↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新ジャンル開拓!?『異世界転相――現異区域。それは現代と異世界を生きる街――』  作者: 佐武ろく
第一編『終焉社』第一章『探偵事務所モノクル』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/14

『終焉社より愛を込めて』3

一方で街では。魔物は、減っている。――はずだった。


「まだいるのかよ!」


 堂真が拳を振り抜く。吹き飛んだ魔物が、道路を転がった。だが、その向こうから、また別の影が走ってくる。


「何匹いるんだ、これ……!」


 澪が、息を切らしながら後退する。屋根から一匹。路地から二匹。さらに、建物の陰から別の魔物が這い出してくる。

 最初に比べれば、確実に数は減っている。それでも――終わらない。


「くそっ!」


 堂真が、もう一度拳を叩き込む。魔物が倒れる。

 その直後。


「上!」


 澪が叫んだ。

 堂真が身を捻る。頭上から飛び込んできた魔物を、腕で受け止める。


「ぐっ……!」


 そのまま、地面へ叩きつける。


「……ったく」


 堂真が息を吐いた。


「どんだけいるんだよ」


 東側でも、同じだった。


「もういいって!」


 凛が刀を振り抜く。一匹を斬り倒す。その横から、別の魔物が飛び込んでくる。


「まだ来る!」

「見えてる!」


 フェルリスが、双剣を交差させる。飛び込んできた魔物を弾き飛ばす。


「こいつら、数だけは一丁前だな!」


 だが。その時だった。フェルリスの足元を、別の魔物が駆け抜けていった。


「……あ?」


 襲ってこない。そのまま、走り去っていく。


「おい。逃げたぞ」

「……?」


 凛が振り返る。路地の奥へ消えていく、小さな背中。

 別の場所でも。魔物が一匹。戦っていた警察官たちの横をすり抜けていく。


「おい、待て!」


 隊員が追おうとする。

 しかし魔物は、突然立ち止まった。


「……何だ?」


 小さな身体が震えている。唸り声。それは、敵を前にしたものではなかった。何かに怯えているような――。

 いや。何かに引かれている。

 次の瞬間。魔物の身体が、横へ引っ張られた。


「――っ!」


 爪が地面を削る。必死に踏ん張る。それでも、身体は止まらない。

 ずるっ。ずるずると。見えない何かに、引きずられていく。


「なんだ?」


 警察官が、声を漏らす。

 魔物は必死に踏ん張る。だが、その身体を引く力は、それ以上だった。

 同じ頃。別の場所でも。一匹。また一匹。さらに一匹。まだ生きていた魔物たちが、突然同じ方向へ走り始めた。


「何だ?」

「魔物が移動してるぞ!」

「待て、そっちは――」


 警察官たちの制止も聞かず、魔物たちは走る。道路を横切る。建物の隙間を抜ける。屋根を飛び移る。

 そして――互いに、引き寄せられていく。


「……まさか」


 澪が、目を見開いた。

 視界の奥。別の路地から、一匹の魔物が飛び出してきた。さらに反対側から、別の魔物。二匹が、何かに引かれるように、空中へ跳ね上がる。


「おいおい……」


 堂真が構える。

 二匹の身体が――ぶつかった。

 次の瞬間。肉が潰れた。骨が軋んだ。そして、二つの身体が沈み込む。


「……っ!」


 澪は息を呑んだ。

 片方の脚が、もう片方の胴体へめり込む。毛皮と皮膚が絡み合い、別々だった肉体が一つへ押し込まれていく。

 そこへ、さらに一匹。建物の陰から飛び出した魔物が、何かに引きずられるように、二体へ吸い寄せられた。


「三匹目……!」


 融合した肉体が、大きく膨れ上がる。四本だった脚が増えた。しかし、それらは左右対称ですらない。胴体の横から、明らかに別の生物の脚が突き出している。

 犬のような頭部。そのすぐ横には、猫ほどの魔物の顔。どちらも同じ身体に押し込められ、別々の方向を向いている。

 皮膚は継ぎ接ぎのように重なり、毛の生えた部分と鱗のような部分が、まだらに混ざっていた。

 巨大になった。だが、それは進化などではない。ただ、いくつもの生命を、一つの肉体へ無理矢理押し込めただけだった。

