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色男

 それから進は、二人が行きそうな所を虱潰しに回った。


 よく買い物する近所のスーパーは、残念ながら閉店時間を過ぎていたので無駄足だったが、近くの商店街へと赴き、店じまいをしていた店主を見つけては二人の行方を聞いてみた。しかし、返って来る返事はどれも色好いものではなかった。

 それ以外にも、念の為にと普段は全く行く事のないゲームセンターやカラオケ店にも顔を出してみが、二人の姿は何処にも見当たらなかった。


「クソッ! どうしたらいいんだ」


 夜になり、昼間は休業している店が開き始め、その姿を色とりどりのネオンで装飾した街並みは、いつもの知っている街の姿とは違う色を見せる。その所為か、まだこの辺の地理に詳しくない進は、あっという間に手詰まりになってしまった。

 それどころか、自分が今、何処にいるのかも定かではない。

 せめて会社の誰かと連絡がつけばと思うが、肝心のスマートフォンが役に立たない。

 こんな事なら、家を飛び出す前に少しでもいいから充電しておけばよかった。

 進は動かないスマートフォンを地面に叩き付けたい気持ちをどうにか押さえ、苛立ちを紛らわせる為に、親指の爪を噛みながら次にどう動くべきが思案していると、


「あれ、進君? こんなところで何をしているんだい?」

「あ……城戸さん」


 顔を上げると、酔っているのか、ほんのりと顔が赤い城戸の顔があった。

 城戸の隣には、胸元が大胆にカットされたナイトドレスを着た妙齢の女性が城戸にしなだれるように付き添っている。どうやら、本日仕事が休みだった城戸は、いつもの女性との逢瀬に精を出していたようだった。

 進は女性の扇情的な姿に思わず目を逸らしながら、藁にもすがる思いで口を開く。


「城戸さん……あ、あの、舞夏さんと、妹の歩を見ませんでしたか?」


 進からの質問に、城戸は隣の女性と顔を見合わせ、揃って首を傾げる


「いや、見てないけど……何かあったの?」

「それが、二人ともまだ家に一度も帰ってないんです」

「帰ってないって、どっかにご飯を食べに行ってるんじゃないの?」

「それはないです。夕飯を食べに行っただけでこんな時間までかかるのもあり得ないですし、何より二人ともまだ一度も帰宅した様子がないんです」

「なんだって……」


 その言葉に、城戸は形の良い眉を顰め、おとがいに手を当てて思案顔になる。

 そのまま暫く黙考した後、


「すみません、霞さん。今日の予定、キャンセルしていいですか?」


 突然、隣の女性に腰を九十度折り曲げて謝罪の言葉を口にした。


「え~、今日は朝まで付き合ってくれるんじゃなかったの?」

「本当にすみません。ですが、僕の仲間がピンチなのかもしれないんです」

「かもしれないって……可能性だけで私との約束を反故にするの?」

「この埋め合わせは必ずします。ですから、今日だけは勘弁してください!」


 頭を下げたまま必死に懇願する城戸を睥睨していた女性は、小さく嘆息すると、


「もういいわ。裕也君のそこまで真剣な顔見たら、断れないじゃない」


 観念したように両手を上げた女性は、城戸の手を取って立たせて妖艶に微笑む。


「でも、その代わりに今度たっぷり楽しませてもらうわよ?」

「は、はい。それはもう任せてください! とりあえず、今日のところはこれで……」


 城戸は歯を見せて快活に笑うと、いきなり女性の顔を掴んで唇を重ねた。


「うわ……」


 突然、目の前で始まった二人の淫蕩な行為に、進は顔を赤くさせ、堪らず目を逸らす。

 そんな進をどう思ったのか、女性は進に見せ付けるかのように城戸の唇をむさぼる。

 人目も憚らず愛を確かめ合った二人が離れるのには、たっぷり一分以上は有した。


「それじゃあ二人とも、何があったかは聞かないけど、気をつけてね」


 女性は最期に、城戸と進に投げキッスをして去っていった。

 それにどう返していいかわからず、進があたふたしていると、城戸が進の肩に手を置いて歯を見せて笑う。


「それじゃあ、進君。行こうか?」

「え、行くって何処に?」

「う~ん、そうだね。とりあえずお腹が空いたから、何か食べられるとこ行こうよ」

「…………えっ?」

「いいから、いいから」


 城戸は進の肩に手を回して首をロックすると、暴れる進を無視して歩き始める。


「い、いやいや、ちょっと待って下さい」


 進は全く言う事を聞いてくれない城戸の腕を振り払おうとするが、


「くっ……このっ!」

「ハハハ、おとなしくしてよ。くすぐったいじゃないか」


 城戸の手は、まるで銅像で出来ているかのように硬く、いくら力を振り絞ってもビクともしなかった。


「な、なん……で!?」


 この事実に、進は愕然となった。

 父親のなんちゃってサバイバル生活に無理矢理つき合わされてきたお陰で、不本意ながら進の身体能力は、同年代の友人とは一線を画していた。

 だが、そんな進の誇りとも言える能力を、力を、城戸はものともしないのだ。


「お願いだから放して下さい。俺は歩たちを捜さないといけないんだ!」

「はいはい、わかったわかった。進君は真面目で偉いね~」


 言う事を聞かない飼い犬を無理矢理引っ張るように、城戸はその端正な顔を崩すことなく、嫌がる進を引き摺るようにして夜の街へと消えていった。

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