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元マリオネットは少しだけ後悔する。

大分遅くなりまして申し訳ございません。一応これでデート編は完結です。


───あれから。


屋敷に帰ったその日からセオがその優秀さを発揮して、あれよあれよという間に私とセオの婚約が成立してしまった。

いや、嬉しいんだよ?嬉しいんだけど、なんか…

あんまりにもお父様が簡単に婚約を許可するから、逆に不安になって直接尋ねてみたんだ。


『そりゃあ他の男ならば、もっと時間をかけて調査してからじゃないと許可は出来ないがな。()()の優秀さやシェリナへの執着の強さは良く知っている。シェリナの事を最も見ているのも、知っているのも、考えているのも、悔しいが全て()()だろうからなぁ。』

『誘か、いや、駆け落ちされるかもって思ってたしね。シェリナの呪いが解けてからは、もうこうなるだろうとは思ってたよ……。準備はしてきてるから、安心しなさい。』


パパン……、誘拐されるかもって思ってたんですか?

思い返せば操り人形時代、セオ以外にも常に誰かしら私に付いてたっけ。護衛とか世話係のメイドさんとか。あれってもしかして、誘拐・拉致監禁を警戒しての事だったんですか…?


どうやらお父様には、予想を大幅に超えた心労をこれまでかけてきてしまったらしい。

疲れを滲ませた父の笑顔に、私に出来る全力で親孝行をしようと心に決めた瞬間だった。




「なんだか腹が立ちますねぇ。私はまだ良いなと思うお方と出会いすらしていないのに、セオドアが婚約だなんて。中身アレな癖に生意気です。」


「あ、あはは……。」


今、私とネイアは一息休憩を入れて一緒にお茶をしている。最近の私達はとっても忙しくて、その合間を縫ってのお茶会ともなると……まぁネイアの溜まった何かが愚痴って形で出ても仕方ないね。でも相変わらずなセオに対しての辛辣なネイアの言葉に、苦笑いしか出ないわー。ちなみに当のセオは不在です。

あのデートの後、ネイアには結果を報告して何故デートを計画したのか聞いてみた。



『そりゃあセオドアがお嬢様の事を重たいほど愛しているのは一目瞭然でしたもの。貧困街(スラム)では欲しいモノはしがみ付いてでも手に入れないと、生きていけません。アイツも何かを欲しがる事自体は少ないながら、必要な物はしっかり手に入れてましたから。お嬢様の事はらしくもなく我慢をしていたようですが、何か切っ掛けがあれば攫ってでも手に入れようとすると確信しておりました。』


『まぁ攫うまでもなく、あの手この手で囲い込んでくるでしょうけど。子供のころからセオドアにちょっかい出して逆に沈められた奴は相当数いるんですよ。陰険で狡猾で無駄に頭がまわって、ほんっと昔っからタチが悪くて───』


ネイアにとってセオは弟分みたいなものらしく、そんな事を言い続けながらも、その顔はちょっと嬉しそうに笑ってた。

今もネイアは悪態を吐きながらどこか楽し気だ。これでセオがいたら言い合いが始まるんだけど、その光景はまるで本当の姉弟みたいだな、といつも思う。


セオは、婚約が成立してからは伯爵家を継ぐ勉強のために屋敷をしょっちゅう留守にしてる。

今までは四六時中いっしょにいたのに、今は一日一度会えるかどうか。

…はっきりいって、寂しい。物凄く寂しい。



けどそれも一年の我慢。一年後には───



「ネイア。私のいない間に私の婚約者に要らぬことを吹き込まないでください。」


「セオ!?」


唐突に背後から伸びてきた腕がギュッと私の身体を抱き締めると、耳元でいない筈の人の声がした。

慌てて振り向くとそこには椅子ごと私を抱き締めてるセオの姿が。


「セオ、どうしたの?今日は夜まで帰れないって…。」


「リンに会いたくて、仕事を最速で終わらせてまいりました。また夕刻には行かねばなりませんが。」


ネイアに聞こえないよう囁きながら、離れたくないとばかりにギュウギュウ抱き締められる。ちょ、苦しいって!


「あーはいはい、イチャつくなら何処か別の所に行ってやってくださいませんか?…ったく、セオ。お嬢様だって色々忙しいんですからね。イチャつく時間が欲しいなら、自分の仕事が早く終わったそのぶん手伝ってくださいよ。」


「わかってる。さぁお嬢様、行きましょうか。」


「え?───うわぁ!?」


どこに?と聞く暇もなく急に体が抱き上げられて、つい色気もへったくれもない悲鳴を上げてしまった。

いわゆるお姫様抱っこ……ちょっと!これ予想以上に高い!怖いっ!あと猛烈に恥ずかしいっっ!!


「ちょ、降ろして自分で歩ける!」


「ではネイア。1時間ほどで戻りますので。」


「はいはい。時間厳守でねー。」


「ちょっとぉ!?」


必死で首根っこにしがみ付く私を意に介さずスタスタ庭園へと歩いてくセオ。セオの肩越しにネイアが笑顔でハンカチ振ってる姿を見て、なんとなく頭にドナドナが流れてた───




「……ン、リン?」


「ぅえっ?」


しまった。つい子牛が売られる歌を2番まで脳内で歌っているうちに、目的地に着いてたっぽい。辺りを見回すと見慣れた光景。私のお気に入りの庭園の片隅に作られたガゼボだ。

そのベンチに腰掛けるセオ。そして、その膝の上に横座りでチョコンと座らされてる私。


いや、なんでよ。


「ちょっとセオ。なんでお膝の上に乗せられるのよ。」


降りようとしても逆に抱き込まれてしまって、恥ずかしさにジタバタ暴れるのに全然離してくれる気配がない!