 巨大な魔物が、立ち上がる。

 その瞬間――ギシッっと肉体が軋んだ。


「……気持ち悪ぃな」


 フェルリスが吐き捨てる。


「同感。鳥肌立ちそう」


 凛が、刀を構え直す。

 そして遠くから、別の咆哮が響いた。


『――グオオオオッ!』


 一つではない。二つ。三つ。街の別々の場所から、巨大な咆哮が重なった。

 リゼリアの声が、通信から飛び込んでくる。


『大型個体を確認!』


 全員が耳を傾ける。


『東部、確認しました!』


 報告は続く。


『西部でも、大型個体を確認!』


 さらに。


『三体目です! 別地点でも発生!』


 リゼリアの声に、僅かな緊張が混じる。


『三体すべて、複数の小型魔物が融合したものと見られます!』


 堂真が、顔を上げた。


「三体……」

『警察が、それぞれ対応に入ります』


 リゼリアが続ける。


『ですが、三体同時となると――』

「俺たちも行く」


 堂真が即答した。


『お願いします』


 通信が切れる。

 堂真と澪は、一度凛たちと合流した。


「どっちだ?」

「一番近いのは――」


 凛が周囲を確認する。


「こっち」

「よし」


 四人が走り出した。

 その背後では、巨大な魔物が、ゆっくりと立ち上がっていた。

 ――ギシ。――ギシ。

 身体が動くたびに、肉体が軋む。まるで、その身体そのものが、自分の存在を拒んでいるようだった。


      *


 街の別の場所。大型魔物の前に、警察の部隊が展開していた。


「散開!」


 隊長の声が響く。

 大型魔物が、腕を振り下ろす。


「来るぞ!」


 全員が、一斉に退避する。地面が砕けた。それでも、誰も怯まない。


「正面班、牽制!」

「了解!」


 複数の隊員が、同時に攻撃する。魔物が身をよじる。


「今だ!」


 別の隊員が、側面へ回り込む。銃撃と特殊装備による攻撃を使い分け、動きを封じていく。

 大型魔物は確かに巨大だった。だが、動きは鈍い。身体の各所が噛み合っていない。腕を振れば、その反動で別の脚がよろめく。攻撃のたびに、自分自身の肉体が軋む。


「効いてる!」

「そのまま攻撃を続けろ!」


 警察は、着実に追い詰めていた。

 ――クロスタウン警察は、何もできないわけではない。街全体を守りながら、同時に複数の大型個体へ対応している。

 そして。そのうち一体を――モノクルが受け持つ。


       *


「来るぞ!」


 堂真の声が響く。

 巨大な魔物が、四人へ向かって走り出した。


「速っ――!」


 澪が身を引く。巨大な腕が振り抜かれる。


「伏せて!」


 凛の声で四人が散開する。

 直後、道路が大きく陥没した。


「うわ……!」


 澪が目を見開く。


「当たったら終わりだぞ、これ!」

「だから当たんな!」


 フェルリスが叫ぶ。そのまま正面へ飛び出した。


「おらぁ!」


 双剣交差させる。巨大な腕へ斬り込み、肉が裂ける。

 だが――浅い。


「ちっ!」


 フェルリスが飛び退く。魔物が腕を振り回す。


「フェル!」


 堂真が飛び込んだ。両腕で、真正面から受け止める。


「ぐっ……!」


 足が地面へ沈む。


「堂真!」

「まだだ!」


 堂真が踏ん張る。


「今だ、凛!」

「分かってる!」


 凛が走る。巨大な身体を駆け上がるようにして、接近する。狙うのは――首。


「そこ!」


 刀が閃き、深く斬り込む。

 魔物が咆哮した。


「効いてる!」

「もう一回!」


 凛が距離を取る。

 だが、巨大な腕が、横薙ぎに迫った。


「凛!」


 澪が飛び込む。腕を掴み、そのまま引き倒す。


「危なかった……!」

「助かった!」


 その瞬間。魔物の別の頭部が、澪へ向いた。


「――!」


 牙が迫る。澪が咄嗟に、腕を掲げて防ぐ。だが、巨体の勢いに押されて、吹き飛ばされた。


「澪!」

「大丈夫!」


 地面を転がりながら、立ち上がる。腕には傷が走っている。


「これくらいなら!」


 澪が駆け、魔物の背後へ回り込む。その身体には、いくつもの魔物の特徴が混ざっていた。

