第2話「非日常(イレギュラー)」
いっぱしの魔法使いですが、レベル1ソロでダンジョンを踏破します
「君には、ソロであのダンジョンを踏破してもらう」
1ヵ月も過ごせば、非日常はもはや日常である。
高校生ながら、魔法使いとしてダンジョン攻略までこなす優秀な私、キャメルは、苦悩していた。
「ハンバーグ、いや唐揚げ、、生姜焼き、、お魚も捨てがたい、、」
時刻は午後6時。少し早めの、今日の晩ご飯だった。
必死に思考を駆け巡らすも、最適解は導き出せない。彼女の目は、無限の可能性を示し続けている。
1度選んでみて、後悔するようならそれに変えればいい。という師匠の教えに従って、まずはハンバーグの札を選択。
「これを逃すと、次は一週間後、、」
やっぱり後悔したので唐揚げの札を取り直して、中央でひときわ活気のついた大きな三角屋根の天幕へ向かう。
外にまで漏れる暖かな光に導かれるようにして、のれんをくぐった。
中は、かなり広々といったところだろうか。
整ってこそいないが、街のみんなが一生懸命運んできた木のテーブルや椅子は、今日のダンジョンを終えた大人たちの祝杯も相まってとてもワイルドな仕上がりとなっている。
電気がまだ復旧していないため蝋燭の灯りを基調としている。
「わぁ、、きれいだな、、、」
何度見ても大災害の後とは思えないような活気に、柔らかな安堵を覚える。
「唐揚げをお願いします」
「あら、キャメルちゃん、またダンジョン行ったの?若いのにすごいわねぇ」
「あ、え、えへへ、、あ、ありがとうございます」
と、軽い会話をしつつ、入り口近くのカウンターで食札を渡した後で、一人用の木で出来た席に座る。
少しボーっとしていると、料理が出来たようで、おばちゃんがこっちに手を振っている。
今日の晩ご飯は、先ほどの葛藤を乗り越え唐揚げとなった。
ここで出てくるものは、どちらかと言うと竜田揚げに近い。
その衣の心地よい食感と、口の中いっぱいに広がる脂が言葉にできないハーモニーを醸し出している。
「はふぅ、、、」
ゆっくり30分はかけて確かな幸せを消化し、ここで一息。
先ほどのダンジョン攻略後に隊長からもらった、迷宮侵入者証を提示すると、代金が無料になる。
ここで食事をするのは今日で6回目になるので、つまり、キャメルは無料の時にのみこの食堂を使っていることになる。
その事実に思い至り、些かいたたまれない気持ちになるが、おばちゃんの
「まだ若いのに、キャメルちゃんは本当にすごいわ」
という嬉しそうな顔を思い出し、少し気分を持ち直して、食堂を後にした。
外に出ると、ちょうど太陽が沈みかかっており、地平に映る橙色の一閃が斬りかかってくるような錯覚を起こしていた。
広場では、まど多くの人が復旧作業をしていた。屈強そうな男性が重そうな資材を運んでいる。
普段はこの時間にはもう家に戻っているので気がつかなかったが、日が沈んでもまだこの人たちは働くのだろう。
街の復興には、かなりの時間を要している。元の状態に復元することは出来なくても、また多くの人が訪れるような活気を取り戻そうと、みんなが頑張っている。
この街にはまだこんなに人がいたのだな、と高校生ながらに思う。
かくいう自分も、あの後に残っているなんて変わり者だと思われるのかもしれないが。
私は、怖かった。
運だって立派な実力だと、私は思う。たまたま勉強が出来ただけとは言っても、せっかく都会の高校に進学できたのだ。
このチャンスを大災害に潰されて終わりにしたくない。
何となく足早になって、用もないのに駆け足で家の前の階段を上がった。
帰っても何となく落ち着かなかった私だが、時間は残酷に過ぎるものだ。
日は落ちきっているし、時計も踊っている。
ーーー
午後11時を越えたところで急に現実に呼び戻され、目を覚ます。
「あ、日記」
今日の分をまだ書いてなかったな、、と思い、机に向かって、ろうそくに命を灯した。
高校に進学して以来、私は日記を書くようにしている。
書いたものはどこに送るわけではないが、両親と会った時に一緒に読み返そうとか、そういう事を考えて書いている。
1日の記憶を納める私の日記帳は、何だかんだで2冊目に突入した。
昨日で頁の右下まで来てしまっていたたので、新たに世界をめくって、今日の日付を記した。
8月22日。
あと1時間足らずで終わってしまう今日を追いかけるようにして、今日の出来事を残していく。
10分たった辺りでほとんど思い出す行為を終了した。
いつもなら、迷宮に侵入したことを1番に書いていたはずだが、今日は何だか、ご飯の後のあの光景が頭から抜けてくれない。
そわそわして落ち着かないことは好きではないので、諦めて1冊目の日記帳を取り出した。
こうなるのは何度目だろう。
今の不安を解決するのは未来の自分だけど、今の自分は過去の自分の意志決定によって存在している。
ということは、今の自分が悩んでも今の不安は解決しない。
何とも理不尽な話だと思うけど、未来の自分を知ることは出来ないので過去に頼るしかないのだ。「今」は、薄氷のフチにギリギリで立っているのだ。
結局、自分の日記を読み返して気持ちを落ち着かせることにした。
ーー
「今日は高校の入学式だった。」
「隣の席の人と喋れた。」
「実技の授業だった。自分より魔法が上手な人がいた。自分も頑張ろう。」
ー
ー
ー
ひらひらとめくっていく。
手が、止まる。
「大災害が起きた。今は、書きたくない」
最終的には、こうして「残る」という判断をしたわけだ。
「全部が怖くて、この場所から逃げたかった」
人生にぽっかりと空白ができてしまうのが、怖かった
「逃げたくて、逃げたくなかった」
どうにも、離れようと思えなかった
「自分は、まだ力になれた」
実技にしろ筆記にしろ、私は成績が良かったし、街の大人のお手伝いができた。
「今に、向き合うことを決めた」
ーーー
自分でも何でここに残る選択をしたのか、答えは出せていない。
でも、後悔はしてない。
言葉にはできないけど、確かに私の中で、今を生きるという結論を出して、ろうそくもつけたまま、私は机と一体になった。
キャメル
・17歳
・地方王立学校2年生
・魔法使い
・レベル18




