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蘇りの詩  作者: ヌロ
1/3

誰かのようで自分

 霞んだ古い記憶。

 おぼろげに映し出される町並みの風景はさながら「霧の街」と称してもなんら違和感が無い。

 濃霧にぼんやりと浮かび上がる複数の人影。

 その時の自分は何をしていただろうか――


――間抜け。

 首に一閃。全身に防具を纏い甲冑を被った男は、無残にも白目を剥き地面に倒れ伏せる。

 短く鈍い金属の擦れた音。ドクドクと流れ出る血液。

 「自分」は明確な目的も無く、向かってくる人間を切っていた。

 一人、また一人と切り伏せた。そして残された最後の鎧の男が、大きな剣を手に突っ込んで来る。

 鎧の男は己の大剣の間合いに敵を認めると、大声で叫びながら両手でその獲物を掲げた。

――ド素人。

 動きを見て太刀筋を読み、能動的に相手の左側へと体を運ぶ。そのまま隙だらけの懐に潜りこみ、鎧の薄い脇を狙う。

 帷子ごと切り裂いたが、相手の腕はまだ繋がっていた。手に持つ剣を見ると鎧の部分も切った為、酷く刃毀れしていた。

 どうやら鎧の男は体に刃が入った直後――彼からすれば直前に、僅かに体を捻ったようだ。

 剣を見て「自分」は思う。

――まだ一撃分使える。この後は落ちているのを拾って使えばいい。

 向かいに立つ相手から荒い息遣いが聞こえてくる。まだ戦うのか、鎧の男は動く右手で予備の短刀を抜き出した。

 霞んだ景色の中でも刃の輝きが見える。

「一体お前は、何をしたいんだ…!」

 遺言なのか、死ぬ前に聞き正したい疑問なのか。

「聞きたいか」

――唯の気まぐれだ。

 本来なら悪意も、殺意も持たずに切り伏せるところだった。――もしかしたら「自分」は男の失血死を狙っていたのかもしれない。

「ああ…」

 鎧の男は息も絶え絶えに返事する。

 それを認めながら「自分」は口を開く。

「俺は――」


――何をした?

――人を。村を。国を殺した。

――女を殺した。

――何をしたいか?

――早く死にたいと思っている。

――向かって来る者は確実に殺したいと思っている。


「……」

 「自分」は目を伏せた。

 過去を振り返る度に辛いことをを思い出し、ついつい未来にまでそれを引きずって考えてしまう。――そしてそれよりも非情な、無残な現実に返る。

 「自分」はその度に思った――

「…昔に戻りたい」


・・・・・・


 あれは確か…涙を流した時だった。


 正面から切られた。鋭くて…熱い……焼けるような痛みだった。

 傷口を抑えた手から伝わる血の生暖かさ…。不快に纏わり付く血液。

 肺にまで達した斬撃は呼吸すら許さず、体中が痙攣を始めた。

 強烈な眠気と共に瞼を開けていることも面倒になってきた。次第に考えることも面倒になってきた…


 眠るようにゆっくりと目を閉じて、このまま死ぬ…死んだと思った。

 否定するよりも、死を素直に認めることしか出来なかった。


・・・・・・


――どんなに足掻いても、未来の自分が過去の自分を戒めることは出来ないし。

――過去の自分が未来を「変えられた」等ということは有り得ない。

――現実は、いつまでも現実だった。

――男はこれまでの自分の行いを悔いた。


・・・・・・


 コロナの森と呼ばれる広大な森があった。森の中には地盤が大きくずれていて絶壁とも呼べる場所があったが、そこにぽつんと森を見渡すように小屋が建てられていた。

 小屋付近の木は概ね伐採されており、大小の切り株が点々と居座っている。

 のどかな朝だった。

 小屋の中。ベッドで青髪の青年が静かに眠っていた。そしてそれを見下ろす少女。

「…おにーさん、すんごい気持ちよさ気」

 少女がカーテンを開けると小さな小屋の中全体を照らす。外からはチチチと小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 入り込んだ日光が青年を照射した。

