最終話
俺は酷く緊張していた。
変な汗がやばい。
世界がキラキラしすぎて、とにかくやばい。
前はレイラがいてくれたけれど、今は居ない。だから、俺は一人で頑張らないといけない。
とにかく、俺は変わったのだ。だから、気合入れろ!俺!!
戴冠式の招待状が来ていたので、ちょうどいいタイミングだし俺は国に帰ることにした。本当は腹筋を6個に割るという目標があったのだが、それは叶わなかった。一応4個にはなった。
サナトリウムを出ると、じぃが待っていた。迎えに来てくれたらしい。
そして、俺を見て涙腺が崩壊したのかというぐらい滝のように涙を流した。なんでも、若いころの祖父に似ているらしい。じぃは祖父と級友だったのだ。
何だか気恥ずかしいやら何やらだけど、じぃと二人で電車に乗ると、サナトリウムに向かった日の事を思い出した。早くレイラに会いたい。
サナトリウムは・・・・・まぁ、うん。大変だった。とだけ言っておこうかな。うん・・・。
時間に余裕を持って出たはずなのだが、式典には間に合わなかった。べ、別に俺が寝坊したとかそんなんじゃなくて、電車が止まってしまったのだ。仕方ないだろう!?
駅に着くなり、手配していた車に飛び乗って車の中で礼服に着替えた。
そしてアワアワしているうちに会場に着き、ぽいっと車から出されたというわけだ。相変わらず、俺の扱いって微妙だよね・・・。
祝賀パーティーの会場に踏み入れ、あたりを見回すとすぐにレイラを見つけた。
ドクン、と心臓が跳ね上がる。
レイラには、来ることを連絡していなかった。変った俺を見せて、驚かせたいなぁとか、そんなことを思っていたからだ。
一歩一歩レイラへと近づいていく。
相変わらず綺麗だ。そして、誰よりも輝いて見える。
レイラが、俺を視界に入れた。俺は、ゴクリと唾を飲む。
心臓が口から飛び出しそうだ。
「ダンスを、踊っていただけないでしょうか?」
レイラに手を差し出す。カタカタと震えてしまっていて情けない・・・。
レイラは、小さく頷くと、俺の手を取った。そして、ワルツを踊る。レイラはやっぱりいい香りで、項がやばくて、腰が折れそうなほど細くて、それから、いつも柔らかく微笑んで・・・いなかった。
いやむしろ、ちょっと怒ってるような。
え?あれ?
パニくる俺。もしかして、俺だって気づいてない?え?そうなの?まぁ、結構変わったかなとか自分でも思うけど。
でも、なんていうか、気づいてほしかったなぁとか・・・
全く俺の方を見てくれず、話しかけていいのかどうかも分からなくなり、俺は泣きたい気分になった。
それからダンスが終わり、一度出直した方がいいのだろうかと思っていると、レイラが俺の手を取ったまま庭園へと歩き出した。
あれ?気が付いてる?の??
相変わらず無言のレイラに俺はどうしていいかわからず、促されるままに歩いて行った。それから人目が遮ることのできる場所へと来ると、くるりと俺に向き直った。
「どうして、来るなら来るとおっしゃってくださらなかったの?!」
「え、あ、えっと・・・その・・・驚かせたいなぁなんて、思って」
気が付いていたらしい。
言わなかったのは悪かったけれど、そんなに怒らなくっても。
「来ると分かっていたら、こんな手を抜いた装いでは来なかったのに」
両頬に手を当てて、若干涙ぐんでいるレイラに俺は目を見張る。
「え、いや、十分綺麗、だよ?」
「もう!わかってらっしゃらないですわね!女性はいつだって、好きな人には一番綺麗な自分を見せたいものなのですわ」
好きな人。それって、俺だよね?俺のことでいいんだよね??
顔に熱が集まるのが分かる。やばい、嬉しい。
それに、ちょっと拗ねたレイラ、かわいい。
へらっとした顔で見ていると、レイラが口をとがらせて言う。
「久方ぶりに会った恋人を、抱きしめてはくださらないの?」
はわわわわわわ。
俺もうパニック。
だけど、思い出す。俺、帰ってきたらレイラとキスするって決めてたんだ。だから、今だよね?今でしょ!
俺はレイラをそっと抱きしめた。
うはーやばい。柔らかい。それに胸が、胸が、胸が・・・(自重)
少し潤んだ目のレイラが俺を見上げる。俺はレイラの頬に手を添えると、そっとキスを・・・・できませんでした。
ピコーン、敵が現れた!
