エピローグ
「そういえば、二人でお墓参りに行くのって初めてじゃない?」
「私は一人でも行ったことはなかったですね」
ある日の昼過ぎ、そんな会話が聞こえてきた。
「・・・それはちょっと、どうかと思うけど」
冷たい風が吹いたせいか、あるいは少しの罪悪感からか、少女は身を縮こまらせ弁解するかのように言った。
「だって、お墓の前で手を合わせたからといってその人に会えるわけじゃないですし。あまり意味がないように感じてしまったんですよね」
実際お墓にはいませんでしたしね、と言って白い息を吐いた。
「そういうことじゃなくて。亡くなった人を想って、忘れないようにするために手を合わせるんじゃないの?」
「でもそれって、結局は生きている人のためのものじゃないですか」
「頑固ねえ・・・。いいじゃない、細かいことは気にしないで。お墓参りに行くっていうこと自体に意味があるのよ」
「そういうものですかね・・・」
まだ納得していない様子の少女に苦笑を漏らしていたが、ふと気になったことを尋ねた。
「そういえば、もう死んだ人は見えなくなったの? 願いはかなったんでしょ?」
訊かれた少女は、困ったように眉をひそめた。
「それが、まだ見えるんですよね」
「え、そうなんだ。じゃああれも見える?」
どれですか? と指の先をたどると、そこには一匹の猫がいた。尻尾を上に持ち上げ、優雅に歩くその猫は確かに真っ黒な体をしていたが、
「あれは普通の黒猫ですね」
「あれ、ばれた?」
黄色の目をした黒猫に視線を向けながら、少女は言った。
「雰囲気が違いますからね」
「まあ、さすがにわかるか。それにしても、どうしてまだ見えるのかしら。もともと見えていなかったんだから、願いがかなった後は見えなくなりそうだけどね」
「私もそう思ったんですけど・・・。まあ、願いがないのに生まれつき見えている人もいるわけですから、考えても仕方のないことですよね」
「後遺症みたいなものかしら。とりあえず、またあんな怖い目に合わないように気をつけなさいよ」
「わかっていますよ」
不意に、鳥の羽ばたく音が聞こえた。足を止めてそちらに目を向けると、一羽の鳥が地面に降り立ったところだった。
初めて見る鳥だった。かといって奇抜な色であるわけでもなく、特徴的な体の部位があるわけでもない。「ハト」や「カラス」などの細かい区分ではなく、「鳥」としてまとめられてしまいそうな、そんな鳥だった。
この鳥はどこから来たのだろう、と少女は思う。遠い街から飛んできたのだろうか。海を渡ってきた可能性も否定できない。もしかしたら、世界旅行でもしてきたのかもしれない、と。
その鳥に触ろうと少女が手を伸ばすも、十分な距離があるうちに飛び立ってしまった。
目的地が定まっているかのように一直線に飛んでいく鳥を、しばらくの間名残惜しそうに見送っていた。
その鳥がまだ見えるうちに視線を外すと、少女は尋ねた。
「お墓まで、あとどのくらいですか?」
「まだしばらく歩くと思うけど・・・。休憩する?」
「いえ、大丈夫です。行きましょうか」
少女は再び歩き出した。
今回が最後だと思いましたか?
残念! 騙されましたね!
次回でおしまいです。




