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あなたの幻(イリュージョン)を追いかけて  作者: 須賀マサキ
第二章

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第一話 すきま風と大きな手がかり(一)

第一話「すきま風と大きな手がかり」


ハヤトに紹介してもらった旅館に宿泊することになった沙樹。そこに哲哉から朗報が届きます。

 沙樹が今いる場所は、哲哉に教えられた地方都市だ。

 出たとこ勝負の行動はスタートでつまずきかけたが、ライブハウスで偶然に出会ったハヤトに助けられて事なきを得た。

 こうして沙樹は、ハヤトの家が経営する旅館に宿泊することになった。


 市街地を抜けると、五分ほどで観光ホテル街についた。小さな街で高い建物がない分だけ空が広い。

 ワタルは今どこでどうしているだろう。


「……さん、ねえ、沙樹さんってば」


「あ、ごめん。なあに?」


「ったく。急に黙り込んだかと思うと物思いにふけってさ。何度声をかけても、返事してくれないんだもん」


 心配しているとも不機嫌ともとれるような、ハヤトの声だ。

 沙樹は頭を軽くふり、過去から現在へ気持ちを切り替えた。


 ライブハウスで演奏していたハヤトたちを考えると、職業柄いろいろと気になることがある。

 ぶしつけとは思いながらも興味は抑えられなかった。


「さっき『レギュラーになるのが第一目標』って言ってたでしょ。てことは、第二、第三の目標があって、将来はプロを目指してるの?」


「うーん、どうかな。そんな先のことまでみんなで話したことないや」


 運転席のハヤトは前を見据みすえたままサラッと流すように答えた。

 だがプロという言葉を耳にしたとき目が一瞬輝いたのを、沙樹は見逃さなかった。


 バンド活動をしていれば誰もが一度は考える世界だ。ハヤトたちは、プロに必要な実力も伴っているダイヤの原石に思える。

 特にハヤトの声と演奏は、今まで見てきたアマチュアバンドと比べても、頭ひとつ抜けている。

 素直に認めない理由が、沙樹には解らない。


「でも人気のバンドなんでしょ。たくさん歓声が飛んでいたじゃない」


「田舎のライブハウスだよ。喜んでくれてるのは常連のお客さん、いわば身内だね。人気バンドだなんて言うのは身の程知らずだって」


「そんなに謙遜けんそんすることないのに。ハヤトくんの声は……きゃっ」


 いきなりブレーキを踏まれ、車が急停止した。信号が赤に変わっている。

 荒い運転をする子だとふりむくと、ハヤトは正面の信号を見つめたまま答える。


「沙樹さんってさ、ぼくらのことスカウトしたいの?」


「まさか。FM局の社員は、そんなことしないよ」


「そうなんだ。よかった。沙樹さんに仕事の対象に見られなくて」


 口元に笑みを浮かべていても、ハヤトの目はずっと信号を見ままで、まったく笑っていない。

 質問の内容を考えれば勘違いされても仕方がないと、沙樹は過ぎた好奇心を反省した。


「ここに来た理由って、本当は仕事絡みでしょ?」


「純粋に観光旅行よ」


「だったら、仕事のことは忘れなきゃ」


 だが、沙樹には忘れてはならない大きな目的がある。ワタルを捜し、真相について語ってもらうことだ。

 すべて無駄になるかもしれない。無謀な行動が成功する保証はどこにもない。


「仕事、仕事って言ったから、何か嫌なことでも思い出した?」


 急に口を閉じた沙樹に、ハヤトが心配そうに話しかける。返答にきゅうしていると、


「わかった。彼氏にフラれた傷心旅行しでしょ」


「ちょ、そ、そんなんじゃないって!」


 触れられたくない部分にいきなり切り込まれ、沙樹はそっぽを向いた。


「えっ、あ、あの……ごめんなさい、冗談です。機嫌なおしてくださいっ!」


 沙樹の態度が明らかに変化したので、ハヤトの声が上ずってきた。うろたえを無視して窓の外を見続けていると、


「沙樹お姉さま、お願い。反省してますっ。ごめんなさいっ」


 焦っているにしては明るい声の謝罪が続く。急ブレーキのときに見せた妙な拒絶感は、どこにも残っていない。


 不思議な感覚だった。


 不安だらけの中で始めた旅なのに、ハヤトと話していると、忘れていた穏やかな気持ちにつつまれる。それは学生時代、オーバー・ザ・レインボウの仲間と過ごした時間に似ていた。


「ほら、あの交差点曲がってすぐの建物だよ」


 宿に着いたらハヤトと別行動をとらなければならない。沙樹はそんな小さなことが少し残念に思えてきた。


   ☆   ☆   ☆


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