「うーん…太陽光線が僕を本気で殺しにかかってくる…」

 寝ぼけた青年は布団を被り直し再び丸まる。

 それを見ていた少女はため息をついて男を揺する。

「おにーさん朝ごはんを作ったんだよ。起きて」

「ええぇ…起こさないでぇぇ」

 揺すられながら青年はふと、不自然な事に気付き、上体を上げて少女の顔をじっと見つめる。逆に少女はその態度に疑問を生じた。

「私の顔に何か付いてる?付いてたら言って」

 青年には心当たりの無い、見覚えの無い少女だった。

 腰まで伸びた深い紫色の髪。瞳の色も紫。その吸い込まれる様な暗さに反して色白な細い手足。着ている服や膝まであるスカートは白色一色で統一されている。

 印象は大袈裟な飾りっ気の無い雰囲気。無頓着というか…そんなところか。

「おにーさん、何か気になるなら私に言って」

 それとクセのある言葉遣い。

 …何というか、第一に自分はこの場所に覚えが無い。この小屋だって自分の私有物ではない。

 小屋の中を見渡して第一声。

「なんだここは」

「ここは私の家。コロナの森の、外れの、丘の上の、魔女の家」

「…魔女の家」

 言葉遣いが如何せん気になるが、質問して疑問が増えるとは…。

「おにーさん、とりあえず上着を着て。一緒に朝ごはんを食べよう」

「上着…?」

 まだ布団の温もりが残る自分の体を見る。腰から下は布団で隠れているがパンツ一丁だった。

「・・・・・・」

「気にしないでね。気にしてないから」

 平然とした様子で少女は机の方へと歩いて行く。

 狭く見える小屋を見渡すと本棚が幾つか並べられていて、分厚い書物の幾つかは床に積み重ねられている。

「名前は何ていうの」

「ジセル」

「ジセル…僕はどうしてここに居るんだ」

 経緯を思い出そうとしても灰色の樹海を延々と歩いている光景しか思い出せない。

 景色も人物も何も思い出せない。

「続きを聞きたいなら朝ごはん食べて」

 どうも朝ごはんの優先順位が高いらしい。積まれた本に衣類が雑に置かれている。

 服を手に取り腕を通す。その時、ふと足元の物体が目に入った。

「これは・・・防具?」

 ある程度使い込まれた胸当てや肩当等の防具一式が傍に転がっていた。

 本でいっぱいの部屋に似つかわしくない防具。ジセルの物とは思えない…。

 顔を上げるとじーっとこちらを見つめている。早くしろといわんばかりに。

 向かいの椅子に腰掛けるとジゼルは手を合わせた。挨拶か。

「いただきまーぁす」

「いただきます」

 皿の上には目玉焼きと添えられた野菜があった。実にシンプルだ。

「おにーさんコショウか塩、どっちがいい?選んで」

「じゃあ塩で」

「はいどーぞ」

 残り僅かな塩の小瓶を手渡してくれた。

「…全部使っていいの?」

「うん。いいよ」

 そう返事してジセルは目玉焼きにコショウをふりかけていた。



「ごちそうさん」

「ごちそうさまでした」

「それでジセル、僕はどうしてここに居るの?」

「質問はちょっと待って。先にお皿片付けてくるから」

 焦らすなぁ。

「それじゃあ水をもらえる?」

「一緒に来て」

 ジゼルが皿を持ち、席を立つ。小さいのに一人暮らしなのか。

 水道は外にあるらしく、小屋の外へと周りこんだ。

「すごい景色だな」

 小屋から見える景色。玄関の左側は崖になっていた。そこから森を眺めると森の緑は遠くの山まで広がっている。天気もよく、上から見える木々は日の光を浴びて所々明るく輝いていた。

