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閑話休題
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閑話休題・『復讐の虎』と『あだ名付き』のあの後

悪魔の王(ルシファー)』との戦闘の後、取り押さえられた神谷真理は結局処罰らしい処罰は受けず、釈放となった。

 今はその翌日。

 煙草を吸いながら歩いている。

 神谷真理はため息を吐く。

 昨日のことで、『あだ名付き』がただの問題児ではないことがよくわかった。

 争いごとを起こし、楽しんでそれを見ている。

 学生の喧嘩騒ぎではない。

 本物の銃撃戦を、鑑賞していた。

 そしてそれを起こした『悪魔の王』。

 狂っているという言葉が適格だとここまで思える連中はそうはいない。

 そんなことを考えて、彼は憂鬱になる。

 昨日は来たが、今日は来ないのではないか。

 どさくさに紛れてあの場から帰った者がいたことも神谷真理は見ていた。

 あの様子では出席もしない者多いだろうし、どうせ言うことも聞かない。

 また彼はため息を吐いた。

 彼は訓練場へ向かっていた。

 仏陸軍小銃(HK416F)狙撃銃(AWM)を装備して歩く。

 しばらく歩いて、角を折れて、訓練場としての使用許可を得た広場に出て、彼は眼帯を着けていない右目を見開いた。

 全員が、そこにいた。

 あの99人全てが。

 列の奥にあの檻もある。

 彼は目に入るその光景への不信感を隠しもできずに歩みを進める。


「お前ら、何を」


 神谷真理の言葉に、彼らは一瞥しただけで動き出す。

 昨日神谷真理が言い渡した班に分かれて行動を再開した。

 この行動を予測出来ていなかった神谷真理は困惑した。

 そんな時にあの赤髪の男、『フランスの暴風雨』が話しかけてきた。


「聞いたぞ。お前テイラーの弟子なんだってな」


 驚いて振り返る神谷真理に『暴風雨』は続ける。


「あいつによく似て、堅物だな。お前も」


 そう言って、彼は煙草を取り出して咥えた。

 どうやら自分で用意したらしい。

 彼は火を点けて笑って、神谷真理の胸を小突く。


「根性あるな」


 そう言って去っていった。

 そしてもう一人、短い金髪の、引き締まった肉体の青年が彼に寄ってきた。

 彼は自分の胸に拳を二度、打ち付けて、それからその拳を今度は神谷真理に向けた。

 確か名前は『イギリスの徹甲弾』。

 元ギャングの用心棒兼ストリートファイター。

 連続殴打殺傷事件を起こしたことで重要指名手配犯となったと記録にあったはず。

 逮捕後には一度どこかの軍隊に強制入隊させられた、はずだ。

 彼は笑って去っていった。

 その後ろに、『徹甲弾』と共にやってきたらしい黒尽くめでガスマスクを被った筋骨隆々の巨漢はその体躯に似つかわしくない程におどおどとした態度で手を翳してきた。

 ハイタッチ的な意味かと神谷真理も困惑しつつもそれに軽く指先を触れさせた。

 名前は確か、『アメリカの巨人』。

 爆発物のエキスパート。

 作戦行動中に独自に行動し、集落周辺を地図上から消したという凶行に至った狂人。

 逮捕後数年の服役を経てここへ。

 次に先日のロシア帽(ウシャンカ)を被った白髪の女性が現れた。

『ロシアの白い悪魔』。

 元々は北方の反政府組織に所属していた幼年暗殺兵。

 組織が壊滅したことで行き場を失ったが痕跡を残したことがなかったことで身元不明の「若者」として扱われた彼女は軍隊へ。

 そこで、ずば抜けた狙撃のセンス、癖を見破られた事で仲介人に捕捉。

 逮捕か入隊かを迫られ、ここへ来た。

 彼女はSVD(ドラグノフ)を担え銃で運びながら神谷真理の横に立った。

 彼女は開いているのかいないのかわからない目で彼を一瞥して、小さく笑った。

 彼女は何も言わず酒瓶を渡してきた。

 半分飲み干していた。

 去って行った彼らを振り返る。

 神谷真理。

 思い出す。

 彼ら四人が、全てテイラーと関係のあった人間だったと。


「俺以外のテイラーの弟子、か」


 煙草を吐いて、鼻を鳴らす。

 周りでは昨日指示に別れたグループで行動を待機していた。

 あの檻の所では一般隊員が鍵を外していた。

 首を傾げて、納得いかないままで彼は振り返ろうとした。

 そこで後ろに気配を感じる。

 大きな、威圧感だ。

 振り返るところで、動きを止めて、彼は口を開いた。


「『北欧最高神(オーディン)』、だったか」


「見ずに分かるのか? 若いの」


「鼻が利くんだ」


「一番年長者だから加齢臭でもするか?」


「そこまでは言っていない」


 今度こそ神谷真理は振り返る。

 35ほどの男だ。

 屈強で、自信をその顔に張り付けた男。

 元は反政府組織の統括を担っていた男。

 確かに、記録上は彼が最年長者だ。

 神谷真理をガキだといった人物だ。


「で、なんだ? 昨日伝えたが、忘れたのか?」


 皮肉を交えた神谷真理の質問に『北欧最高神』は答えず、話始める。


「あの制服の男(ミッチェル)に聞いた。部下の復讐、だとな。それで、国と戦った」


 神谷真理の雰囲気が一変した。

 凄まじい殺気を周囲にまき散らす。


「自分を尊重されなくとも動じないのに、部下の話題が出ると感情が出るのか。機械ってわけではないらしいな。その眼帯とネックウォーマーで隠している傷はその時に?ああいや、その部下を失った時に? 右目だけで不便そうだ。煙草を吸っている時も、わざわざ毎回、少し下ろしている」


 それに対して神谷真理は目を瞑って2度頷く。

『北欧最高神』も頷く。


「国と戦うなんてそう出来ることではない。それも、たった一人で。昨日の戦いも、実力は並のそれではないとすぐにわかった。相当な指導者がいたと見える。他の奴らと、少し話し合った」


 目を開く神谷真理。


「お前が最年少だ。少しだけ、年下を立てるのも悪くないと」


「随分と厚生したな。たった1日で」


「クソガキが」


『北欧最高神』は神谷真理の頭を掴んでその髪をぐしゃぐしゃと搔き乱した。

 神谷真理に突き飛ばされて彼は少し笑っていた。


「認めたわけではない。しかし皆お前に興味がある。お前の人生に。唯一情報が開示されていない『あだ名付き』の、お前の人生を」


 そう言って他の者たちと同じように『北欧最高神』は立ち去った。


「意味が分からん」


 その背中に独り言をぶつける神谷真理。

 首だけ振り返って『北欧最高神』。


「繰り返すぞ。誰もお前を認めた訳じゃあない。ただお前が2万人と戦うような馬鹿が次はどんな馬鹿を齎すか、皆が見たがっている。それまではお前に就く。それだけだ。従うわけじゃない。しかし、皆がお前を見ている。それだけだ」


 彼は体全体を振り返って神谷真理を指さす。


「今日からよろしく、隊長」


 言って、今度こそ去って行った。

 新しい煙草に神谷真理は火を点ける。

 3口ほど吸って、視線を感じた。

 見ると、『悪魔の王』が見ていた。

 神谷真理を見て、頷いて、去って行った。

 神谷真理は鼻を鳴らして、声を出す。


「訓練開始!」

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