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星屑のせかいで~大魔法使いは神と死神の砂時計~【更新停止/未完】  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)


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第1章 世界樹の庭【5】

 裏口から物音がした。老人は顔を上げ、ティーカップの片付けを始める。

「お仲間が到着したようですな」

 それは馬車の音だった。アモルが支度を終え、戻って来たのだ。裏口がノックされ、どうぞ、と老人が応えると、アモルとともに濃い青髪の青年が店に入って来た。アモルはウォーロックを見て、まあ、と顔を綻ばせる。

「陛下、新しいお召し物もよくお似合いですわ」

「これで王には見えないだろ?」

「ええ。冒険者のようですわ。いま、王宮は大騒ぎですよ」

「そうだろうな。王が行方を眩ませたわけだからな」

 本来のアストラ王がどうだったかはわからないが、王が姿を眩ませるのは、どの国でも滅多に起きることではない。国にとっては一大事。大騒ぎになるのは当然のことだろう。それもウォーロックには知ったことではないのだが。

「御者はヴィシオか」

 スクワイアが濃い青髪の青年を見遣る。青年――ヴィシオは軽く辞儀をした。生真面目そうな顔付きの青年で、まだ若く見える。それでも、ウォーロックのお供として選ばれたということは、それなりの実力を誇っているということだろう。

「事情はここに来るまでに話しましたわ」

「この者はヴィシオ。アストラ王への忠誠心が特に強い者です」

 ヴィシオはウォーロックの前に跪き、深くこうべを垂れる。アモルの言葉通り、固い忠誠心を感じさせる表情だった。

「陛下が旅を終えるまで、終生、お仕えする覚悟にございます」

「うむ。では俺のことはウォーロックと呼んでもらう。旅のあいだは俺が王であることを忘れろ」

「かしこまりました」

「わかりました、だ」

「わ、わかりました……」

 ヴィシオはたじろいでいるが、これから彼はアストラ王ではなくウォーロックとしてこの世界で生きていく。しばらくはその差異に戸惑ってしまうだろうが、これは慣れてもらうしかないだろう。

 その後、アモルとヴィシオが旅に必要な道具を選び始めた。そのあいだ、スクワイアはウォーロックの前に地図を広げる。世界地図のようで、大小様々な大陸が記されていた。スクワイアは最初に、地図の中で最も小さな大陸を指差した。

「まずは、最も近いクルトゥーラ大陸に行きましょう。一刻も早くこの大陸を離れたほうがいいでしょう。クルトゥーラ大陸なら、アストラ王の外見を知らぬ者が多いはずです」

「そうか。まずは船旅か」

 ついに旅が始まるのかと思うと、ウォーロックは心が躍った。この世界には自由がある。これまでの不自由を忘れる旅がウォーロックを待っているのだ。

 旅に必要な物を馬車に積み、ついに旅への準備が整う。この旅が自分にとってどういうものになるか、いまはまだウォーロックにもわからない。しばらくは、ただ旅を楽しむだけで充分だろう。

「もう二度とお会いすることはないかもしれませんが……」

 店の裏口に老人が出迎えに出て来る。その表情はどこか寂しげだ。

「私はウォーロックの無事をお祈りします。この世界の行く末を、見守らせていただきます」

「……店主。俺はこの旅を終えるとき、もう一度、ここに戻って来る」

 強い意志を湛えたウォーロックの瞳を、老人は真っ直ぐに見据えた。

「ゴード神の加護を受けるお前は、この世界の末路を見届けるに相応しい。俺がここへ戻って来たとき、この世界の未来は決まる」

「……では、再会のときを心待ちにしております」

「それまで生きて俺を待っているように」

「ほほ、まだまだくたばりませんよ」

 朗らかに笑う老人に頷いて、ウォーロックは馬車に乗り込む。アモルとスクワイアもウォーロックとともに乗り、御者台にはヴィシオが着いた。これから、ウォーロックの旅が始まる。困難が待ち受けていることもあるだろう。だが、それらすべてを合わせてウォーロックの人生となる。死神から授かったものだ。

「俺は不老長寿とのことだが」ウォーロックは言った。「お前たちは普通の人間なのか?」

「私はウォーロックと同じです」スクワイアが答える。「私にはウォーロックと運命を共にする義務があります。アモルとヴィシオは普通の人間です」

「そうか。スクワイアも転生者だったな。俺は魔力回路を封じられているが……」

「私は封じるほどの魔力を持っていません。特性としては騎士です」

 ふむ、とウォーロックはスクワイアの姿を眺める。軽装ではあるが鎧を身に着け、腰には長剣を携えている。「スクワイア」というのは正確には「見習い騎士」のことを指すが、このスクワイアは見習いではない。そんな風采であった。

「俺は魔法のない世界から来たんだ。魔法を使うのは楽しみだ」

「気を付けてくださいね」スクワイアが笑う。「魔力回路を封じられていても魔法力は圧倒的ですよ」

「無双は転生のテンプレだろ」

「それはもちろん」

 スクワイアは楽しげに微笑んでいる。よくわかっている、とウォーロックは軽く笑った。

「楽しい旅になりそうだな」

 どんな世界が待ち受けているか、それを考えると心が躍る。例え世界の再生と破滅が懸かっていようとも、ウォーロックにはその結論をすぐに出すつもりはない。不老長寿の肉体を手に入れたのなら、心行くまでこのファンタジーな世界を旅することができるだろう。女神には悪いが、まだしばらくは待っていてもらうことになりそうだ。



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