『赤い稲妻』と『あだ名付きAチーム』ACT 12
『巨人』の運転するSUVに乗る神谷真理、『暴風雨』、『白い悪魔』は後部座席に座っている。
『暴風雨』は煙草に火を着け、『白い悪魔』は酒瓶の栓を口で開けた。
『敵の最終目標は大型河川、ドナウ川への生物兵器攻撃だ。未確定だが、敵は医療団体に扮し、行動している。君達五人はこれよりドナウ川上流に向かい、これを撃破してもらう。途中でヘリで君たちを回収し、現地へ輸送する』
神谷真理も煙草に火を着ける。
「この車どうしたんだ?」
「借りたよ。置いてあったからね」
神谷真理の問いに酒瓶を揺らしながら答える『白い悪魔』。
それにため息をついて神谷真理は紫煙を吐いた。
「でも『奇跡の使徒』だったっけ? そいつらはドナウ川に何人いるの?」
『まあ、二十人は下らないな』
「現地の既存の施設、物資は」
『大型天幕が十個。仮説プラントのような物が三つ。車両が五台とヘリが二機』
「二機? 医師団体が二機も常駐させているとは思えないな。別の何者かと考えて間違いなさそうだね」
『白い悪魔』の言葉に神谷真理は頷く。
「だが二十人、敵のテリトリーでたった五人で戦えるかだな」
『暴風雨』が鼻を鳴らして後部車窓を振り返った。
二人も同じように振り返った。
車を追いかける『徹甲弾』の姿があった。
「すげえなあいつ」
『暴風雨』がむせるように煙を吐き出しながら言った。
「足の速さは『稲妻』に及ばないがあの持久力は天性のものだよね」
『白い悪魔』が心から感心するように言った。
神谷真理はメーターを覗き込んだ。
『巨人』が気を使っているのか速度は時速20㎞ほどだ。
しかしそれは自転車をゆっくりと走らせた二倍ほど。
ある程度鍛錬の経験がある人間ならその程度で走る事は出来るが問題はそれを維持できるかどうかだ。
彼はもう既に、それを十五分以上継続している。
「乗せてあげようよ」
『巨人』が震える声で言った。
二人は笑って、神谷真理は何も言わなかった。
その代わり、もう一度振り返って、ため息をついて、『巨人』の座る座席を軽く小突いた。
車が速度を落とし、停車する。
そしてすぐに右側の後部座席のドアが開けられた。
滝汗を流した『徹甲弾』だった。
「もう少しゆっくり走ってくれよ」
「そこかよ」
「助手席に乗りなよ。空調が付いてる」
言われたまま『徹甲弾』は助手席に移動する。
「もう気を使う必要はないぞ。速度を上げろ」
神谷真理の言葉に『巨人』は頷き再び車を走らせた。
「走らせるのはまだいいよ。でもせめて崖登るのは待っててほしかった。崖上がったらみんないないんだぜ? どうかと思う」
そこなんだな、と神谷真理は煙を吐いた。
『「徹甲弾」も戻ってきたことだし、再度状況の確認をする』
ミッチェルの言葉に全員が口を閉じた。
『今回の敵、「奇跡の使徒」はイタリア大統領、フランス大統領、ロシア大統領が揃うこのタイミングで宮殿への強襲作戦を実施した。しかし敵はそれだけでなく狙撃手を配置し、その狙撃手は郊外へ逃亡、それを「稲妻」が追跡し、戦闘、撃破した。が、これは陽動だと思われる。タイミングを同じくして敵の攻撃は中断され撤退、市街から驚異の消失を確認。だが、敵の本当の目的は他にある。今現在最有力候補はドナウ川上流にて確認された未登録の医師団体が「奇跡の使徒」の勢力の一部であると推察。その目的は先日発覚した中国での炭疽菌亡失事件により亡失した炭疽菌の使用及び漏洩と思われる。君達にはこれよりドナウ川上流へ向かい、これの阻止並びに適性組織「奇跡の使徒」の殲滅を行ってもらう』
四人が顔を見わせた。
『巨人』は運転を続けている。
「でもそうなると、街から姿を消した敵はその地点に集まってくるよね。二十人では済まないよね」
『白い悪魔』がそう問う。
『もちろんだ。付近の支部に航空隊の応援を頼んである』
「さっきの奴じゃないだろうな?」
神谷真理の棘のある言葉。
『別の編隊だ。心配しないでほしい』
「さっき何があったの?」
「応援に来たヘリ一機が、何も考えず対空ミサイルを撃ってしかも外しやがった」
「あんな場所で?」
「ああ」
『白い悪魔』からの確認に神谷真理は答え、それを聞いて『暴風雨』と『徹甲弾』は笑い、『巨人』は驚愕の声を漏らした。
「でも航空隊か、敵は生物兵器を使用する以上、前回のなんだったっけ、『Z』? それと同じで、大規模な攻撃は出来ないよね。結局私たちがそこの近辺で立ち回る必要があるよね。あんまり変わんないかもだけど、他の『あだ名付き』は呼べないの?」
『別の任務に行っている』
「ならしょうがないね」
神谷真理は鼻を鳴らした。
「指揮官は『鯱』か? 何の任務だ?」
「核物質取引の情報を得てそれを追跡している」
「……」
神谷真理はそれに黙り込んだ。
代わりに『白い悪魔』が口を開いた。