「そうね。何度見てもこんな天気の日は感動する」

 言いつつ緑色の蛇口をひねる。

「おにーさん、はい」

「ありがとう」

 コップ一杯の水を一口貰う。

「それでジゼル。僕はどうしてここに居るんだ」

「そうだね、言わなきゃね」

 森の方へ近づき切り株に腰掛ける。目で「座って」と勧める。

「……」

「……うん。昨日の朝洗濯物を干しに行った時、その道中でおにーさんが倒れてたの」

――それで、ちょっと怪我してたみたいだから家に連れて行って、私が治してあげたの。久しぶりに人に会ったから嬉しかったんだよね。それだけ。

「……うん?」

 ちょっと情報が少なすぎやしないか。

「どうしてここにいるのか。は、それだけ」

「あの防具は…」

「あれはおとうさんが昔着てたの」

「ここはどこ?」

「ここは人の住んでるところからは魔女の森って呼ばれてる」

 矢継ぎ早に質問するが全て的確に返答してくれる。魔女の森…ついさっきも魔女を名乗っていたけど、この子もそうなのか。

 朝日に照らされたジゼルを見つめると、記憶の片隅にある魔女とはかなりイメージが異なる。

「魔女ってもっと…ババア臭いと思ってたんだけどなぁ」

「…?ばばあって何?」

 言って少女はこちらの目を見つめながら疑問気に少し首をかしげる。

「あーいや。なんでもない、忘れて」

 ジゼルは首は若干斜めのまま、疑問気な表情も変わらぬまま質問してきた。

「……ところでおにーさん。私、魔女だよ?」

「そうらしいね」

 足を前後にパタパタさせ、手を上に上げて僕を襲うようなジェスチャーをする。

「なんていうか、うわーってならないの?」

「うわーって?」

「魔女だ逃げろーとかこっちへくるなとか近づくなとか」

「思わないね」

 ジェスチャーを止めて手を太ももに付け、キョトンと不思議そうにさっきとは反対方向に首をかしげる。

 何と言うか、やはりクセのある子だ。

「じゃあ私ってかわいい?」

「……うん、ジゼルは可愛いね」

 唐突な質問に若干戸惑った。

「うはーぁ。嬉しい!」

 可愛いといわれにっこにこするジゼル。悪意のカケラもない無垢な笑顔だ。

 上半身をゆらゆら揺らしながら足をパタパタさせている。


「んふふ」

 数分経って会話も一切ないがずっとこの調子 (にっこにこ)。かなりご機嫌らしい。

 ちなみに自分はそれをずっと眺めていた。

「ジゼル。あの防具…お父さんのことだけど、お父さんは何処にいるの?」

「んー?おとうさんはー…そこから落ちちゃった」

 そう言って小屋の向こう側、崖の方を指差した。

「あ……」

「結構前に。うああああっておとうさんの叫び声がして、急いで崖の下を覗いたらおとうさんが落ちてるのが見えた。その後下を見にいったらおとうさんの骨があった」

「ジゼル。それくらいでいいよ」

「ん?おにーさんつらい?」

「そうだね」

 その時、僕は少女の無邪気さがとても哀れに思えた。

「ごめん、僕が嫌なこと質問して…」

「へーき。それじゃあおにーさんが私に嫌なことを質問したお詫びに、私がおにーさんにプレゼントを差し上げよう」

 言ったことに少し戸惑ったが、つまり彼女は、『僕の』『罪滅ぼしのため』に『彼女が』『プレゼントを差し出すこと』で『許す』…と。

「いや、いいよ」

「プレゼントするのがお詫び。思い出させたおにーさんのせーい…」

 それが道理だろうか…いや、この場合受け取る方が正解なのか。

「そういえばおにーさんの名前知らない。教えて」

「え?」

 名前?僕の名前…名前…。

「名前は…思い出せない」

 素直に打ち明ける。

「おにーさん思い出せないって名前なの!!?」

 声を荒げて仰天する。慌てて「ちがうちがう」と訂正を入れる。

「僕の名前は、僕にも分からないんだ」

「おにーさん自分の名前を知らないの?」

「そう。知らない」

「へぇー…何も知らないの?」

「何も。記憶ってものが無いんだ」

「じゃあなんで魔女とか、おとーさんとかわかるの?なんで喋れるの?」

「なんて説明したらいいかな…記憶と、固有名詞とかの名前が思い出せないんだ」

「ふーん」

 しばらくお互い無言になってしまう。

 小屋の窓に映る僕の姿に僕は疑問を感じる。

 僕は、本当に僕は誰なんだ?切り株に座りこちらを見つめる青色の髪をした若い男。体つきは細すぎはしないが、それはあまり身長が高く見えないからだ。どうみても優男な…おとなしい外見だ。

