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(絶対この国の者ではない。この国の令嬢は全力疾走なんてしない)


目の前を走る彼女を追いかけながらそんなことを考えた。

すぐに追いつくだろうと思っていたが、なかなか距離は縮まらず、仕方がないので本気で走る。



「おい、待て!」


俺の制止の声も聞かず逃げる彼女は、角を曲がると失速した。


彼女が曲がったそこは行き止まり。


逃げ場を失った令嬢は、後ろ姿からでも分かるほど慌てていたが、さらに壁際へと追い込む。


全力でそれなりの距離を走ったせいで、お互いに肩で息をしている。


「……何で、逃げた」

「………あの、えっと……」


問いに答えるでもなく、なおも振り返らない彼女にイラっとして腕を引いた瞬間、息を呑んだ。


「……な、んで」


夢に出てきた少女が……同じ顔をした彼女が俺の前に居る。


夢の中では触れることができなかったが、俺の手には確かな感触があった。

頭が真っ白になり、次の言葉を出せずにいると「こんな所にいたのですね」と俺たちの前に王子とシンシアが現れた。


「レオン?」

「令嬢の腕を引っ張って何してるんだ?」


怪訝そうな顔をした二人の言葉にハッとなり、彼女の腕を離した。


「申し訳ない」

「いえ……」


離した手を閉じたり開いたりして感覚を確かめる。


「彼女は先日国交を結んだ国の第2王女でね。遠方から遥々留学に来られたんだ」

「ミナト・スラヴィツカーと申します」


「えっ……」と思わず出そうになった声を飲み込んだ。


「殿下、シンシア様、レオン様と少し話をさせていただきたいのですが」

「……?ああ構わないよ」

「理事長に挨拶も済んだからレオン、後でミナト王女を王宮まで送って差し上げて?」


ミナトと名乗った王女に挨拶をした二人は、仲睦まじい様子で去って行く。


二人の姿が見えなくなったのを確認し、互いに向き合うと「先ほどは失礼な態度を取ってしまい申し訳ありません」とミナト王女が謝罪するので、俺は慌てる。


「こちらこそ大変申し訳ございません。王女とは知らず大変無礼なことをしてしまいました」

「いえ、私が悪いので気にしないでください」


一国の王女の割にとても腰が低い。追いかけて腕を掴んだのは俺なのに、なおも自分が悪かったと謝罪する姿は王女とは思えなかった。




彼女は俺と話がしたいと言っていたのに、口を開きそうにない。



王女をずっと立たせておく訳にはいかないので「場所を変えましょう」と言うと、「ここでいいですよ?」と校舎の出っ張り部分に嬉々と腰を掛ける王女。


文化の違いなのか?と戸惑っていると、ポンポンと自分の横を叩く。俺にこそへ座れということなのだろう。

ジャケットを脱ぎ彼女に「使ってください」と言うと「いえいえいえ……結構です」と全力で断られてしまった。


仕方ないのでジャケットを手に持ったまま、王女の隣に腰を掛ける。


「……私の話をしてもよろしいでしょうか?」

「!ぜひお願いします」


俺の言葉に嬉しそうに笑顔を見せる王女の姿が、夢の中の彼女と被る。


この話を王女にしても良いものか迷った。だがもしかしたら何か知っているかも知れないと、僅かな希望にかけることにした。



「──私は昔から変な夢を時折り見るんです。それもいつも同じ夢を」

「不思議ですね」

「そうなんですよ。異世界から来た幽霊だと名乗る彼女は私にしか見えなくて、たった一か月でいなくなってしまうんですが……目が覚めると心に大きな穴が開いたような寂しい気持ちに」


チラリと彼女を見ると、その目は潤んでいる。


「ミナト王女?」

「すみません……何でもないです」


そう言って俺から顔を背けるが、その泣き顔には既視感があり、無意識に彼女を抱きしめていた。


「れっ、レオン様!?」


その声に我に返った俺は「すみません」と慌てて腕を解くと、ミナト王女は耳まで赤くなり俯いていた。


無意識だったとはいえ、馬鹿なことをしてしまったと後悔していると、王女が口を開く。


「夢……じゃ、ないよって……言ったらどうしますか?」


頬を赤くしたままのミナト王女が、少しだけ顔を上げ俺の目をまっすぐに見る。


「えっ?」


彼女は立ち上がると俺の前にしゃがみ込み、顔を覗き込む。



『レオン様だぁ!やばっ……マジでイケメンすぎー!この興奮を誰かと共有したいー』



それは何度も夢で見た……彼女と最初に出会ったときの光景。



驚きのあまり言葉が出てこず、ただその目を見ていると、「へへっ」と口角を上げ、悪戯が成功した子供のように笑う。


「……夢じゃ、ないのか?」

「ふふっ……神様が時を巻き戻した影響か、レオン様には夢としてその記憶が残ったんですね」

「巻き戻した?」

「生誕祭の日、私は現実世界で死んでしまったんです」






「お願いします。レオン様と同じ世界に転生させてください」


神様の空間に戻されたミナトは、元の世界で治療の甲斐なく亡くなってしまったと伝えられた。そして今後のことについて尋ねられたため土下座してお願いをしていることろだ。


「んー……でも今転生したら、彼と年齢は離れるわよ?」

「えっ、それは……嫌、です。レオン様の幸せをそばで見守りたいんです」


レオンは今16歳。今すぐ生まれても16歳差……ミナトが一人で動けるように頃には領地に移動しているかもしれない。


(イケオジになったレオン様も良いけど、16年もそばで見守ることが出来ない)


