Passion12
クリスマスまでの1週間、仲直りも兼ねたこのサプライズクリスマスプレゼントが翔にバレるわけにはいかない。
どうせやるなら驚かせてやるんだ。そう決めたわたしは、大好きな隼人様としばしの別れを告げてあれから毎日杏ちゃんの家に通ってる。
自分の部屋で作っていたら、翔にバレるかもしれないから。最初はそういう理由だったのだけど。
「杏ちゃん。これ何に見える?」
とりあえずフェルトで作ってみたバスケットボールを杏ちゃんに見せると、杏ちゃんは美しい二度見を披露してくれた。
「伽耶さん。わたしの耳と記憶が正しければあなたはバスケットボールを作っていたのでは?」
「そうだよ。そのつもりだよ。バスケットボールを作りたい意志を途中で違えたりしていない!」
「ドヤ顔で言われてもね。どう見てもそれ、刻み海苔が散らばった煎餅じゃない。どこ間違えたらそうなるの」
杏ちゃんの厳しいお言葉がとんできた。泣いてもいいだろうか。わたしは自分の手に乗っているふわふわなお煎餅……じゃなくてバスケットボールを見つめた。
杏ちゃんの例えはなんとも的確だ。わたしも自分が作ったものじゃなければ「わぁ、美味しそうなお煎餅」って言うよ。
「フェルトも綺麗に丸に切ってたのに、どうしたらこんな歪な形になるわけ」
「おっしゃる通りでございます」
「バスケットボールの線もどう縫ったらこんな刻み海苔みたいになるの」
「わたしにもさっぱりでして」
フェルトはちゃんと真ん丸に切った。杏ちゃんに綺麗と言わしめるほどにしっかり。それなのにサイズのあった丸いフェルト同士を縫い合わせていったら、いつのまにかこんなボコボコになっていた。
バスケットボールの線だってそう。生え始めの眉毛みたいにポツポツと黒糸が線路を描いてる。できないなら黒いフェルトで線を貼ればいいのに、頑丈にしたいからって調子に乗ってしまった。
「伽耶さん。すぐ出来そうだし、マフラーも編んでみようかなって……誰の発言でしたっけ」
「すみません。軽率なバカのお言葉は無視してくださいませ」
よーく考えてみたら当たり前の話。趣味乙女ゲーム、特技妄想、そんなわたしは手芸どころか料理も苦手なわけで。どうして一瞬でも手芸ならできるなんて思ったのだろう。
いや、分かってる。あの手芸女子に感化されたことは間違いない。あの子、見た目からのんびりしてたし、面倒なのは嫌いそうな雰囲気だったし。
そんな子にできるなら私にもできるだろう、とか、簡単なんだろうな、とかそんなふうに思ってました。なめたこと考えてて本当すみません。
「手芸がこんなに難しいなんて……よっぽど数Ⅱ解いてたほうが楽だよ」
「そう思うのは伽耶くらいよ。丸型に線を何本か付け加えればいいだけじゃない。ほれ」
杏ちゃんはそう言って杏ちゃんの作ったバスケットボール試作品をわたしに放る。ふっ、なんだかんだ言って杏ちゃんもお煎餅作ってるんでしょ? やれやれ、一緒に笑ってあげようじゃ……なんだっ、これはっ! ば、バスケットボールじゃないか。杏ちゃん…杏ちゃぁぁぁん、あなたという子は本当天才ですか!
「杏ちゃん、なんでこんな上手なの!」
「普通だよ」
「誰かに作ったことあるでしょ?!」
「ないよ」
「うそだうそだ! 初心者だと思ってたのに裏切り者! 信じない信じない信じない」
「信じなくてもいいけど」
「信じてます!」
杏ちゃんのはちゃんとバスケットボールに見える。なぜだ、何が違うんだ。違いすぎて何が違うのかも分からない!
え、もうこの杏ちゃんが作ったの渡せばいいんじゃない?
「それ、クラスの女バスの子にあげる予定だから。伽耶は自分で頑張ってね」
心読まれてたぁぁぁあ! どうしようどうしよう。バスケットボールすらうまくいかないのに。これユニフォームまで作れるの? ていうか作れる気でいた過去の自分は何者だよ。殴ってやりたいわ。
それ以前に、クリスマスに間に合うのか? これ。




