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一方、その頃

 意識を取り戻した舞夏の目に飛び込んできたのは、白色の世界だった。


 一瞬、自分が死んでしまったのではないかと錯覚したが、体を動かそうとした途端に体の節々に痛みが走り、自分がまだ生きている事を自覚した。

 車に乗った所までは記憶にあるが、そこから先の記憶が無い。

 車内に入ると同時に、何か薬品を嗅がされた記憶はあるから、きっとそれで歩と同じように気を失っていたのだろう。

 辺りを見渡すと、そこは十人以上が軽くは入れる広さの何も無い部屋だった。

 床から壁、入り口の扉から天井に至るまで全てが白色で、天井から注がれる蛍光灯の灯りによってその色が更に際立ち、目を開けているだけで疲れてくる。天井付近には、人一人くらいがどうにか通れそうな窓が見えるが、脚立無しでは到底届きそうに無い。窓の外は、既に漆黒の闇が広がっており、合田に連れ去られてからかなりの時間が立っていると思われた。

 意識を取り戻した以上、一刻も早くこの場から脱出しなければと思う舞夏だったが、手と足をロープで拘束されていた。

 これでは脱出を図る事はおろか、満足に動く事も出来ない。

 それに、


「歩ちゃんは……」


 歩も一緒に連れ去られたのだ。だとしたら彼女もここにいる可能性が高い。

 歩は巻き込まれただけで、今回の件とは無関係なのだ。

 何があっても、あの子だけは絶対に守らなければならない。

 もし歩に何かあったら、進に合わす顔が無い。

 舞夏は体の自由が利かない中、必死に首を動かして歩の姿を探した。


「あ、歩ちゃん!?」


 よく見ると、部屋の隅に少しだけ高くなっている所があり、そこに歩が寝かされているのが確認できた。


「歩ちゃん! しっかりして!」


 舞夏は尺取虫のように体を動かし、這うようにして歩へ近付く。

 歩が寝かされているのは、白いシーツがかかったベッドのようだった。


「………………ほっ」


 歩の様子を見た舞夏は、思わず安堵の溜め息をついた。

 遠くから見たときは、ぴくりともしない歩の様子に気が気でなかったが、こうして目の前まで来ると、歩の小さな胸が僅かながら上下しているのが伺えた。


「本当に、本当によかった……でも」


 最悪の事態だけは回避できたようだったが、状況は何一つとして好転してない。

 自分は今も囚われの身で、ここから出られる算段すらないのだ。

 合田と一緒にいた人間が誰なのかは不明だが、明らかにまともな人ではないことだけは理解できる。

 これから自分は、一体どうなってしまうのだろうか?

 何をされるのかは想像もつかないが、碌でもないことに決まっている。

 絶望しか見えない状況に、舞夏は出て来た涙を拭う事すら出来ず、嗚咽を洩らす。


「ううっ……優貴さん助けて……進……」


 不安を吐露するように出た言葉に、進の名前が出た事に舞夏は気付かなかった。

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