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第三話 狙われたアイドル(十七)

「このホテルに泊まっているのを知っているのは?」


「森下さんとワタルさんと……そうだ、歩実ちゃんも。

 報道のことでとっても心配してくれたから、こっそり話したの。歩実ちゃんは前の事務所にいたときからの親友だし、ワタルさんのことでいつも相談に乗ってもらっていたのよ。

 ここで会って告白するってメッセージを送ったら、頑張れって応援の返事を送ってくれたわ」


 親友という立ち位置を演じながら、歩実は梢とワタルの情報を探っていた。今の会話をもとに調査すれば、沙樹に行きつくかもしれない。


「森下さんもここに泊まっているのかい?」


 梢はいぶかしげな顔をしながらうなずくと、森下の部屋を教えた。


「梢ちゃんはすぐに部屋に戻って、森下さん以外には連絡を取らないこと。

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「あ、はい」


 ワタルは首を傾げる梢を見送り、時間をずらすために店に残った。待っているあいだ、日下部に電話を入れる。


『歩実は梢が前にいた事務所のタレントだな。そうか、予想通り黒幕はあの内部の者だったか』


「それよりも心配は沙樹です。梢ちゃんとの会話から沙樹にたどり着くでしょうか?」


『なんとも言えないな。それより西田くんは今回のことをどこまで知っているんだ?』


「まったく知らせていません。梢ちゃんに手を取られて、最近はろくに会えていないから、報道を聞いたら信じてしまうでしょう」


『そうか……』


 電話の向こうから朝の情報番組らしい声が聞こえる。


『西田くんには何も話さないでおくか。事情を説明したい気持ちはわかるが、会って話すのはもちろん、電話やメールもよせよ。

 下手に動いて彼女の存在が見つかれば、新たな火種になりかねない』


「電話やメールも、ですか?」


『一度連絡したら、会いたくなるだろう? そんなところを見られたら、西田くんの存在をアピールすることにならないか?

 突きとめられたくないなら、徹底したほうがいい。

 バンドの仲間とも連絡するなよ。西田くんに北島の居場所を訊かれたら、彼らのことだ、沈黙を通せないな』


 日下部の心配はもっともだ。下手に事情を説明した上で口をつぐませるより、最初から何も知らせない方が、沙樹やメンバーの負担にならない。


『事情を説明したい気持ちもわかる。だがここは最悪のことを考えて行動してくれ。

 西田くんのことだから、居場所を知ったら絶対に会いに行くぞ。周りが止めてもな』


「では……おれはこれからどうすれば?」


『マスコミを避けるために身を隠すか。インタビューをうまくさばくのは難しいからな』


 言葉巧みに誘導尋問されたら、すべてを話してしまいかねない。


『その間に世良くんと相談して、事態の収拾に努める。なに、どうせ次の話題がみつかれば、おまえらの話なんてすぐに忘れられるさ』


「ありがとうございます。そうなることを願っています」


 日下部が火消しもできるとは予想外だった。

 レコード会社の新人発掘だけでは役不足の人物だと以前から思っていたが、この件の対応を見るだけでもそのように感じる。いろいろなところにネットワークがあるのかもしれない。今はそれに頼ろう。


「それにしても……」


 初対面のときから眼光が鋭く、油断すれば即座に切られそうな人だと感じた。味方にすればこれ以上に頼れる人物はいない。絶対に敵にしたくない存在だ。





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