「一度核兵器を阻止した彼ではなく?」
彼女が振り返って問う言葉に神谷真理は何も答えない。
ミッチェルが答える。
『緊急性の高さで決めている。取引だけなら「稲妻」を出すまでもないと私が判断した。特に深い意味はないよ。今回に限っては君達の今の任務の方が世界的な影響が強いんだよ。だから必ず勝ってくれ。2キロ先で広いポイントに出る。そこでヘリに搭乗してくれ』
ふ~んと興味無さげに言う『白い悪魔』。
『暴風雨』も興味ないとばかりに煙草を揺らし、『徹甲弾』はそもそもあまり話を聞いていない。
『巨人』は車に備え付けられたカーナビのマップを操作している。
なんだかんだ言いつつ、各々が自由人だ。
『白い悪魔』は任務に対してしっかりと向き合っているように見受けられるが、恐らく、情報を持っている方が物事を俯瞰できるからだろう。
彼女はかつての活動の頃は流れを理解することを是としていたようだ。
情報収集もその一環なのだろう。
結局は、自分のため。
恐らく神谷真理以外は、世界の危機などどうでもいいのだろう。
『巨人』も、核物質という言葉にろくに反応しなかった。
彼は元米軍工兵だ。
爆発物やそれこそ核物質への理解は、恐らくこの五人の中で誰よりも高いはずだ。
加えて、普段の臆病な性格であれば核物質の単語が出ただけでえ悲鳴を上げそうなものだが、そうはしない。
彼も、やはりどこかズレている。
神谷真理はそれを眺めて腹立たし気に煙を強く吐き出す。
『「奇跡の使徒」の首領らしき男を確認した』
そんな時、ミッチェルの無線が社内に響いた。
神谷真理は端末を開いた。
『周 建華。元中国人民解放軍だ。在籍当時、作戦行動中の独断での越境行動と虐殺行為が確認され軍事裁判にかけられた。だが逃亡している。その後、中国国内で数度のテロ行動を行い、国際指名手配となっている。その渦中で「奇跡の使徒」を設立している。バイオテロや貿易への攻撃を中心に経済への打撃に拘った攻撃手法を取っている。長きに亘る苦難には相応しいやり方だろう。今回の戦いでこの男を撃破してもらう』
『巨人』を除いた四人が肩を竦めた。
『奴らは二時間前に金属箱を大量に搬入している。件の炭疽菌である可能性が高い。炭疽菌の漏洩は周辺環境への影響が極めて高い。「白い悪魔」の言う様に航空隊からの大規模空爆の実行は出来ない。近距離での銃撃により敵を撃破してくれ』
ヘリの音が聞こえ始めた。
「ブギーマンのやり残しを俺らがやるわけだ」
神谷真理の言葉に『巨人』以外の三人が振り返った。
ミッチェルは答える。
『ブギーマンは今や強大な勢力になりつつある。影響力は凄まじく、スポンサーに「ノクト」と呼ばれる存在が付くほどだ』
「『夜』だと?」
ミッチェルの言葉に声を発したのは、『白い悪魔』だった。
「間違いなく『夜』なのかい?」
「誰だそいつは」
神谷真理が問う。
「軍事産業界トップの次期後継者だよ。五年ほど前から活動をしているが、相当ないかれ女さ。米国さえも彼女の機嫌を損ねたら軍事力が消え失せると言われるほど経済を実質的に握っている企業の重鎮だ。米国さえも彼女の機嫌を損ねないように猫なで声を出すと聞く。世界の諜報機関は彼女への接触禁止令を出しているとまで言われている程だ。それを懐に収めるとは、君のお友達は何者なんだい?」
知らん、と吐き捨てる神谷真理。
ミッチェルは続ける。
『その「夜」が付いた今、ブギーマンの組織は国家を凌ぐ勢いにまで拡大している。恩を売れるなら、売っておきたい』
神谷真理は気に食わないとばかりに新しい煙草に火を点ける。
知人の名前が何度も出ることが不愉快なのかもしれない。
「逆に、目を付けられないといいけどね。私なら、彼女と関わることを何が何でも避けたいよ」
『白い悪魔』はそう言って酒瓶を一気に空にした。
何か、その『夜』に対して思い入れがありそうだ。
神谷真理は興味ないとばかりに煙を吐いた。
ヘリの音が近付いた。
車の右側の窓に低空飛行のヘリが映り込んだ。
側面スライドドアから迷彩服を着た男が座り、手信号を送ってくる。
先を示している。
すぐに機首を下ろし先行する。
『巨人』もアクセルを踏み込み速度を上げた。
『白い悪魔』が神谷真理を見た。
「『夜』は世界その物だよ。彼女の視界には、何があっても入らない方がいい。挑んで勝てる存在じゃない。君のお友達は、残念だが長くない」
車が止まった。
神谷真理は、『白い悪魔』の言葉には何も答えず、車を降りる彼女を見送った。
神谷真理も煙草を握り潰し、車から降りた。
ヘリが着陸した。
『徹甲弾』から乗り込んでいく。
神谷真理は最後に乗り込んだ。
兵士から順に渡される弾倉を各々受け取る。
神谷真理は狙撃銃のボルトを引いてチャンバーの中身を確認した。
そこには一発の弾丸が込められていた。




