい武器だった。


それから俺はスライムを狩った。


火で焼き、魔石を拾い、食べる。


また焼き、また食べる。


そのうち、体からぬめりを自由に出せるようになった。


最初は最悪だった。


手が滑る。服が張り付く。寝る時に気持ち悪い。


でも、慣れると便利だった。


傷口に塗ると痛みが引く。


壁に塗ると、音を立てずに滑り降りられる。


体にまとえば、寒さも少しマシになる。


「スライム体質……ってことか?」


俺は自分の腕から出した粘液を見て、乾いた笑いを漏らした。


勇者としては失格。


だが、地下のゴミ箱では悪くない能力だった。


翌日。


たぶん翌日。


地下では時間の感覚が曖昧だった。


スライムを狩っている最中、アンブレラステッキから突然、雷が出た。


バチンッ!


青白い閃光が走り、スライムが一瞬で弾け飛ぶ。


「雷属性も混ざってたのか!」


俺は慌ててステッキを確認した。


先端に刺した携帯用杖の一本が、雷の魔道具だったらしい。


同じ要領で、氷、水、土、風の杖も繋いだ。


火。


水。


氷。


風。


土。


雷。


全属性。


「……できちゃったよ」


俺は完成した巨大な傘型魔道具を掲げた。


全属性アンブレラステッキ。


見た目は最悪。


だが性能は本物だった。


化けネズミを見つけた時は、雷で動きを止め、炎で炙った。


久々の肉だった。


ドブ臭かった。


でも食えた。


食えるというだけで、涙が出そうになった。


さらに探索を続けるうち、俺は光の魔道具を見つけた。


手のひらほどの球体で、内部に白い光が眠っている。


先端部分を引っこ抜くと、裏側に見慣れた形の端子があった。


「HDMI……?」


もう驚かなかった。


全属性アンブレラステッキの先端装飾も外す。


そこにも同じ端子があった。


球体を取り付ける。


瞬間、空中に半透明の画面が浮かんだ。


魔力残量。


接続中デバイス。


使用可能魔法。


火球。


氷槍。


水刃。


土壁。


風圧。


雷撃。


それらが箇条書きで表示されている。


「完全にPCじゃねえか……」


ステッキを振ると、カーソルのような光点が動いた。


四角いボックスを選ぶ。


魔法名を掴むように動かす。


別の携帯杖へドラッグする。


すると、魔法が移動した。


「魔法の管理画面……」


俺は笑った。


前世で唯一、人より少しだけ得意だったこと。


PC。


設定。


接続。


充電。


転送。


その全部が、この世界では魔法になった。


城の連中は、俺を魔法が使えない役立たずだと思った。


違う。


俺は魔法が使えないんじゃない。


この世界の魔法を、別のOSで認識しているだけだ。


近くに、翼の形をした魔道具が落ちていた。


壊れた飛行用の装備らしい。


左右の翼部分を外すと、細い端子が出てきた。


一本を全属性ステッキに刺す。


もう一本を、別の小型杖に刺す。


光の球体に文字が表示された。


転送魔法。


ペアリング中。


接続完了。


「まさか」


小型杖を振る。


本体のアンブレラステッキに入っていた氷魔法が、離れた場所から放たれた。


氷の槍が闇を裂き、壁に突き刺さる。


「遠隔転送……!」


本体が近くになくても、魔法を撃てる。


重くてゴテゴテしたアンブレラステッキを構えなくてもいい。


俺は羽型端子だけを小型杖につけ、アンブレラ本体はズボンとパンツの間に差し込んだ。


位置は最悪だが、両手が空く。


命には代えられない。


それから俺は、狂ったように魔道具のゴミを漁り始めた。


火の杖。


氷の腕輪。


風の靴。


土の盾。


水の壺。


毒の針。


眠りの鈴。


治癒の布。


爆発の宝石。


片っ端から壊し、端子を探し、接続し、画面に認識させた。


魔法には種類があった。


攻撃魔法。


防御魔法。


生活魔法。


状態異常魔法。


補助魔法。


そして、管理者権限が必要です、と表示される謎の魔法。


「管理者権限ってなんだよ……」


俺は画面を睨んだ。


その時。


奥の闇から、低い音がした。


ずるり。


ずるり。


スライムの音ではない。


もっと重い。


もっと湿っている。


腐った肉を引きずるような音。


光の球体を向ける。


そこにいたのは、人型だった。


いや、人だったものだ。


皮膚は灰色に変色し、腹は裂け、片腕は骨だけになっている。


骸骨ではない。


死体が動いていた。


「アンデッド……」


喉が乾いた。


この世界でアンデッドを倒すには、聖属性か火属性が必要だと言われている。


火ならある。


そう思って小型杖を構えた瞬間、画面が赤く点滅した。


警告。


対象に呪詛反応。


通常火炎、効果低。


「は?」


死体が跳ねた。


予想以上に速い。


俺は慌てて横へ転がる。


爪が頬をかすめ、熱い痛みが走った。


「くそっ!」


雷撃。


動きが止まる。


火球。


燃える。


だが、アンデッドは止まらない。


燃えながらこちらへ向かってくる。


「なんで死体のくせに根性あるんだよ!」


俺は後退しながら管理画面を見る。


聖属性魔法はない。


光魔法はある。


だが、光は照明と転送だけ。


いや。


本当にそれだけか?


俺は光の球体をタッチペンのように操作した。


光魔法フォルダ。


照明。


投影。


転送。


認証。


「認証?」


その魔法を小型杖へ移す。


アンデッドが目前まで迫る。


俺は反射的に杖を振った。


白い光が、アンデッドの額に当たった。


ピコン。


そんな場違いな音がした。


空中に文字が浮かぶ。


旧所有者情報を検出。


廃棄登録済み。


魂魄残滓、破損。


強制ログアウトしますか?


YES / NO


「YESに決まってんだろ!」


俺は叫びながら、光のカーソルをYESに叩きつけた。


次の瞬間。


アンデッドの体から、白い霧のようなものが抜けた。


糸が切れたように、死体が崩れ落ちる。


静寂。


俺は荒い息を吐きながら、膝をついた。


「……アンデッドって、ログイン状態だったのかよ」


意味がわからない。


けれど、わかったことがある。


この世界の魔法は、俺が思っていたよりずっとシステムに近い。


魔道具は端末。


魔力は電力。


魔法はアプリ。


魂はアカウント。


そして俺は、それを操作できる。


魔法使いではない。


管理者でもない。


ただの、前世でPC係をやっていたニート。


でも、この地下ではそれが最強の才能だった。


アンデッドの倒れた場所に、古びた腕輪が落ちていた。


黒い金属でできた、ひび割れた腕輪。


触れた瞬間、光の画面が勝手に開く。


未登録デバイスを検出。


名称:廃棄場管理端末


権限:地下第七層限定


状態:破損


接続しますか?


俺は、しばらく画面を見つめた。


地下第七層。


つまり、ここはただのゴミ捨て場ではない。


階層がある。


管理端末がある。


そして、おそらく出口も。


俺は笑った。


城の連中は、俺をゴミ箱へ捨てた。


けれど、間違っていた。


ここはゴミ箱なんかじゃない。


俺にとっては、宝の山だ。


「接続」


腕輪が、ぴたりと俺の手首に巻きついた。


次の瞬間、地下全体が低く唸った。


遠くで、巨大な何かが動き出す音がした。


画面に新しい文字が浮かぶ。


ようこそ、臨時管理者。


廃棄場防衛機構を起動します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