 四本の脚。そのうち一本だけ、明らかに別の生き物のもの。翼のような器官。蛇のような尾。そして、複数の頭。

 どれも、同じ意思で動いているわけではない。

 だからこそ。


「……噛み合ってない」


 澪が気づく。


「みんな!」


 声を上げる。


「こいつ、身体がうまく動いてない!」

「分かった!」


 堂真が答える。


「つまり――」

「ぶっ壊せばいいってことだな!」


 フェルリスが笑う。


「つまりっていうほどか?」


 堂真が拳を握る。


「フェル、右!」

「任せろ!」


 フェルリスが右側へ回る。堂真は正面。凛は左。澪は背後。


「行くぞ!」


 堂真が突っ込む。巨大な拳を受け流す。フェルリスが脚を斬る。


「おらぁ!」


 巨体が傾く。


「今!」


 凛が跳ぶ。刀が、首元へ入る。魔物が暴れる。澪が、背後から腕を掴んだ。


「こっちだ!」


 ――引く。巨大な身体が、さらに崩れる。


「堂真!」

「おう!」


 堂真が、地面を蹴った。拳を振り抜く。


「――うおおおおっ!」


 拳が、巨体の中心へ叩き込まれた。魔物の身体が、大きく揺れる。

 そして凛が、最後の一撃を振り下ろした。

 巨大な身体が、ゆっくりと倒れていく。地面が震えた。

 しばらく、誰も動かなかった。


「……終わった?」


 澪が呟く。


「終わったな」


 堂真が息を吐く。


「……疲れた」


 フェルリスが双剣を下ろす。


「最初からこれ出せよって話だ」


 凛が苦笑する。


「最初からこんなの出てきたら、もっと大変だったよ」

「まあな」


 堂真が、倒れた魔物を見る。その姿は、最後まで一匹の生物には見えなかった。いくつもの魔物を無理矢理繋ぎ合わせた、歪な巨体。


「……魔物の習性じゃなさそうだな」


 堂真が呟く。

 凛も頷く。


「うん」


 フェルリスが、魔物を見下ろした。


「趣味悪ぃ」


 澪は、何も言わなかった。ただ、その身体に残った、いくつもの魔物の特徴を見つめていた。

 その頃。別の二地点でも、戦いは続いていた。

 だが――やがて、一つ。また一つ。通信に報告が入る。


『大型個体、撃破完了』


 リゼリアは事務所のモニターで反応を確認していた。


「……三体とも、撃破」


 ミレシアが、胸を撫で下ろす。


「よかった……」

「はい」


 リゼリアは、画面を見つめる。

 警察とモノクル。それぞれが、役割を果たした。

 街は、まだ混乱している。建物は壊れ、道路には傷跡が残っている。

 それでも――人々は、生きている。魔物は、止まった。


「……事件は、無事収束に向かっていますね」


 リゼリアが呟いた。


        *


 そして。終焉社。


「おお!」


 魔王ルードが、モニターへ身を乗り出した。


「倒したぞ!」

「本当ですねぇ!」


 黄昏卿が、楽しそうに拍手する。


「いやぁ、素晴らしい」

「三体ともか?」

「ええ」


 モニターを切り替える。別の地点。そこでも、警察が大型魔物を制圧している。


「警察もやりますねぇ」

「あの程度で苦戦するようじゃ、面白味もないからな」

「その通りですね」


 黄昏卿は、満足そうに笑った。

 だがその目は、戦いそのものではなく――画面の隅に表示された、別の情報を見ていた。


「……さて」


 小さく呟く。


「これで、第一段階は終わりです」

「次だな」


 魔王ルードが笑う。

 黄昏卿は答えず、杯を傾けた。

 そして。


「まずはもう少しだけ、待ちましょう」


 楽しそうに笑った。


           *


 街では、人々がようやく日常を取り戻し始めている。警察が現場を封鎖し、負傷者を運び、壊れた街を確認していく。

 モノクルの四人も、疲れ切った身体で、その光景を眺めていた。

 誰も知らない。今日起きた騒ぎが――終焉社にとって、ただの「挨拶」に過ぎなかったことを。

 そしてこの日を境に。クロスタウンは、終焉社という名の存在を、無視できなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。