表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/63

第62話 軍功並び立ち

永禄五年(一五六二)四月十四日



 戦があらかた終わり、鹿角攻めの諸将は大湯前の本陣に集結した。首検分と、それを兼ねたいわゆる軍功褒賞だ。

 陣幕の張られた場所には、今回出兵した南部勢の名だたる武将が顔を揃えていた。上座には惣大将・南部晴政が。その左右にはそれぞれ一手の大将である一戸政連と石川高信が並び、さらに毛馬内秀範をはじめ、三戸・一戸の有力武将たちがずらりと並んでいる。

 多くの武将の名前が呼ばれ、その軍功を賞せられていく。土地の褒美などはこれより後に回されるが、中には晴政手ずから刀や羽織を下賜されることもある。


 この場にいることの居心地の悪さを我慢しながら、真顔を装って軍功をあげた面々を眺める。

 なぜ自分が、とも思うが、理由はさすがに分かっている。安東勢を撃退したからだ。そしてそれこそが、戦況を決めたからだ。

 安東氏が鹿角に救援の兵を送ってくる可能性は、常に考えられていた。だが、準備が整わない安東が動くのはもう少し先になると皆推測していた。だが、安東は準備が整わないまま拙速に兵を送ってきたようだ。かき集められるだけの兵をかき集めて、こちらに送り込んできた。


 鹿角の親安東派が壊滅する前に救援し、少しでも地歩を確保しようとしたのだろう。かつ、米代川の向こうにいる花輪氏などを助けるためには、尾去館が好適地であったので奪還を狙った――というのが高信の見立てだ。

 それらの安東勢を撃退し撤退させたことによって、花輪氏などは戦意を失った。救援に来るはずの軍勢が来なくなったのは、降伏を選ぶのに十分な出来事だった。

 そして、それを成し遂げた俺ともうひとりの男は、戦功を賞せられるに十分と判断されたのだ。


 南部晴政は寛大な態度を見せ、花輪伯耆守親行は切腹、息子の花輪帯刀延親は所領を大幅に削減されたうえ、糠部の少領へ移封となった。

「随分寛大な処置だな?」

 儀式の最中、俺は金浜に小声で問う。

「高信様は反対なされたようですが、御家督様がそれを制したそうです。『下手に斬首して安東に一番大きな『玉』を渡したくない』と」

 反乱分子を一掃するよりも、鹿角四頭の嫡流を滅ぼす悪影響の方を晴政は問題視したそうだ。

 事実、安東領に逃げ散った阿保をはじめとする鹿角の一族たちは多い。彼らを旗印にまた何か仕掛けてくるかもしれない。その時の為に、一番の旗印である阿保の嫡流を手の内にしておくことを晴政は望んだ。弱体化させた上で監視下に置いて利用した方が結果的に益である、という晴政の主張が結果的に通った――のだそうだ。

「はぁー、政治だ」

 三戸で会った時の晴政の諸々の言葉を思い出す。

 秩序を守ること。彼の中では、これもその一環なのだろう。


「石川十郎様! 大浦弥四郎様!」

 儀式が進行し、俺はもうひとりの男と一緒に呼び出された。

 俺はその男――大浦為信とふたり揃って前に出る。為信の方が背が高く、俺は少し見上げるような形で彼と視線が交錯する。

 為信は少しだけ剣呑に目を細めて、すぐに視線を外した。

 晴政の前に出て、膝をつき深く頭を下げ、晴政が声をかける。

「石川十郎殿。安東が鹿角を調略していることを知らせ、侵入してきた安東勢をいち早く察知し、それを撃退した手際、初陣でありながら良き采配、お見事であった」

「ははっ、ありがとうございまする!」

「大浦弥四郎殿、御父上の名代としての出陣ながら、若輩の身で大浦衆をまとめ、戦機を読み安東勢を追い立てた手柄、称賛に値する」

「ははっ、ありがたき幸せ!」

「追って褒賞を下すが、活躍した若者に手ぶらで返しては家督の名折れ。ひとまずはこれを持たれよ」

 晴政はまず俺に近づくよう指示した。

 彼はその顔に笑顔を浮かべていた。初めて会った時に見た笑顔を思い起こさせる、獣が獲物を狙うような笑顔だ。

 その横では高信が満足げに、政連様が涼しいながらもほんの少し口角を上げた顔でこちらを見ている。政連様はともかく、高信は間違いなく面白がってるな畜生め。


「此度は鉄砲衆を良く差配したと聞く。これを持たれよ」

 と、差し出してきたのは――鉄砲だった。

 自分たちが揃えているものよりも長い。その分だけずっしりと重い銃だ。

(威力ありそうだな、これなら熊討ちにでも使えそう)

 しょうも無いことを内心思いながら、俺はまた「身に余る光栄、ありがたき幸せ!」と余り心にも思っていないことを言う。いや喜ぶべきなんだけど、正直身の丈に合わない気がするし、それよりは銭の方が嬉しいんだよなぁ……。まあ刀よりは良いか。


 為信はその体格に見合う大柄な太刀を賜っていた。為信はすっと立ち上がると、手慣れた手つきでそれをうけとり、それから腰に佩いた。

「良き刀をありがとうございます。これで益々武功を上げていきます!」

 太刀を佩いた姿はいかにも偉丈夫の若武者といった風情で、一幅の絵のような立ち振る舞いに周囲の武士たちが小さく「おおっ」と感嘆する。絵になる男だ。良き武将というのは、ああいう風に絵になるものなのかもしれない。


(その大浦為信と並んで褒められるなんて、なんておこがましい……)

