最終Passion
言ってやった。言ったんだ。どうだ、意地っ張りなわたし。頑張ったよ、頑張った。ねぇ、隼人様。わたしちゃんと言えたよ。ねぇ、翔。聞こえてた?
「……聞こえないし」
なんだとぉぉおおお?!
翔がそんなふうに言ってきて、わたしはそんなささいなことでやっぱりカチンときてしまう。
たしかに声は小さかったけど、聞こえないはずないんだから! バカケル、バカ!
わたしは翔の胸に埋めた顔を勢いよくあげて……でも翔の顔を見たら文句なんか何も言えなくなった。
「見んな、バカ! バカ伽耶! ブス!」
わたしの顔はまた翔の胸の中に埋まってた。
一瞬だけ見た翔の顔はすごく真っ赤だった。わたしの言葉で、翔が動揺してるんだって分かった。耳を澄ましてみたら翔の心臓の音も大きくなってる気がして。なんだかそれが嬉しくて。
「翔、好きだよ」
「……もう、いいから。お前ちょっと黙って」
「すーきー」
「だから……っ」
「すーー……」
「あぁぁあぁぁ、もうっ! お前は本当に!!」
調子に乗って「好き」をいっぱい言ってみるわたしを、翔は勢いよく引き剥がす。そうして、そのまま翔は叫んでた。
「俺も好きだ! バカ!」
クリスマスツリーの下。
大好きな人に告白されたら幸せだろう。そんなことを考えてた。でもそれもやっぱり他人事で。自分には絶対ありえないことだろうなって思ってた。
憧れてたこと。でもわたしには遠かった。
それが現実になって、嬉しくて、嬉しくて、わたしはどうしても堪えきれなくて泣いてしまったんだ。
「か、ける……ぅぅうぅっ」
「あぁあぁ、またブスがブスになるぞ」
「ううぅぅっ、ブスブスブスブス言うなぁ! わたしだって、わたしだってちゃんとすれば……っ」
「可愛いんだろ? 知ってるってのバーカ」
そういうのは反則って言うんだ。いつもブスブスブスブス言ってくるくせに。なんだってこんなときだけ優しいこと言うんだ。嬉しいこと言うんだ。
「伽耶」
翔がわたしにキスしてる。
他の誰でもなく、わたしが翔とキスしてるんだ。
こんな、みんなが見てる前でキスされて、いつものわたしなら怒鳴り散らしてやるのに。卑怯者、翔のバカ、バカケル、バカ!
「君とここで、キスしたかったんだ……だっけ?」
ほらまた隼人様の真似して。でも翔はまだまだなんだから。隼人様はここでちゃんとプレゼントの髪飾りを……。
あれ……嘘。髪飾りがついてる。
「な……なにこれ」
「クリスマスプレゼント。俺なりに選んだんだからな。ときマスに似てるやつ」
翔はやれやれと言った様子でわたしのことを見てる。うそ、やめてよ。また涙が出ちゃうから。何よ何よ、わたしの前では滅多に隼人様の真似しないくせに。完璧な真似なんて嫌なんだから。隼人様は隼人様で、翔は翔なんだから。
それなのに、それなのにどうしてこんなに嬉しいの。……バカ、翔のくせに、バカバカバカ!
「お前のそれも、俺へのプレゼントだろ?」
翔はわたしが持ってるプレゼントを見てる。忘れてた。わたしの手元にはまだ捨ててない翔へのプレゼントがある。そのあたりのゴミ箱に捨てようとしていたプレゼント。
こんなの渡せない。こんな嬉しいプレゼントもらったあとに、こんなの渡したくない。
「違う! 違うんだから! これは翔のじゃ……あ!」
翔はわたしの腕から無理やりプレゼントバッグを取って、中に入ってる箱も簡単に開けてしまう。やめてよ、やめて、本当に見ないで! 違う、違うんだから、それは!
