Passion13
「できたぁぁああああ!」
結局出来上がったのはイブの前日。昨日が終業式だったから、今日丸一日使ってやっと出来上がった。
結局どんなに頑張ってもバスケットボールは刻み海苔煎餅から進歩しなくて。でもそれをカバーするため、翔に似せたマスコットも頑張って作ったんだ。本当頑張ったと思う。手なんか絆創膏だらけだよ。
でもなんか指が絆創膏だらけって女の子っぽい。
「マスコットも作るって言い出したときはとうとう血迷ったかと思ったけど、頑張ったね。カケルくんに全然似てないけど」
最後の言葉は聞かなかったことにするよ、杏ちゃん。それ以上は言わないでおくれ。コケシみたいだなんて失礼な。
「このバスケットボールとマスコットを一緒に吊るしてー……あ」
わたしは最後の仕上げに取りかかる。あとは綿を詰めて少し縫えば終わりだ。お気に入りのメモ帳を手にとって……いや、さすがにときマスのメモ帳はダメだな。改めて、杏ちゃんからもらった可愛らしいウサギのメモ帳にすらすらと文字を書いた。
◇◆◇
今日はクリスマスイブ。
翔とはあの日以来全く喋っていない。いつもならそろそろ喧嘩をふっかけてくる頃なんだけど、翔のほうもどういうわけか全然喋りかけてこなくて、杏ちゃんの家から帰ってもわたしの部屋に来た様子はなかった。
本当に愛想つかされたんじゃないかなって、少し不安はあった。
「あれ、伽耶? もう冬休みでしょ? 学校行くの?」
制服を着てリビングに現れたわたしを見てお母さんがびっくりした顔をしてる。
「うん。ちょっと質問に」
「あら、そう」
それも嘘じゃない。授業で分からないままだったところがあるからその質問に行く予定だった。でも1番の目的は別。
わたしは小さなレターカードを握りしめて、家を出て行く。
「翔くんとちゃーんと仲直りしてきなさいね」
でもやっぱりお母さんにはバレバレで。なんでだろうって思ったらわたしの右手右足が同時に出てた。
◇◆◇
化学の先生に質問をして、疑問も晴らしてスッキリしたわたしはその軽快な足取りのまま体育館のほうへと向かっていた。
なんとなくバスケをしてる翔の姿でも覗いて帰ろうかな、なんて思って。わたしは本当に浮かれた頭をしてた。
「あ、かけ……っ」
体育館の前、水道で顔を洗う翔がいた。
「カケルくん、パーティーは今日の18時、駅前のカラオケだからね!」
でもそのすぐ傍にタオルを持った澤谷さんがいて、嬉しそうな澤谷さんの声がわたしの足を止めた。
「ああ。……手ぶらでいいんだっけ?」
翔が澤谷さんからタオルをもらって顔を拭いてる。それを見てわたしは反射的に柱の影に隠れた。
翔、今……「ああ」って言った? え、嘘。だって……だって行かないって……あのときまでは……そう、あのときまでは言ってた。
「まぁたそんなこと言うー。だぁめ。……付き合ってはじめてのクリスマスなんだから!」
「はいはい。分かってるよ」
付き合って……? ちょっと待って。
澤谷さんも翔も何言ってるの。
翔ってばそんな爽やかに笑って、なんで否定しないの。その言葉も全部演技……だよね? うそ……嘘だよね? あれは、ただの喧嘩で。だって、だってだって。プレゼントって……。
「ちゃーんとわたしが喜ぶプレゼントにしてくれた?」
「約束通り、な? 澤谷の好きそうなものくらい把握してるつもりだよ」
やめてよ。……やめて。なんで、また隼人様の真似して。『君の好きそうなものくらい把握してるつもりだよ』って、それは隼人様がヒロインにプレゼントをあげるときのセリフじゃん。そして、そのまま隼人様はヒロインにキスするんだ。
翔が澤谷さんの前でそれ以上隼人様の真似するの、見たくない。またキスするのなんか……見たくない!
わたしは逃げ出した。信じたくなくて。
あのままずっと見てたら、いやでも思い知らされる気がして。翔は、翔は澤谷さんと……。
「……いっっ!」
「うわっ……あ」
またしても額から人にぶつかっていった。もう額の湿布は剥がれてるけど。ぶつかった相手が人だからそんなに痛くもないけど。でも痛い。痛い痛い痛い。
「水原先輩?」
その声を聞いて、わたしは単純すぎるくらい勢いよく顔を上げた。見下ろす楠原くんは心配顔だ。
その顔はいつも通りかっこいいのに、なんでだろう。なんでガッカリしてしまうんだろう。いつからこんな贅沢になったんだ。バカバカバカバカ。わたしのバカ! 最低だ! 最低、最悪、バカでブスで、料理も、手芸だってまともにできなくて……。本当……本当どうしようもない、ガリ勉女。
「水原先輩……大丈夫っすか? 翔先輩、今部活中、ですよね?」
翔に会いに来たこと、楠原くんには分かるんだ。楠原くんの目に、わたしはどんなふうに映ってる? 意地張りすぎて1番やってはいけないミスを犯したバカ? 身の程知らずの自惚れ女? いっそのこと、楠原くんもわたしのことバカにしてください。
「……うっ、ううっ」
泣くな、わたし。楠原くんの前で気持ち悪い泣き顔見せちゃダメだ。絶対絶対泣くな。堪えろ、堪えなきゃ。わたしは右足を振り上げて、自分の左足を思いっきり踏みつけた。
「い……っつつつつ!」
「み、水原先輩? ちょ、足大丈夫で……」
「ああぁぁあぁあ!」
わたしは顔をあげて大きな声で叫ぶ。痛い痛い。足が痛い。涙が出るのは足が痛いから。足が痛いから泣いてるだけ。自業自得で泣いてるんだ。だから楠原くん、なぐさめないでね。
「ごめんね、楠原くん。わたしバッカだなぁ。足痛すぎて涙が出ちゃう! あははっ!」
だから、そんな哀れむような顔しないで。全然たいしたことないんだから。
「それじゃ! 楠原くん、部活頑張ってね!」
楠原くんにひらひらと手を振って、わたしは痛い足を跳ね上げた。後ろで楠原くんが呼び止めるけどわたしは聞こえないふり。走って走って、どこまでも逃げてる。
手遅れって言葉は嫌い。
でもこれは正真正銘の「手遅れ」で。わたしは自惚れてたんだ。調子に乗ってたんだ。
いろんなことがうまくいきすぎて……そこまでうまくいってたわけでもないけど。
どんなに逃げても時間は巻き戻らなくて。
握りしめてたレターカードも、いつのまにかなくなっていた。
「……どっかに落としちゃった」
サンタさん、どうかわたしにタイムマシンをください。そしたらわたしは1週間前のわたしを殴りに行きます。ううん、たぶん2ヶ月前に戻って全部、全部やり直します。
「もう……いらないか」
笑っちゃう。こんなことを思う時点でほら、もう手遅れなんだ。