 小さくため息をつく。結果的に歴史上名を上げた後の名将と横に並んで褒められることになってしまった。

 嬉しいと言えば嬉しいけど、決して自分の実力とは思っていない。それが出来る部下と、それを成せる装備が運よく揃えられていたから出来たことだ。自分一人でやったら、采配ひとつ出来ずに安東に破られていただろう。それが少し罪悪感として胸を刺す。

 俺は銃口をいじる。あ、ちょうど嵌められそうだ。


 俺は外して腰に差していた布袋入りの銃剣を取り出した。待ち伏せの時に曲がったのとは別の、予備の銃剣だ。

「十郎殿、何を?」

 周囲の声を無視して、銃剣を銃口にはめる。差し込み用の八角形の輪は、誂えたように新しい鉄砲に嵌った。

 袋を取り、銃剣を掲げる。背筋を伸ばし、右手で鉄砲の銃床を持ち、右肩に寄りかからせて、左手で軽く押さえて威儀を整える。イメージは〝現代〟のライフル儀仗兵だ。鉄砲衆の礼など分からないが、精一杯格好つけてみる。武士は格好をつけないといけない商売でもあるのだ。せめてこういう儀礼の場で、俺の下で戦った家臣たちが情けない思いをさせたくないと思うくらいのことは俺も考える。


 物珍しそうに諸将が目を向ける。好奇の視線だが、悪い感情は感じられない。

「何だその武器は?」

 晴政の問いに答える。

「はい、銃剣と申しまして、鉄砲衆の護身の武器として考えました。これがあれば急な襲撃にも耐え、攻める際にも使えます。今回、この道具で安東の騎馬を撃退することが出来ましたので、お披露目したいと思い付けさせていただきました」

 俺は晴政らに尾去館での戦いを語った。

「ほう、珍妙ではあるが確かに理があるな。後で作り方と使い方を教えろ、使えるのであれば鉄砲衆に配ってもよいかもしれん」

 晴政は上機嫌に笑った。

「南部の将来を担う優秀な若者が二人も出てきてくれて嬉しく思う。これで南部の将来は安泰ぞ」

 周りの武将たちが追従するように笑う。俺達は二人示し合わせたわけでもなく頭を下げた。



「…………」

「……? 大浦殿? 何か?」

 席に戻るすがら、為信はこちらに視線を向けてきた。

「いえ、十郎様、初陣での多大なる御軍功、おめでとうございます」

「恐れ入ります。弥四郎殿こそ、貴方が安東の後ろを攻めてくれたおかげで安東は引き申した。俺も助けられました。本当にありがとうございます」

「十郎殿にそう言っていただけるとこちらとしても戦った甲斐があるというものです」

 彼はにこやかに笑みを浮かべる。背の高い奴がこういう風に愛嬌のある笑みを浮かべると可愛げがある。

「初陣で武功を上げられるとは、さすが石川様の御子息です」

「はは、父の名を汚さずに済んだと安心しております。配下の者や和徳殿のおかげ、俺の力など小さなものです」

「……十郎様は謙虚でいらっしゃる。しかし、ここは誇りなされ」

 為信は少しだけ不機嫌そうになった。

「此度の武功は真実、十郎様の成したこと。たとえ家臣や与力の力があったとしても、それを謙遜してはなりません。将が功を誇らず軽んぜられれば、将のみならず家臣も軽んぜられてしまいます。将が強ければこそ、周囲も十郎様を敬い、家臣らも面目を保つのです。その機会を自ら捨ててはなりません」


 ……あれ、なんか為信に諫言されている。

 だが、為信のいうことはいちいち尤もだった。

 ――俺は農事の為に名を上げなければならない。周囲に理解と協力を得るためにも。

 だが、俺はそんなものに価値を見出せない。

 けれども、家臣たちは違う。主君の武功は家臣たちの武功で、誉れなのだ。

(なら、俺は俺に従う家臣たちのために武功をあげよう)

 為信の言葉がすとんと腑に落ちて、俺は為信に向き直り、頭を下げた。

「ご忠言、痛み入ります。確かに大浦殿の言うとおりでした、軽く考えているつもりはなかったのですが、この武功、我がものとして大事にいたします」

「石川様の御子息に差し出がましいことを言いました。こちらこそお許しください」

「いえいえ、それにしても大浦殿がそう言うてくださることは、嬉しいですが少々意外でした」

 俺は素直にそう言った。多分この人、あまりこちらのことを好きではないし、〝後に起こることを考えれば〟石川の人間が名を上げることなど嬉しくないと思うのだが。

 彼の返答は納得いくものだった。

「……貴方が自分の武功を軽く見れば、同じく拙者の上げた武功も軽んじられるかもしれない、そう思っただけです」

「ああそうか、それは確かに。重ね重ね、大変失礼した」

 と俺は再び頭を下げた。為信は何か言いたげな顔をしたまま手を振った。


 俺は為信と共に陣所から見える風景を眺めた。

 この大湯辺りは戦場にならなかったので、水の張られた田も荒らされることなく綺麗だが、戦場となった地域では水田が荒らされたという。まだこの辺はギリギリ田植え前なので稲が踏み倒されるようなことはなかったが、荒れた水田をもう一度整地して田植えできる状態に戻さなければならないから大変だろう。

 ひとまずは。

「帰ったら田植えだなぁ」

 そう呟くと、為信はちらりとだけ視線を向けた。ちょっと呆れたような色があるのは、多分気のせいではない。



この後すぐに登場人物紹介を投稿して今回はいったん打ち止めです。流石に次は本当になるだけ早めに仕上げます。次回再開をお待ちください。

次こそは農業パート。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
次回も楽しみ!お体の無理ないように執筆してくださいな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