 この間ジゼルは顎に手を当てて「うーん」と唸っていたが、突然「よし」と勝手に決断した。

「それじゃあ。私がおにーさんに名前を付けてあげる。いい?」

………名付けるときたか。

「…場合による」

「そうだねー。おにーさん真面目で優しそうだから…アレックスでいい?」

「アレックスか」

 何かもやもやする。きっと聞き覚えがないか、または正解ではないから…なのか。

「いいよ。アレックスって呼んで」

「うはーぁ!」

 またにっこにこするジゼル。


 アレックス…ってかっこいいな。

 でもどうしてアレックスなんだろう。



 その後、僕らは小屋へ戻った。

 改めて見渡すと本当に本でいっぱいだ。本棚の中も上も下も分厚い書物だらけ。それ以外といえばクッションや椅子に被さる古新聞の紙切れくらい。

 ふと、その古新聞の記事が目に入る。

「グランツ王国…」

「おにーさんどうしたの」

 アレックスと名付けたのにおにーさんのクセが抜けていないようだ。

「見たことのある…聞いた事のある言葉だ。覚えていたって言えばいいのかな…知ってた。僕はこの国を知っていた」

 描かれた城と脳裏に写る城が霞んで一致する…が、鮮明にはならない。

「へぇ。それじゃあ、そこへ行けばおにーさん色々思い出すんじゃないかな」

「そうかもしれない…」

 心が躍った。心臓が高鳴り手汗が出てきた。古新聞を握る手は強くなり、目線もグランツ王国の欄に釘付けになっている。

「早くここへ行きたいな」

 早まる動悸で呼吸が乱れてきた。額から汗が流れ、荒い息遣いになっている。

「どうでもいいけどおにーさん。変態みたいだね」

言われて記事の内容へ目を通す。グラーク=グランツ国王の第一子が誕生した内容だった。問題は、その真下に独特な防具を身につけたセクシーな女性がアピールしている広告…大人の男性用の広告がでかでかと写されていた。

