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『下準備は大変だが、その後の方が大変だ』

 今日は待ちに待ったグレイの家に相談へ行く日。

 私はこの日が来るのを毎日毎日、指折り数えて待っていた。

 

 え?毎日って言ってもたった二日だろって?


 そんな事は私には関係ない!暇な私には二日はとても長いのだ。どんなに家を抜け出したかったことか!

 でもまあ、私も流石に学んだ。抜け出したのはアレクに何故か即バレする。だからアレクとの約束は絶対に守る事にした。

 しかも今回は破ったらあとが怖いからね。


 さて、理由説明のためにあの日の話を少しだけしようか。



 アレクはあの後直ぐに行動してくれたらしく、たったの三日で農具一式と食物の種を持ってきた。


 私はそんな行動の早いアレクに最大限の感謝をし、その日のうちにグレイの家へ行こうとしたのだ。が、そんな私に待ったをかけたのは言わずもがな。アレクである。

 アレクは黒さを滲ませた笑顔で私に言った。


「エミリーは少しお淑やかさを勉強したほうが良いようだね。淑女はね、行き当たりばったりで行動なんてしないんだよ?」


 話し方は優しかったが、それが逆に怖かった。私はアレクに大人しく従い、また後日改めて行くことにした。

 本当は、私は孤児の幼女だから淑女ではないのでは?とか言いたかったけど、言える雰囲気ではなかった。

 

 そしてまたアレクの新たな一面を垣間見てしまった。でもこんなに怖いなら、知らないままでも良かったと思うのは私だけだろうか?


 

 とまあ、そんなこんなでそれからニ日。それが今日である。

 本日はお日柄も良く、外は晴天で雲ひとつ見えない紫空。絶好のお出かけ日和です。


 でも私の心は暗雲が立ち込めております。何故なら、アレクがついてくるとか言い出したからです。

 本当は来てほしくないけど、あんなに心配をかけた手前、断るとかもっと無理。

 なのでそれについては諦めて、昼頃になってグレイの家へと出発した。

 







「エミリー。今から行く所を教えてくれないかな?」


 スラムの通りを手を繋いで歩いていると、アレクが話しかけてくる。

 私はそう言えばグレイの事は話した事なかったなと、軽く説明をした。


「今から行くのは、この前話した子供達の所だよ。で、私が助けたのがグレイくん。」

「へぇ。その子が飢えてたから助けたいの?」

「うん!グレイくんが死んじゃうのは嫌だから。」

「…へぇ。」

 

 私はアレクの質問にハキハキ答える。何故かアレクの周りの温度が少し下がったように感じるんだが、気のせいだろうか。


「じゃあその子が畑で元気になれば、エミリーが心配することはなくなるね。」

「うん?そうだね。」


 アレクは笑顔なのになんか怖い。でも空気の読める私はそれに突っ込んだりしない。こういう時は、素直が一番。


 私が心の中でそう自分に言い聞かせていると、見覚えのある建物が見えてきた。


「アレクくん!あれがグレイくんの家だよ!」


 私はその方角を指して少し大きな声でアレクに伝える。そうすると、少し怖かったアレクは消えて、何時ものアレクが戻ってきた。


「あれが家?」


 でも今度は怪訝そうな表情を浮かべた。

 まあそれには私も同意する。最初は私もこれが家?って思ったし。なんせ、あり得ない程ボロボロだからね。壊れかけてるし。


「うん。あれ家だよ?」

「そう。あれが家…。」


 アレクはまだあれが家だと認められないようだ。

 でもよく考えると、ああいう建物はこのスラムではよく見かける。私はスラムのことを知らないから当たり前だが、外に出たりして結構スラムを見ているアレクが何故そんなに驚くのだろう。

 私はその不思議に首を傾げる。


「いくらスラムでも、あそこまでボロボロの建物に普通は住まない。壊れたらそこで終わるからね。」

「そうなんだ。………って、何で!?」


 私は答えが帰ってきた事に驚く。

 普通に返事しちゃったけど、アレクって心読めるの?!

 私があたふたしていると、今度はアレクが笑いだした。


「ふは。ふふふ。全部顔に出てるよ?エミリーは分かりやすいね。」

「!?」


 この前グレイに言われたから気をつけてたはずなのに、アレクにも同じ事を言われてしまった。

 これは私、全然成長していないという事にならないか。まさかの事実に私はがっくりと落ち込む。


「え?どうしたの、エミリー。」


 私の暗い雰囲気はアレクにも伝わったらしい。少し慌てた声をかけられたけれど、今それに応える気力を私は持ち合わせていなかった。


「なんでもないよ…。」


 でも無視というのも頂けないので、一応返事だけはしておく。かなりおざなりになってしまったのは、今は仕方ないと見逃してくれ。

 

 

 方や暗い雰囲気を背負う私、方やそんな私に慌てるアレクという状態の私達は、そうしてグレイの家に辿り着いたのだった。



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