表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの幻(イリュージョン)を追いかけて  作者: 須賀マサキ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/113

第二話 見つからない足跡と果てしない不安(六)

 ワタルの熱愛報道を知った日以来、沙樹はあまり眠れず、食事もほとんどのどを通らなかった。

 仕事のことを考えたら、食べられない眠れないではいけないと思い、夕べは無理やりパスタを流し込んだまではよかった。

 が、五分ほどで気分が悪くなってトイレに駆け込み、胃薬を飲んで落ち着く。

 まさに最悪の夜だった。そしてろくに眠れないまま朝を迎えた。


 体のだるさは、睡眠不足と食欲不振が原因ではなかった。自分のメンタルがこんなにも弱いと気づいた今、さらに気分が沈む。

 ベッドの中で熱にうなされながらそんなことを考えていると、番組を終えた和泉がようすを見にきた。


「小川から聞いたぞ。風邪だってな。ここ二、三日で急に寒くなったからなあ」


 和泉は解熱剤と水を渡してくれた。


「ときにおまえさん、少し前から不摂生してないか?」


「そんなことは……」


 ありませんと胸を張れず、沙樹は言葉を濁す。


「心配事を抱えてるだろ?」


 否定すると、和泉は口元に小さな笑みを浮かべた。


「隠すなよ。これでも部下が今どんな状態かくらいは解るさ」


 沙樹はうなずく代わりに、窓越しに曇り空を見上げた。


「やっぱりな。そうじゃないかと思っていたんだ」


 和泉は一呼吸おいて続ける。


「どうだ。療養という名目でしばらく休みでも取るか。さっき確認したんだが、有給をほとんど使ってないようだな」


「……はい」


 仕事がおもしろいのと体力自慢というふたつの理由で、ほとんど消化していない。


「こんなときくらい遠慮せずに使えよ」


「でも……」


「心配するな。おまえさんの帰る場所と仕事は残しておくさ。そのかわり問題は解決しろよ」


 和泉はそう言い残すと、沙樹の返事も聞かないで医務室を出ていった。

 (なか)ば押しつけられる形で、沙樹は二週間の休みを取ることになった。上司の(いき)な計らいに、沙樹は心の中で手を合わせた。


「問題を解決する、か」


 そのためにはひとりで悩んでいても仕方がない。ワタルが出てこないなら自分から動く。それしか解決の道はない。


 だが何をするにしても、ある程度の見込みは必要だ。闇雲に動くだけでは、いくら時間があっても足りない。

 沙樹はベッドの中で、ワタルの行きそうなところを考えた。


 このときになって、沙樹は意外なことに気がついた。

 ワタルがひとりで行きそうな場所が、何ひとつ浮かんでこない。


 もちろん今のワタルは理解している。

 だが出会う前のことはあまり知らない。

 中学生のころからモテていたと小耳に挟んだことがあるため、昔話を聞いているうちに、知りたくないことまで知るのが怖かった。


 そんな些細な(こだわ)りが(あだ)になった。

 もう少しワタルのことを知っていれば、潜伏場所のヒントが見えたかもしれない。


 だが幸いにして、沙樹には頼りになる仲間がいる。


 このあとの行動についてベッドの中で考えているうちに、薬が効いたのか、沙樹は眠りについた。

 それはここ数日訪れることのなかった深い眠りだった。



以上で第一章第二話「見つからない足跡と果てしない不安」は終わりです。

次回より第一章第三話「差し込んできた光」に入ります。

気に入っていただけたら、評価・いいね・感想・レビューをお願いします。


お話はまだ続きますので、ぜひお読みくださいね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