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悪の巨塔

 廃屋の外に停めてあった黒のワゴンに乗り込み、進たちは舞夏と歩が監禁されているというクオリアの光の道場がある近くまでやって来た。


 進達が降りた場所は、県道から一本裏道に入った閑静な住宅街だった。


 日付も既に変った事もあり、辺りに人気は全くなく、灯りは門の前に備え付けられた灯りぐらいで、それ以外は正に漆黒の闇が広がっている。

 何が出てきても可笑しくない、不気味と言っても過言ではない雰囲気は、とても同じ市内とは思えなかった。

 進はクオリアの光の道場が見えるという路地に入り、優貴と二人で息を潜めて待機していた。


「な、何だか異様に薄暗い所ですね」

「ここら辺は金持ちが多く住む区画だからな。商業施設もないから一般庶民はまず近付かない。外灯が極端に少ないのは、道路の殆どが私道だったりするからだ」

「な、なるほど……」


 優貴の言うとおり、ぐるりと見渡して目に映る物は、何処まで続くのかわからない家をぐるりと囲む塀と、上から飛び出した庭木ぐらいだった。

 確かに雰囲気は不気味としか思えないが、それでも金持ちばかりがすむ区画なのだ。ここまで夜の闇が深ければ、さぞ治安も悪かろうと思うが、目を凝らして辺りを観察すると、塀の上に、夜の闇に紛れるように監視カメラがそこら中に設置されているのがわかった。

 ここで不穏な動きを少しでも見せたら、何処からともなく警備会社の人間がやってくるか、家の中から黒服の男が出てくるのかもしれない。


「それで……どれがクオリアの光の道場なんですか?」

「ああ、ここからでは門ぐらいしか見えないが、あれだ」


 優貴は顎で彼方を示す。


「あれが……」


 目を向けると、そこには昔ながらの趣をもちながらも、近代的な手法で造られた木で出来た巨大な門があった。

 門の向こう側は、何処までも高い塀が続き、ここからではその先がどうなっているのか、ましてや中にどんな屋敷が建てられているのかもわからなかった。

 あそこに舞夏と歩がいるんだ。そう思うと、居ても立ってもいられなくなる。


「まだ動くなよ? 今、城戸が中の情報を探っているから、突入するのはそれからだ」


 今すぐにでも飛び出して行きそうな進の肩を、優貴が掴みながら注意する。


「だ、大丈夫ですよ。わかってますから」


 進は頷くと、深呼吸を一つして、自分を抑える為に拳を強く握る。

 少しでも気を紛らわすために、門の様子を観察する。

 道場への唯一の入り口と思われる門は、当然のことながら閉じられており、煌々と灯りで照らされた門の前には、筋肉隆々の二人の男が直立不動の姿勢で立っていた。

 他の家とは明らかに違う物々しい雰囲気に、進は息を飲む。


「な、何だか道場と言うより、その道の人の邸宅って感じですね」

「あながち間違いでもないだろう。あの団体の中には、話し合いではなく暴力で物事を解決する事を専門にしている部署もあるらしい。あそこで立っている連中は、正にそういう類の人間だろう」

「な、なるほど。でも、これだけ監視の目があるところで、人を拉致監禁なんて可能なんですか?」


 首を巡らせると、ここからでもカメラが発する赤いランプが相当数確認できる。

 この中を誰にも見つからず、更に怪しまれずに動く事など可能なのだろうか?


「いや、逆だよ進君。これだけ厳重に見えるからこそ可能なんだ」


 進の疑問を、優貴は「フン」と鼻を鳴らしながら一蹴する。


「どういうことですか?」

「ここら辺りに住んでいる人間は旧家、つまり昔からの由緒ある金持ちではなく、一代で金を稼いだ成金が殆どだ」

「はあ……」

「彼等は他を蹴落として上へと登りつめた者たちだ。それ故、自尊心が高く、自分と同じ立場の人間を余り快く思わない傾向がある。悪い言い方をすれば、ここの人間は、自分の財産さえ守れれば他はどうなってもいい。むしろ、破滅してくれと願っている」

「そんな……こんないい所に住んでいるのに、隣近所でいがみ合っているのですか?」

「ああ。だからこそ、ここでは自分へ害が及ばない限り、他人へ関与しようという輩は現れない、といっても過言ではない」


 無論、全員がそうではないがな。と言って優貴は話を締めくくるが、進は何だか釈然としなかった。

 誰もがお金持ちを目指して日々仕事に励んでいるはずなのに、それを成し遂げた人は、人として大事な物を忘れてしまっているような気がする。


「お金を持っていても、そんな状況を幸せと呼べるのですかね?」

「さあな、幸せなんて人それぞれだ。いくら金があっても幸せと思わない人もいれば、金が無くても幸せだと言い切る人もいる。だが、少なくとも今回は、そのお陰で思いっきり暴れられるから、私としてはありがたい限りだ」


 優貴は犬歯をむき出しにして物騒に笑うと、指を豪快に鳴らした。

 優貴の獰猛な表情に、進は出てきた唾液を飲み込んだ。

 この人が味方でよかったと思う。

 優貴の迫力に比べれば、門の前に立つ男なんか精一杯虚勢を張る子供に見えた。

 進は隣に立つ人を誇りに思いながら、その時を待った。

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