「ぶはっ」

 勢い余ってのけぞる。

「はーい、おにーさん。これこれ」

 そう言ってジゼルはベッドの近くからお父さんの形見である防具を投げ渡してきた。

「ジゼル?これはジゼルのお父さんの…」

 形見ではないのか?と戸惑いながら一つずつ受け取って床に置く。

「最後はこれ。手を前に出して…」

 後ろ手に何かを持ち、自分の膝まで詰まれた書物をひょいと跨ぎながらこっちに戻ってくる。

「はい、プレゼント」

 最後にジゼルから手渡された物は、光を反射させ美しく白光する銀色の盾だった。…のだが。……見事なのだが、大きさが鍋のフタ程だった。事実、盾と疑うほどだ。

「ちっちゃ…えーと…これは?」

「シールドゥォ」

 発音のクセありまくりだなぁ。

「見たら分かるけど。お守りとか?」

「ううん違う。ママがおとーさんに作った魔法のシールドゥォ」

「魔法のシールド?」

「うるうる…おにーさんにシールドゥォって言ってほしい」

「そんな目をしたってシールドゥォなんて言わないぞ」

 ジゼルは腰に手をつきムスッとむくれる。

「とにかくー。おにーさんがこれを全部身につけて」

「わかった」

 言われたとうり。肩当、胸当て、膝当て、臑当て、小手、ベルトに靴。それぞれ装着する。最後に小さな銀色の盾を左手に掴む。

「これでいいか?」

 盾は小さいがこれに槍や剣を付けたら最終決戦前の冒険者の格好だ。それほど防具はしっかりと作られており、僕の体には少し大きかった。

「うんうん。おにーさんかっこいい」

 照れる。

「ありがと。ところでこの盾はどういうものなの」

 顔の面積程度しか守れなさそうなんだが…。

「露骨な態度。外見なんて気にしないでいいの、この盾はどんな攻撃でも衝撃なしで防ぐんだから」

 プンスプンス。ジゼルは上目遣いで盾の性能を訴える。

「物心ついた時にはここにあったんだけど、パパがこれをつけてたときは傷一つ負った事もないし、私の魔法も何一つとして効果が無かったんだよ」

「魔法が効かないのか?すごいな…」

 説明から伺える高性能ぶりに言葉が出なかった。

 実証が無いから当てにはしきれないが、少しは期待出来そうだ。この防具も、ありがたく頂戴しよう。このサイズ感なら今からでも鍛えていけば馴染める。

 グランツ王国か…ほかの本に場所の分かる地図はあるかな。せめて方角等がわかればいいんだけど。

「…これならおにーさん、何処へだって行けちゃうね」

 僕の内心を見透かすようにジゼルはもの寂しげにつぶやく。

「それは…まぁ、そうだね」

 ふとジゼルを見ると俯いていて、名残惜しそうに僕の服をつまんだ。

「どうしたのジゼル?そんな顔…」

「ママからの約束なの。おにーさんにはここを出てもらわないと駄目なの」

「魔女の掟とか?」

「そう。私は寂しいけど…掟だから」

「ジゼルのお母さんは…」

 母親なら色々知っているかもしれないと思い尋ねたがその瞬間、お父さんの話を思い出す。

「ママは…私が小さい頃に居なくなったの」

 俯いたままのジゼルの姿は父の話をする時よりも寂しげだ。気付けば服を握っていた手が震えている。

 これ以上の言及は僕には出来なかった。

「……ごめん」

「お詫び。おにーさんとはさよなら」

「ああ。そうだね」

 そう言った途端、ジゼルが僕に抱きついてきた。

「うっ…うううう。私泣いてる」

「…助けてくれてありがとう。ジゼル」

「うぅぅぅぅ…ぁぁぁ」

 僕はしゃがんで、ゆっくりと紫色の髪をに手を当てて抱き寄せた。



 この子はひとりだったのか。

 母親の話をしてついに感情が抑えきれなくなっていた。

 父の死後、一人で寂しかったんだ。

 ずっと複雑な書物を読んだり、魔法の勉強をしていたんだ。母親が魔女だったから。

 そんな形でしか母親を理解できなかったから…。



「おにーさん。出て行かないで…」

 少女の中に納まりきらない感情があふれ出していた。

 ジゼルの肩を持って距離を開け、まっすぐ目を見つめる。

 顔を赤くし、涙でいっぱいの眼差しには

「ジゼル。君が一番大事だと思う方を選んで」

「大事…?」

 感情的にならず、彼女自身が本当に正しい選択をしてほしい。

「私が、ひっく…一番大事なのは…守ること」

 嗚咽は止まないが少しずつ答えを出していった。

「おとーさんが守った…ママの大好きな森を守ること」

 それがジゼルの答えだった。



・・・・・・



「じゃあね、ジゼル」

「さようなら。おにーさんとお別れだね」

「また…」

――いつか会おう。

「誰かが倒れていたら、助けてあげるんだぞ」

「うん。私、分かった」

 そして僕の手に水色の石を握らせた。

「この石は川に引き寄せられるから…後は川を伝っていけば安全に抜けられる」

「ありがとう」

「さよなら…アレックス」

「……」

 最後に頭をこつんと叩き、何も入っていない皮袋を肩に回して手を振って森の中へと足を踏み入れた。




「あの感覚…」

 ジゼルを抱きしめた時。匂いや感触に懐かしさを感じた。

 名残惜しさを感じながら僕は森の中を歩き、唯一の手がかりであるグランツ王国へと旅立った。


 そして時折、石を見てはジゼルを思い出すのだった。


・・・・・・


 一人になったジゼルはあるものを見ていた。

 昔から気になっていた。

 研究資料でも、新聞でもない。

 小屋にある。ほとんど読み取れない古い紙切れ。小屋に唯一つ存在する、自分でも父の物でもない、汚れて掠れた誰かの手書きの文章。

『―後に、貴方に――物をあげた―――。

けど――叶わない―――。――――なさい。―贈る―シールドゥォ――に―』

『僕が君の故郷を守る』

『あ――最後に泣いた私――きしめてくれた―ね。す――うれしかった。

―なら、アレックス。』


「アレックス…がんばって」


この作品は不定期投稿となります。

主に筆者の文章力 ストーリー構成 身の回りの事情によります。

何かと至らない点があるかもしれませんがよろしくおねがい致します。

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