14 食事中にはフラグが立つ
そこから大盛況で速攻完売!! ……なんてものを夢見たこともありました。
――誰も買ってくれないんですけど!?
いや、見ていく人はいるんだよ。
手に取って、説明だって聞いてくれるんだけどさ……実際に購入に繋がらないっていうか。
やっぱり値段ですか? 値段ですよね?!
金貨10枚だもんね。
そう簡単に「はい、買います」なんていう値段じゃないって。うう。やっぱり、もうちょっとお安めにしとけばよかったかなぁ。
「セトちゃん、お昼はどうするんだい?」
「あ、持ってきてるんで大丈夫です!」
優しく声を掛けてくれたのは、右側の露店で革小物を売っているご夫婦の奥さんのほうだ。
そっちのお店は結構人気で、今ようやく客が少なくなったから、交代でご飯を食べるみたいだった。
――私はいつだって余裕で食べられるけどね!
ちなみに反対隣のアルジャさんのところも、ご婦人のお客さんが絶えない感じだったりする。さっき一瞬客が途切れたタイミングに慌てて、パンを口に放り込んでいた。
……私もそろそろお腹減ったし、ご飯を食べて、仕切り直すのもいいかもしれない。
別に暇すぎてやることがないとかそういうわけじゃない。気持ちが落ち込んできたのは、空腹のせいなのかなーって思っただけだ。
アイテムボックスの中から、ラスト一食残っていたニャオのご両親特製のお弁当を取り出す。作ってもらってから一か月経つのにホカホカなそれはすごくいい匂いがして、自然と口の中によだれがあふれた。
あ、気持ちも浮上してきたかもしれない。匂いだけでこんなに幸せになれるって、ご飯ってやっぱり超素敵だ。
「いっただきまーす」
大きく口を開けて、一枚肉を豪快にぱくりと頬張る。
「なんだ、食事中か」
「ッ、んぐ」
慌てて、顔を上げる。
そこに立っていたのは、金髪の騎士さんだった。
◆◇◆
騎士さんは「食事が終わるまで待つ」って言ってくれたけど、まだ食べ始めたところだ。ここから全部食べ終えるまで、誰かが待っているって思うほうがきつい。
「あの、片付けるんでちょっと待ってください」
お弁当の蓋をして、アイテムボックスに収納する。
これで、また時間は経過しないし、お弁当は美味しいままだ……まあ、私の食事ムード一色だった気持ちは微妙なんだけどね。
「悪かったな」
「いえいえ。大丈夫です」
イベント中もよく、ご飯を食べているときにお客さんが来ることあったもんね。
なんか、そういうフラグでもあるのかと思うぐらい。
「取り調べの続きですか?」
「いや、それは必要ない。やつらの証言と照らし合わせても、君の証言におかしなところはなかったからな」
――あの男たちは一体どういう証言をしたんだろ。
まあでも、五人とも私が行ったときには気絶していたし、私と少年が喋っていたところは見てないから、もし少年の話をしていたとしても私の証言と辻褄は合うってことか。
「何か気になることがあるのか? 思い出したこととか」
「あ、いえ……特には」
「そうか? 何か気になることがあれば、なんでも話してくれ」
騎士さん、別に私を疑っているって感じでもないのかな?
どっちかというと、心配してくれている感じなのかな。善人の味方、いかにも騎士って感じだ。
「変わったものを売っているのだな。どれも、かなり効果の高い装備品のようだが」
「興味がおありでしたら、ぜひ手に取ってご覧ください! ……あ、仕事中だからこういうのはだめですか?」
「いいや。今は休憩中なんだ。それならば、見せてもらおうかな」
――おおお! これは期待できるかもしれない! いっそ、一つ安めに譲ってこの騎士さんにサクラになってもらうのも……いやいや、安売りするのはいけないか。
でも、試着で効果を確認することができないのも、商品が売れない理由だったりする。
ちゃんと効果を確認してから代価をいただく形にはしているんだけど……それでもやっぱり、みんな購入意思にまで辿り着かないらしくて。
「……すごいな、これは。これだけの効果があるのに、金貨15枚なのか?」
「ん? ああ、それ」
騎士さんが手に取っていたのは、金貨10枚のコーナーに置いてあった商品ではなく、それよりも一段上の場所に置いてあった、少し効果が違う指輪だった。
金貨10枚の指輪は全部、どれかのステータスが+10になるものなんだけど、上に置いてある分は二つのステータスにプラス効果がついたりするものだ。
INTとDEXとか、STRとVITとか。
組み合わせはいろいろだけど、そういう指輪を六つほど用意してあった。
ちなみに目玉商品として、さらにその上の効果があるものも二つだけ展示してあるんだけど――そっちは金貨500枚のお値段がつけてあるから、誰も手を出さない。
結界ケースの中に入れてあるから、勝手に触れないっていうのもあるんだけどね。
「この装備一つで、STRとAGIが両方+8上がるというのは本当なのか?」
「本当ですよ。実際試してもらえたら一番いいんですけど、使用者の魔力を馴染ませないと使えないのがうちの装飾品なので……」
「買おう」
「え? いいんですか?」
「ああ。あの大賢者が後見人なんだ。君の言葉を疑うなんて馬鹿のすることだろう?」
――ここにきて、また師匠パワー!!
「あ、でも代価の受け取りは効果の確認後に行うので! それは安心してください!」
「ああ。良心的だな、君は」
「じゃあ、えっと……騎士さん。この魔力水に魔力を流してもらっていいですか?」
「ああ。名乗っていなかったな。私はリード・ディールだ」
――名前。あとでどこかにメモっておこう。
手渡した魔力水の入った瓶を、リードさんが手の中に握り込む。
ふわり、と風が動いた気がした。
「これでいいか?」
「あ。はい!」
――そうか。魔力を流すだけなら、杖を使わなくてもいいのか。
そういえば、魔術師以外の人がどうやって魔法を使うのか、見たことがなかった。
簡単な生活魔法ぐらいは杖がなくとも扱えるらしい。
魔力水は淡い金色に変化している。これがリードさんの魔力の色なんだろう。そこにリードさんが選んだ指輪を浸す。
パチパチと淡い綺麗な色の火花が散った。




