第1話「日常(バランス)」
いっぱしの魔法使いですが、レベル1ソロでダンジョンを踏破します
「君には、ソロであのダンジョンを踏破してもらう」
だれかの日常は、だれかにとっての非日常である。
高校生魔法使いである私、キャメルは戦っていた。
何と戦ってるのかって?それは、
「魔導書ッ、魔法生命力吸収、照射準備!」
「火槍!」
敵とである。
本で見たことのある、食虫植物によく似たモンスターの2mはありそうな口腔を、火槍が突き抜ける。
矢尻が少し見えるあたりの所で霧散。モンスターの絶叫が硬質な壁を伝って脳に響いた。
あの手のモンスターは往々にして内側からの圧力に弱い。
内側に入ってくるものは既に瀕死状態であり、じっくり養分にするだけなのだから。
もう一つ言うなら、たいていのモンスターは炎に弱い。
人間もそうだ。炎は力の象徴であり、力は恐怖の象徴なのだということを、私は良く知っている。
「テッド先生!奥からもう1体来てます!」
テッド先生は、元は身体育の教師である。今は、チームの前衛としてパーティを率いる隊長である。
技後硬直が解け、必要のない思考をシャットアウトし、前方へ指示を飛ばす。
普段から瞑想をするようになって、思考の切り替えが少し得意になった気がする。
「次の火槍まで20秒!」
魔法を放った後は、反動で自由が効かなくなる。技後硬直と呼ばれるものだ。
この長さは魔法によって異なるのだが、先刻放った「火槍」は、今の私ならキッカリ3.0秒である。
そして、魔法には忘却時間も存在する。この時間が経たないと同じ魔法を連続で使用することはできない。
こちらは、25秒より短く、24秒より長い。
というのも、忘却時間については、同じ魔法を使い続けることで、減少するのである。
教本の隅に小さくコラムとして載っていたあの文字を見たとき、当時小学生だった私は大いに感動した。
火球を大量に放ち、その効果を実感、、することはなかった。
ムスッとした表情で先生に伝えて実践すると、大層嬉しそうな顔をしながら、効果を実感できてないだけでちゃんと早くなってるわ。
と、そんなようなことを言われた。
実際、火槍においては、最初25.1秒かかっていたのが、25秒を切ることが出来た。
最も、大災害の前の平和な時の話で、今はもう少し早くなっているのだろう。
それを計測するほど悠長に構えていられない。
「次!いきます!」
敵の予備動作を確認し、蔦のなぎ払いを察知。詠唱を開始した。
詠唱にはいくつか手順があり、ここをトチると高確率で発動失敗する。
「魔導書」
始めに、使用するシステムを宣言する。
「魔法生命力吸収」
ドレインとあるが、実際には自分から魔法に吸収させているのである。
この1文を理解するまでに相当な時間を要したことを覚えている。
「照射準備」
集めた魔法生命力に指向性を持たせて、放つ準備を整える。
「火槍」
魔法の名前を呼出することで、実際に魔法が放出される。
炎を纏った槍が空気を切り裂き、かなり奥にいる食虫植物由来の敵の口腔に命中。
その様を目で追いながら、よし、と心の中でガッツポーズを決めた。
食虫植物の形をした何かが、灰になって砂のように溶けていき、
カラン、と軽快な音を立てて、モンスターの生きた証、生命結晶が自由を謳歌する。
モンスターの心臓部は結晶化しており、これを生命結晶と言うのだ。
食虫植物ライクなモンスターのそれは、緑がかった碧色をしており、綺麗だな、と思いがけず目が吸い寄せられる。
ーーーーー
少しの休憩の後で、次のモンスターと戦う。
最初こそ向こうから迫り来るのだが、日が経つにつれてそのパターンは減り、代わりにこちらが進軍することが増えた。
もちろん、街に被害が及ばないために組まれたパーティなので、必要以上の進軍はしない。
時計を見ると、侵入から6時間が経過している。
テッド先生の判断で、次の接敵をラストにすると決まった。
複数の重たいものが這いずる音が聞こえる。
見えた。一足先に両手で杖を構える。
普段は移動しやすいよう背中に携えて、接敵次第持ち替えるのが今の私のトレンドだ。
「火槍いきます!」
あの大災害から、2ヶ月が経過した。
迷宮侵入は今日で6回目だ。
火槍の使用回数は今回ので30回に達する。
そんなことを考えている内に、3体ほどいたモンスターが生命結晶に変わっていた。
キャメル
・17歳
・地方王立学校2年生
・魔法使い
・レベル18