「……お前、これ」
「健康を考えたコケシ人形と、お腹空いた時に見ると満腹感が得られる刻み海苔煎餅のストラップ!」
慌ててそんなふうに言ってみる。笑うなら笑え! もうどうにでもなれ! こんな最高のプレゼントもらっておいて、わたしはなんて変なプレゼント送ってるんだ。もういやだ、消えてしまいたい。笑えよ、ほらはやく!
「お前の手芸センスくらい知ってる。これ……バスケットボールのつもりだろ? で、これが俺? 全然似てねーけど。俺もっとかっこいいし」
な、なんで分かるの! ていうか、何してるの翔! 翔はエナメルバッグにそれを吊るしてる。いやだ、やめてよ。そのコケシ呪いの人形みたいじゃない。嘘でしょ、本気でそれつける気なの?
「いや、いいよ、翔! つけないでよ、そんな変なの!」
「別にいいよ。変でも。……変なのつけても、俺かっこいいし」
何なのこいつ! なんでこんなナルシストなの! 本当最悪だ。最低最低っ! でも、なんでホッとしてるんだろう。なんで……わたしのバカ。そんなのもう分かってるんだ。
嬉しいんだ。翔がちゃんともらってくれて。
一生懸命作ったんだ。渡せないって一度は諦めたんだ。でも翔はそれでもいいって、いつもいつも、最後の最後でわたしを嬉しくさせるんだ。
「彼女がくれたもの、つけないわけないだろ。……ありがとな、伽耶」
あぁ、ほら。涙が溢れて止まらない。
「バカ、バカぁ……うっ、うぅぅっ」
わたし、翔の彼女になったんだ。隼人様を抱きしめて、翔の彼女になったんだ。あぁ、目が痛い。明日また目が腫れてマヌケ面になるのかな。でも、もういいや。
「翔……かける、大好き」
「当たり前だ。バーカ」
ジングルベルが鳴ってる。
今日は楽しいクリスマス。
「俺も好きだよ、伽耶。……お前が好きって言ってくれて、俺すごく……幸せだ」
翔は恥ずかしげもなく言ってる。だってそれは翔には慣れた隼人様の真似だから。また隼人様の言葉借りてる。
「……隼人様の真似はやめてって言ってるのに」
「またお前はそうやって……って、あれ? あんまり怒らないんだ?」
「ツリーの下で喧嘩したくないだけだもん!」
そう、そうなんだけどね。でもわかってるんだ。
隼人様はね、『好きって言ってくれて、俺すごく……嬉しいよ』って言うんだ。
それは翔にとって、ただの間違いだったかもしれない。でも、わたしは単純だから「幸せだ」って、そこはシナリオじゃなくて翔の気持ちなのかなって。そんなふうに思ったの。
「……翔」
シナリオ通りじゃない、誰にも分からない気持ちだから嬉しいんだ。次の言葉が分からないから恥ずかしくて。
だから翔にも伝えたい。伝えなきゃって思った。
わたしと同じ喜びを翔にも分かってほしいから。
「わたしも、幸せ……かな」
意地っ張りなわたしだけど、ちょっとだけ頑張ってみたんだ。
◆◆◆
「伽耶、何書いてるの?」
「お守りにいれるメッセージ!」
手芸女子の意見を参考に、わたしはお守りの仕上げとしてメッセージを書いていた。
「へぇ? 『好き』って?」
「ち、違う!」
杏ちゃんにも内緒のメッセージ。好きよりも、もっともっと根本的に、わたしはね。
『これからもずっと一緒にいてね』
翔とずっとずっと一緒にいたいんだ。
◆◆◆
乙女ゲームの模範生!〜Christmas Passion〜【END】
ダッダッダッダッズザザザザァ……ッ(効果音)
ジャンピーング土下座!(作者の動作)
完結遅くなってすみません。そしてグダグダですみません。供述(言い訳):それでも作者は全力でした!
実は澤谷さん編ともう一つ案がありまして、でももう2人をくっつけちゃいたくてこっちの話にしました!
第2章のグダグダ展開をそれでも楽しんでくれた皆様ありがとうございました。
またの機会があればよろしくお願いします。
穂兎ここあ