名前 アレックス
レベル 3
職業 元王太子 現ニート
「レイラから離れろ!」
アレックス殿は肩で息をしながら小走りに俺たちのところへやってくると、レイラの腕を取った。
「大丈夫か、レイラ。助けに来た」
え、何この展開。
俺がぽかんとしていると、レイラとアレックスの言い合いが始まった。
「何をわけのわからないことを言ってらっしゃるの?」
「何って、レイラが男に庭園に連れていかれたと聞いたから、助けに来たんじゃないか」
「助けなど必要ないですわ。お引き取りくださらない?」
「レイラ、君は護身術を習っているかもしれないが、一人で大丈夫という事はないだろう?頼ることも必要だ」
「助けが必要な時はちゃんと呼びますわ。わたくし今、婚約者との逢瀬の最中ですの。邪魔ですからどこかへ行って下さらない?」
「婚約者!?いつの間にそんな奴ができたんだ!」
「いつの間にも何も、あなたと婚約破棄した後すぐですわよ」
そこで初めてアレックス殿は俺を見た。
「お久しぶりです」
俺が挨拶をすると、アレックス殿は目を見開き、「まさか」とか「そんな」とか呟きながらふらふらと去って行った。
「えっと・・・とりあえず、パーティーに戻りましょうか」
微妙な間が空いてしまった。折角いい雰囲気だったのに。
「心配ですわ」
レイラが俺を見上げて眉をひそめた。
「アレックス殿なら、まぁ、大丈夫じゃないでしょうか。そういえば、アリス嬢も来てるんですかね」
「違いますわ」
「ん?」
「ヨシュアが、素敵になりすぎてしまって、他の令嬢達にモテるんじゃないかと心配してるんですわ」
え?えええええ?!
「いやいやいやいやいや、ないですないです」
首をぶんぶんと横に振って否定する。
そこでふと、俺は先ほどのレイラの言葉を思い出した。
「さっきレイラは、好きな人の前ではいつも綺麗でいたいって言ったじゃないですか。えっと、俺もレイラの隣に居たくて、頑張ったんです。だから、他の誰かが仮に言い寄って来たって、レイラが隣に居ないと意味が無いんだ」
それにそんなにかっこよくなってないです。はい。ブサメンがフツメンになったぐらいです。
でも、レイラにかっこよくなったって言われると嬉しい。
レイラは頬を染めて、嬉しそうに微笑んだ。
あ、この笑顔だ。このふわっとした笑顔に俺は落ちたんだよな。
再びいい雰囲気になって、今度こそ、と思って手を伸ばした時、後ろから「れいらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」という雄叫びが聞こえた。
ピコーン!敵?が現れた!
名前 リサ=アボット
レベル 183
職業 王宮管理
今度は何だと振り向くと、涙腺が崩壊したリサ嬢がレイラに走り寄り、タックルした。
「あらあらあら、どうしたの?リサ」
「うぇ、うぐ、よかった。レイラ、よかったよぉぉぉ」
レイラの胸に顔を埋めながらリサ嬢が泣いている。そのリサ嬢を困ったように、でも愛おしそうに抱きしめて髪をなでている。
なにこれ、羨ましいんですけど・・・。
怒涛の展開にまたもやぽかんとしてると、リサ嬢は嗚咽をしながらしきりによかったよかった、幸せになって、と何度も言っていた。
どうやら祝福されているようだ。だけどさ、その、TPO的な?それ考えてくれると嬉しいんだよね。ほら、久々に会ったんだよ、俺たち。アニメなら、ここ今クライマックス。バックミュージックが盛大に流れてる頃だよ。
少ししょぼんとしていると、リカルド殿がやってきた。
「とりあえず、ハッピーエンドだな。ほら、リサ。邪魔しちゃ悪いだろ?泣くなら俺の胸を貸してやるから」
おぉ、救世主だ。
「あら、お兄様。お兄様といえど、リサで遊ぶなんて、許さなくてよ?」
「心外だな。俺はこんなに紳士なのに」
一瞬思考を巡らせたようだが、レイラはリサをリカルド殿に託した。
よし、これで、これで、これで・・・!!
俺はリカルド殿とリサ嬢を見送って、レイラに向き直った。
その後?
聞くなよ。
でもまぁ、俺は幸せだ。
モンスターの登場効果音が思いつかず、↑になりました。
何がよかったんだろう・・・
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。