第一話: 石を拾った
紀伊山地の奥深く、数日前まで続いた猛烈な台風の爪痕を色濃く残していた。
土砂崩れによって剥き出しになった山肌から、手の平くらいの大きさの石が見えた。
雨水でできた濁流にのまれた、その石は流されるように転がれ落ちていく。
土砂を落とされると何年もの間埋もれていたとは思えない透き通った琥珀色の輝きを放つ。
そしてその石は意思を持っているかのように跳ね、誰かを待ち構えるように山道の脇で静かに止まった。
5月の大型連休の休みになり、薙沢 尊は山道を一人歩いていた。
大学での生活―実学的な論理と退屈な社交、それらに少しばかり気疲れしまった彼女は
近くの山に参拝して、身も心も清めようと考えていた。
先週までの台風から天気は回復し、晴れ日となり、絶好の登山日和だった。
山道を歩いていると夫婦杉の壮大な景観に目を奪われる。
(静かで壮大だ)
手を合わせて祈りを捧げる。
さらに奥深くまで歩いていると道端に不思議なほど光を放つ石が落ちていた。
尊は手に取ると石は彼女の指先を求めていたのように脈打った気がした。
なにか重要なものと感覚的に思い、尊はその石をポケットに忍ばせた。
アパートに戻った尊は机の上に置いた石を眺めていた。
時刻は23時、夜分ではあるが室内灯に照らされたその石は一層輝きを増していた。
その石から、細い、掠れた声が聞こえた気がした。「…助けて…」
「…面妖な…」
尊の血筋は代代続く目に見えないモノを断つ家系だった。怪異を感じ取ることができた。
尊はベッドの下に隠した護身用の懐刀を取り出す。
精神を研ぎ澄まし、石の筋を見定め、刀身を石に当てる。
パキリと乾いた音が室内に響いたと共に石が割れ、
中から強い光が輝きだし部屋全体が白光に包まれた。
光が収まった後に視界に飛び込んできたのは無機質なテーブルの上には不釣り合いな光景だった。
テーブルの上には古風で上質な白い絹の衣を着た少女が横たわっていた。
短めの黒髪が散らばっている。
尊は呆然と立ち尽くした。
少女は深く安らかな眠りについている。
その幼くも整った寝顔を見た瞬間、理屈では説明できない熱が生まれた。
(不覚にも可愛いと思ってしまった)
尊は頬を赤らめ、慌てて視線を逸らした。
それが、二人の少女の出会いだった。




