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ひとまずの安堵

「兄ちゃん!」


 進が合田を倒したのと同時に、歩が進に駆け寄ってその背中に飛びつく。


「兄ちゃん、兄ちゃん、兄ちゃん!」

「ハハッ、痛いって。歩、少し落ち着けよ」

「でも、でもでも、歩、本当に怖かったんだから」

「ああ、わかってるよ。本当に無事でよかった」

「……うん」


 進は歩をどうにか宥めて地面に下ろすと、足を引き摺りながら舞夏の元へと近付く。


「進……」

「待ってて。今、拘束を解くから」


 進は舞夏の後ろに回ると、舞夏を束縛しているロープを解いてやる。

 ロープは思ったより硬く結ばれていたので解くのに手間取ったが、その間舞夏は文句一つ言わず、進に全てを任せていた。


「ふう……どうにか解けたよ」

「ありがとう。進」


 ようやく高速から解放された舞夏は、頬を赤く染めて進に礼を言う。

 進は笑顔で頷きながら舞夏と歩の様子を確認する。

 歩は怖い目には遭ったようだが、特に変った様子はない。舞夏の方は、顔が殴られた所為で腫れあがっていたり、拘束されていた部分にロープの痕が残ってはいたりはしたが、一生消えないような傷を受けるような事はなかったようだ。

 最悪の事態は免れた事に、進は安堵の溜め息をつく。


「二人とも、本当に……本当に無事でよかった」

「それもこれも、進が来てくれたからだよ」

「うん、ありがとう兄ちゃん。カッコよかったよ」

「ハハ……俺一人じゃどうにもならなかったけどね」


 進がここまで来られたのは、御神楽クリーンサービスの皆の助力あってのことだ。

 進一人では、二人を助けるどころか、見つける事も出来なかっただろう。

 その皆は、今も舞夏たちを助ける為に動いているのだ。ここは一刻も早く二人の無事を知らせるべきだろう。

 そう思って進は立ち上がろうとするが、


「いづ……」


 痛みに顔を歪めると、腹部を押さえて蹲った。

 突然、倒れた進を見て、舞夏の顔がみるみると青ざめていく。


「ど、どうしたの進。そ、そういえば進、銃で撃たれた所は大丈夫なの?」

「兄ちゃん。大丈夫?」

「ふ、二人とも落ち着いて。一応は大丈夫だから」


 進は慌てる二人をどうにか宥めると、上着のファスナーを下ろす。

 中から出てきたのは、合田が撃った銃弾の弾が何発もめり込んだ黒い防弾チョッキだった。

 進が無事だったのは、この防弾チョッキの存在が大きい。

 しかし、防弾チョッキは、拳銃の弾から致命傷を受けるのを防いでくれるが、その衝撃までは防ぐ事は出来ない。

 近距離であれだけの数の銃撃をを受けたのだ。進の肋骨の何本かは、確実に折れているだろう。

 それに、右太ももに受けた傷からも血が流れ続けている。

 笑ってはいるが、進の顔色は真っ青で、明らかに血が足りないのが伺えた。


「ちょっと待ってて」


 進の状態を確認した舞夏は、自分の制服のスカーフを取ると、銃で撃たれた右太ももに布を巻いて止血する。途中、止血布が足りなくなったら自分の上着を遠慮なく破り、見事な手際であっという間に進の足を止血して見せた。


「止血はしたけど、一刻も早く病院に行った方がいいわ。ほら、進」


 そう言うと、舞夏は進の下に潜り込むようにして肩に手を回す。


「ちょ、ちょっと舞夏さん……」

「恥ずかしがっている場合じゃないでしょ。ほら、とっとと立ち上がる!」

「痛っ、いたたたた。もう少し優しく」

「はいはい、文句ならここから無事に出たら聞いてあげるわよ」


 調子が戻ってきたのか、舞夏は乱暴な手つきで進を立たせる。

 手洗い歓迎を受けながらも、進はそんな舞夏を見て嬉しく思った。

 この姿こそが、進のよく知る舞夏だったからだ。

 舞夏の肩を借りながら、進はゆっくりを教祖の部屋を後にする。

 その途中、


「ま……待って。舞夏ちゃん」


 意識が戻ったのか、仰向けのまま、合田が顔だけをこちらに向けて弱弱しい声で話しかけてきた。


「置いてかないでくれ。僕はただ、君とやり直したかっただけなんだ。信じてもらえないかもしれないけど、嘘じゃないんだ」

「――っ!」


 その言葉を聞いた舞夏の顔が、怒りで紅潮する。


「あなた、この期に及んで……」

「舞夏さん、待った」


 犬歯をむき出しにして怒る舞夏を制止して、進が舞夏に変わって合田に向き直る。

 進が出て来た途端、合田は敵意を剥き出しにする。


「何でお前が出てくるんだ。僕は舞夏ちゃんと話しをしているんだ!」

「あんた。あれだけのことを仕出かして、まだやり直せると思っているのか?」

「煩い! 煩い! お前に僕の何がわかる!」


 合田は涙を流しながら喚き散らし始めた。

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