第二話 見つからない足跡と果てしない不安(五)
沙樹は今朝もいつもと同じ電車で出社した。
車窓から見えるワタルのマンションは、何事もなかったように朝日を反射している。
夕べもワタルと連絡が取れなかった。
意を決して何度も電話をかけたが、電源が切られているというメッセージが流れるのみだった。
気持ちが乱される。油断すると、目の前にワタルと浅倉梢のツーショット写真が浮かび、心が休まらない。
だが、それを理由に仕事を休むのはもっと嫌だ。
ひとりで過ごしていると、浅倉梢のことばかり考えてしまう。それくらいなら好きな仕事に熱中して、少しでも忘れたかった。
地下鉄を降りて地上に出ると、ひときわ背の高い建物が目につく。あれが沙樹の職場だ。
親会社のテレビ局には、今日も多くの人が出入りする。
ロビーを抜けて関係者専用のエレベーターを待っていると、昨日ワタルのマンション前で見かけたカメラマンと鉢合わせた。こちらに気を留めることもない。向こうは沙樹のことを知らないようだ。
FM局のあるフロアで降り、沙樹は崩れるように自分の席に座った。地下鉄を降りたころから体がだるく、立っているのが辛い。
気力を奮い立たせ、今日もノートPCの電源を入れる。
生番組の準備までに、新企画の構想を整理しておきたかった。
ところがディスプレイを見ていると、文字が二重に見えてきた。
リーディンググラスを使うような歳じゃないのに、と首をかしげ、目をこすりながら構想をまとめる。そうやって自分自身をごまかしながら入力していると、急に頭痛がしてきた。
三十分ほど我慢して企画を書いていたが、画面を見ているだけで辛い。沙樹はPCを閉じ、腕を枕にして机の上にうつぶせた。
気分が悪く、頭を上げるのもおっくうだ。
暖房が効いているオフィスにいるのに背筋がぞくぞくする。思考が鈍ってきたのを自覚していると、
「西田、おまえさんここ二、三日変だぞ。風邪でも引いたか?」
頭上で和泉の心配そうな声がした。
「いえ、なんでもないです」
顔を上げた沙樹を見て、和泉が口元を歪めた。
「おい、顔が真っ赤だぞ。熱があるんじゃないか?」
和泉は隣の席にいる裕美に声をかけ、沙樹を医務室に連れて行かせた。
体温を測ると三十八度もある。戻って企画を書きたかったが、気力が残っていない。
沙樹をベッドに寝かすと、裕美は手近にあったタオルを氷水で濡らし、額に乗せてくれた。