し、心臓が壊れ…っ


「~~~~セオってば!」


「…もう少しだけ。結婚式の準備に加え、爵位を継ぐ準備まで加わって色々疲れているんです。」


「~~~……。」


それを言われると何も言えない。顔が熱いけど必死で我慢して、労わりの気持ちを込めてお腹に周る腕を撫でると頭にスリスリと頬ずりされる。あぁぁあ、ますます頬に熱が集まっちゃうでしょ~!




───そう。一年後、私達は結婚して 夫婦になる。




正直、まだ実感はないんだけど……。

『王太子の元婚約者の結婚式』なんて変に目立っちゃうから小規模の式にしよう、と提案したけど、お父様もお兄様もセオも、更には使用人の皆さんまで何故かノリ気。

妙に大規模な式になりそうで、私とネイアは結婚式の準備で最近は忙しい。

特にセオは、同時に爵位を継ぐ予定だから大変なんだ。


「セオ。起こしてあげるから少しベッドで仮眠したら?」


あんまり長く寝ると夜に響くけど、10分程よこになって仮眠を取るだけでも疲れは大分違うし。


「添い寝していただけるんですか?」


「…………。」



ゴンッ!



「…痛いんですが。」


「痛いように殴ったからね!」


「何も拳骨で殴らなくても。」


なんか苦情が来てるけど無視して膝から飛び降りる。今度はセオも止めない。

あぁぁ、やっと早鐘打ち過ぎて逆に止まるんじゃないかと思った心臓が休憩できる……。


もう!最近のセオは心臓に悪すぎる!


「最近セオってば性格変わってない?やけに……その、ぅー、ベタベタ、してきたり……。」


改めてセオの隣に座り直して恨みがましい目を向ける、けど。さっきまでされてたベタベタの内容を思い出してすぐに目を逸らして語尾が小声になっちゃう。仕方ないじゃんか、彼氏いた経験なんて前世も今世もないんだから!免疫ないのよ免疫が!


言われたセオはキョトンとした後、何故かクスクスと笑い出した。


「そうですね。でもそれはリンといるから変わったのですよ?」


「はい?」


なんで私?


貧困街(スラム)にいた頃の私は、他人に対して興味がありませんでした。無感情だったと言ってもよいでしょう。ですが貴女と出会い、初めて他人に興味を持ちました。」


「?うん。」


それは前に聞いた事があるね。確か『シェリナ』の言動と瞳孔の収縮がまったく合ってなくて興味を引いたって。


「【瞳】のお嬢様は最初、感情を閉じていましたね。それが私の行いで徐々に感情を瞳にのせ、私に好意を寄せる愛らしい姿が私に庇護欲を。私しか知らないという事実が独占欲を。労りを、敬慕を、愛しさを、様々な感情を私に与えてくれました。」


「………う、ぇっ?」


突然の告白に戸惑って変な音しか出てこない。

いったいセオは何を?


「そしてリン。貴女と言葉を交わすことで、私は人を愛するという感情を得ました。そして、こうして触れると───」


「!!」


急に頬に伸ばされた手に、身体が勝手に跳ねる。

肩を抱き寄せられ密着する身体に、心臓がまたバクバクしだす。



「──真っ赤になって照れてしまう貴女を見て、とても愉しいと思うようになったのですよ。」







───………は?



「慌てたり、照れる貴女はとても愛らしくて、もっと見ていたいと思うのです。性格が変わったと思われるのはその為でしょうね。」



───なんだって?



「もちろん笑顔が一番好きですが、真っ赤になって瞳に涙を溜めた姿もとても魅力的です。それに貴女はどこもかしこも柔らかく、まるで中毒のように触れたくなるものですから。仕方ありませんよね?」


長年一緒に過ごしてきた私も見た事がない蕩けるような笑顔のセオ。だけど私は反対に蒼褪める。

何てことを暴露してくれたんだ。それってつまり、セオは───


「ア、ハハハハ。や、やっぱちょっと結婚は中止にしよっか?」


精一杯に腕をつっぱねて身体を離そうとするけど、びくともしない。

首筋に顔を埋められ、耳を甘噛みされて、囁かれる言葉……。





「今更、逃げられるとお思いですか?」






───なんてこと。


16年間、操り人形生活を強いられてきた。

それからやっと解放されて自由の身になったのに、今度はこのとんでもない人の腕に囚われてしまったなんて。


悔しさに睨みつけるけど、本当に嬉しそうに顔中にキスの雨を降らされて。





……まさかSな人だとは思わなかったけど、結局のところ


私は彼の事が大好きなんだよな、と。お返しのキスを一つ、彼に贈った───。






セオのSな部分はバラす予定は当初なかったのですが、なんか気づいたらその流れに…。イメージ崩れた場合は申し訳ございません!

本編に続く2人のお話はこれで完結です。ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

あとは番外編としてヒロインの話を一話だけ考えています。


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