「どうにかできませんか?」


無茶ぶりなのはミナトも分かっているが、姉神様は希望を聞いてくれると言ってくれた。わずかな希望にかけたが、懇願するミナトに姉神様は首を横に振った。


「……そうですよね」


肩を落とすミナトに声をかけたのは弟神様だった。


「──俺が、お前の希望を叶えてやる」

「えっ、できるんですか?」

「ああ、神様も全能ではないからな。何かあった時のために時を戻す力があるんだ」


姉神様は「この馬鹿」とつぶやき、呆れた様子で弟神様の背中を叩いた。


「でもこの力を使うには膨大なエネルギーが必要で、今使ってしまったら次使えるのは五百年近く先になってしまうの」


神様にも感情がある。

そのせいで管理する世界に異常が現れたとき、時を戻して元の状態に戻す力。ただ簡単に時を戻すことはできないため、よほどの災害などに見舞われない限り使うことはない。


「管理能力の高い神は感情にあまり振り回されないの。愚弟はまだ新米だから」

「俺のせいでお前が死んでしまった……だから」


申し訳なさそうに項垂れている弟神様を見て、姉神様は「はぁ……」とため息をついた。


「そうね……今回はこいつを挑発した私も悪かった。だからあなたの希望を叶えるわ。だ・け・ど・あなたが彼と精神体で出会った記憶は彼には残らないし、あなたが彼のそばにいれるかはあなた次第。それでもいい?」

「はい、良いです。どこにいたって必ずレオン様に会いに行くから」

「そう、分かったわ」






「神様が私を転生させてくれたのは東方の国でした。そのせいか見た目も名前も前世と同じなんです」

「お前の記憶はそのままなのか?」

「──思い出したのは13歳のときです。両親に同じ国の高位貴族から婚約者を選ぶって言われたとき、違うって心が拒否しました。何が違うのか分からなかったんですが、この国から国交の申し出があったとき……使者の方の顔を見て思い出したんです」


思い出したかのように「ふふふっ」と笑うので、嫌な予感がする。


「その使者ってもしかして……」

「ふふっ、レオン様のお父様です。とても良く似てますね」

「はぁ……」


目元を押さえ、ため息をつく。父親と似ているのは小さい頃から言われていた。

まさか父親を見て俺のことを思い出すとは……少し複雑な気持ちになる。


「そこから両親に毎日頼み込みました。国交を結ぶまでは当然留学なんてできないし、距離が離れているのでなかなか許可がもらえなかったんですが……私の粘り勝ちです」


嬉しそうに笑うミナトを見てレオンは気が抜けた。


「なんか複雑だな。夢だと思っていたのに現実だったなんて」

「なんか申し訳ないです……」

「でも心に開いた穴が塞がった気がする」

「……?」


──いつも同じ夢だった


だが時折り第三者として自分たちのやり取りを見たり、一人で行動する彼女の後を追いかけたりすることがあった。ミナトはいつでも俺のことを一番に考えてくれていた。

だから俺に言えず一人で抱え込んだこともあったみたいだ。


強く記憶に残っているのは最後の泣き顔。

涙を拭ってやりたくても、触れることさえできなかった歯がゆい気持ち。


そんな彼女が目の前にいて、笑っている。



「……俺に幸せになってほしいんだろ?」


ニッと口角を上げ笑う俺を見て、目を丸くしキョトンとしたミナトは嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。


「はい!レオン様は私の推しなので」


体の前で拳を握り、鼻息荒く頷く迷いのない彼女の返答。けれど俺はそれが不満だった。


「──ミナトが俺を幸せにしてくれないのか?」


拳を握っていた彼女の手を取り、唇を寄せる。


「……えっ?」


顔を真っ赤に染めて、狼狽えはじめる。


「俺はミナトが好きだよ」


そう告げると、眉を寄せ瞳に涙の膜が出来はじめた。


「……ほんと、に?」

「ああ」


頬に手を添え、溢れ出てくる涙をそっと拭う。


「──やっと……涙を拭いてやれる」


俺の言葉にミナトは微笑む。そして彼女の手が俺の頬に添えられ───その指で俺の涙を拭っていた。





「絶対に幸せにします!一生離さないんだから」


ミナトは腕を俺の首に回すとギュッと抱きしめる。

突然のことに驚いたが、俺も彼女の背中に手を回し抱きしめた。



「俺も、ミナトを幸せにするよ」






END


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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