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報い

 深夜の街を、けたたましいサイレンを響かせながらパトカーが走り抜ける。

 それも、一台や二台ではない。

 近隣の警察署にある全てのパトカーが駆り出されているのではないかと思うほどの台数のパトカーが街を駆け抜け、更には街の要となる道路を両者線とも封鎖していた。

 まるで、世間をひっくり返すようなテロ事件でも起きたかのような異常な事態に、街行く人は何事かと振り返り、家に居た人も恐る恐るカーテンから外の様子を伺う。


 そんな異様な雰囲気に包まれた街の中で、人の目を忍ぶように闇へ、より深い闇へと移動する人影があった。


「クソッ、ここもダメか……」


 失った指を庇いながら苦悶の表情を浮かべる男、合田だった。

 合田はクオリアの光の道場に警察が入り込んだ際、信者と警察との間で衝突が起きたどさくさに紛れて脱出したのだった。そのまま闇に紛れるように移動し、この街から去るつもりだったが、合田が移動するより早く警察が非常線を引いた所為で、足止めを喰らっていた。

 舞夏に噛み切られた指はどす黒く変色し、少しでも動かすだけで失神してしまいそうな程の激痛が走る。一応、噛み千切られた指も拾っては来たが、この指が治る見込みは無いだろう。それどこころか、このまま放っておけば取り返しのつかない事態になるかもしれないが、それでも合田は足を止めるわけにはいかなかった。

 あの場に残れば、クオリアの光の関係者として逮捕される。普通に街を出ようにも、検問で怪我の理由を問われれば、そこから自分の罪が暴かれるかもしれない。かと言ってこのまま街に残れば、仕事の失敗の責任を取らされる為に連中からの追っ手が差し向けられるかもしれなかった。


 そうまでして合田が街の脱出に固執するのには、ある理由があった。

 それは、あの少年から向けられた真っ直ぐな言葉。その言葉が、合田の心の中に巣食っていた心の闇に一筋の光を射してくれたのだ。


「今度こそ、僕はやり直してみせる」


 それが何時になるかはわからない。しかし、どれだけ時間がかかろうとも、何度壁が立ち塞がろうとも、諦めずに必ず真っ当な人間になって、舞夏の元へ正式に謝罪しに行こう。

 それを成すには、誰にも見つからずに街から脱出するしかない。

 そう考えていた合田は、人目を気にしてより人気のない方へと移動を繰り返していた。

 そうして、細い路地を何度も折り返して進んでいると、


「あがっ!?」


 突然、後頭部に激しい衝撃が走り、合田は床を転がる。

 何事かと理解するより早く次の衝撃が襲いかかり、合田の体がおもちゃのように地面を跳ね回る。

 何度も何度も繰り返しやってくる衝撃に目の前が血で真っ赤に染まり、耳元で骨が砕ける音を耳にしながら合田は自分に襲い掛かってきた物の正体を見た。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 眼鏡をかけた、大人しそうな印象を受けるとてもこんな凶行に出そうにはない男だった。

 男は全身を震わせ、合田を何度も殴りつけた金属バットを握り締めながら呪詛のように呟く。


「お前が……お前が悪いんだ。愛実を……愛実を奪ったお前が!!」


 その言葉で合田は理解した。この男は、合田が過去に攫った女の関係者である、と。

 合田は少年が言った「いつか関係者からの報復があるだろう」という言葉を思い出した。

 これが報い、というやつか。合田は決して逃れられない自分の罪の重さを再認識した。

 その後も、男は訳のわからない事を喚きながら、尚も合田の全身を殴り続けた。

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