最終話 青藍の空に叫ぶ【睦月空】
屋上でサボり魔な少女と出会ったあの日。
二ヶ月にも満たない塾にも関わらず、私を厄介払いせず笑顔で居てくれた少女と、中学で再開を果たしたあの日。
その少女と共に居た、目が不自由ながらも、己の信念を曲げずに、弱みを見せないカッコ良さのある少女と出会ったあの日。
サボり魔な少女が『面白い人連れてきたよー』と言って手を引いて来させた、ドギマギするパッとしない少女と出会ったあの日。
日々を積み重ねる内に、私は皆と居ることが楽しくなって、知らず知らずそんな日常が当たり前になっていた。
一枚のチケットを手にして向かった、たった三分間のステージでのライブに憧れを抱いたあの日。
軽音楽部を立ち上げて、皆でワイワイ歌ったあの日。
カラオケでの特訓中に観た、路上ライブの動画に感動を覚えたあの日。
お見舞いに行ってひたすら米を口に突っ込ませていたあの日。
私たちのオリジナル曲を初めて聴いたあの日。
そして、オーディションをドタキャンして、皆で青く輝く夜空に泣いて叫んだあの日。
ひとつひとつの選択が、今の私たちにとって大切なパーツで、皆の思いがあったからこそ、とうとうこの日を迎えることが出来た。
夢、夏、蒼、翼、そして私、空。
私たち五人のバンド、
『五線譜』が、大きな舞台で歌う日が。
もちろん、五線譜というバンド名は、夢が作詞作曲した、私たちの初めてのオリジナル曲である『五線譜』が由来。正直これ以外のピッタリ合うバンド名は思いつかなかったわ。
バンド『五線譜』は、今となっては色々な方から提供された曲や、個性的なオリジナル曲を歌う、ある程度知名度のあるバンドになった。
人工の白かめPとは特に上手く行っていて、私たち五人の為の曲をいくつも提供してくれている。
でも、初のステージ、初のライブで歌う最初の曲は当然決まっている。
持ち前のセンスで流行りに乗った曲を作った翼の曲。
楽しく朗らかな童謡をベースに作った蒼の曲。
DJがキュキュッってしながらテンションがぶち上がる、陽キャなラップ曲を作った夏の曲。
どれも良いオリジナル曲ばかりだけど、やはり私たちの運命を変えた曲、
『五線譜』を冒頭に歌うのが筋ってもんよね!
「空、君にしては珍しく緊張してるみたいだね。どう? 『緊張してます』って正直に言ってみれば? あ、この台詞は元々君のものだったね」
緊張してますよー!
初ステージの本番前なら誰だって緊張しますよー!!
翼は人をいじれるくらいには余裕あるみたいだけど、内心どうなの?
ほら、やっっっぱり翼も緊張してるじゃん!
まぁでも?
前みたいに強がらずにしょーじきな事を言えるようになったのは成長よね!
はは、これがいじり返しってやつよ。
「空っ、見て見て! 足の震えが止まらないの! これ絶対新記更新したよ! 生まれたての小鹿を超えて、電動歯ブラシになった気分!」
電動歯ブラシってどゆこと??
蒼は逆に緊張することに慣れすぎなのよ!
歌い出したら絶好調だけど、これが毎回だったら心配で心臓が持たないわ。
え?
私の足も面白いくらいにプルプルしてるって??
バ、バカヤロう!!!
んな訳……ちょと、ちょーとはあるけど、蒼には言われたくないわ!
「そらっち~、昨日ウチが貸した漫画読んだ? 三十七話に出てくる推しキャラがさ、最っ高のタイミングで血しぶきあげて退場するのっ、めっちゃアガる展開だったよね!」
もう、もうもう!
夏はどうして緊張のきの字も知らないのよ!?
隣で電動歯ブラシしている奴を見習いなさい!
……て、ちょっと待って、私その話まだ読んでないんだけど!?
本番前に鉄板なネタバレされて気持ちを下げようとする新手の嫌がらせなの?? え???
あー、緊張する時は趣味の話をして気持ちを紛らわせるって?
……ふん、夏のそーゆう、逃げても結果が前に進むような手段は嫌いじゃないわよ。
「………………」
え?
あんたからは何一つない訳?
「いや、本番前に傷の舐め合いみたいなさ、面倒じゃん。意識すれば悪化しそう」
マ、マトモだ!
一番マトモな奴が夢とか~ムカつく!
「フフ……特に悪化しそーなのは空だしね。皆、空の緊張をほぐほぐする為に声掛けてたんじゃん」
うっ……
そうよ、この中で一番緊張してるのは私よ。
今までして来た努力が、認められなかったら、水の泡になったら、皆の足を引っ張ってしまったらと思うと、自然とこうなっちゃうの。
私が初めて楽しく努力したことだから。
私が初めて自分じゃなくて誰かの為に努力したことだから。
怖い。
……ありがとね、私を心配してくれて。
でも大丈夫よ!
怖い以上に、楽しみとワクワクが止まらないの。
皆となら、絶対良いライブになるって信じてる……
いや、これは確信よ!
絶対良いライブになる!
皆と一緒に歌うことが、一番の勇気になる。励ましになる。情熱になる。だから───
私たち『五線譜』は、誰も見た事ない輝きを放つに違いないわ。澄んだ空を覆い尽くす、星月夜すら霞んでしまうような。そう、銀河系にすら劣らない。
さぁ、行こう。
私たちの初ステージへ。
「青春を叫ぶわよ!」
~完~




