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陰陽師  作者: aoto
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陰陽師2

 妖狐が出た、というらしい。

 父も母もノボルもカケルも招集された。妹のキリコは年端がいかないというので母屋に残された。けれど、実はキリコだけ術が使えない。

 普通、妖魔が出現した時に現場に向かうのは男の仕事である。女はたとえ術が使えるものであっても、結界術を駆使して、家を守る役割がついている。男尊女卑の考え方からというよりは力の強さゆえである。

 もちろん、他にも要因は重なっているのだが、特殊な職業とはいえ、肉体労働であることに代わりはなく、純粋に男手が好まれている。それが一家総出で駆り出されたということは、よほどの事態だったといえる。キリコだって、小さな術式一つ使えたなら招集に応じなければいけなかったのだ。


「父上、それほど気性の荒い妖狐なのでしょうか?」

 支度をする父に声をかけるが、父の声はどこか急いている。

「わからん。わからんが、カケルも命だけは覚悟しておいてくれ」

 気をつけろ、と父は言わなかった。妖怪退治に駆り出されることはこれまでにもしばしばあったが、大概は大人が始末をする。

 比較的おとなしい妖魔であったり、小さいものであると子供にも任せてくれることがあるが、そんなことは珍しい。

 いざ、魔物と対峙したとしても、陰陽師仲間の若頭となっている者の言うことに従い、結界術で妖魔の動きを封じたり、式神を使って錯乱をすることが多い。

後は専ら町の修復であったり、掃除を行う。


 妖魔には種類があって、大まかに区別すると、人の怨念から生まれし霊と、獣の怨念から生まれる霊とが存在する。

 どうしても押さえつけられなかったものは封印を施すが、大方は山に帰したり、穢れを祓うことで霊を浄化させるのである。対妖魔の術式を教わることができるのは若頭になったときだけである。

 無論、カケルもノボルもまだまだひよっこなのである。

 つまらないといえばつまらないが、任の重さは痛みにしみて理解することができる。仕損じた陰陽師が命を落としたという例は、現代においても絶えなかった。


 現場から5キロ離れたところに招集用のテントがすでに張られている。

 本来子どもの仕事ではあるが、作業がいつになく早い。4人が駆け付けると、ノボルの許嫁である識が出迎えてくれた。

 和服姿に身を包み、懐から取り出した術用の紙を配給している。

「こちらでございます」

「これから子を産む大事な身体だというのに」

 苦笑する識を庇って、父の呟きに母はきっとにらみをきかせる。

「あなたの言葉はいつも不用意です」

「悪かった」

 父はことの重さを知って母に謝った。何気ないやりとりではあるが、これも珍事である。


 陰陽師の流れを汲む家系は血縁を大切にする節がある。

 ノボルの許嫁である識も、同じように陰陽師の血縁から選ばれた一人だった。

血を絶やさないように気遣わなければいけないという、オモテの世界では通用しない常識が陰陽師の世間に流れているのだが、その気遣いすら後回しにしなければいけない長の決断と言い換えることもできた。日常がひっくり返っているのではないか、とカケルは思った。


「今回の妖魔は並みのものではないらしいが」

 父も母もノボルも友人仲間をみつけて情報収集に走りだす。カケルがいつもつるんでいる同級生の足立はどうやら出遅れているらしい。一人残されたカケルに識がお守りを渡してくれる。

 三日月の形をした耳飾りであった。

「お月さんは導力の源なんよ。少しでも加護があればと思って」

 ありがとうございます、とカケルは礼をした。

「なんでも、見たことのない妖狐らしいわ。毛が真っ青で。異国の魔物かもしれへんと噂ばかりが立ってるんよ」

 カケルはそれで合点がいった。未だ対峙したことのない種類の妖魔であるから、大人衆は迂闊に手を出せないのだ。


 妖魔の元となる霊の種類によっても対応する術式に違いは出てくる。

 生霊であれば祓いの呪いで済む。性質の悪い死霊であれば滅することも必要となる。ヌシ、あるいはヌシの候補とされる霊には供物をささげ、対話をする場合もある。

 どの霊も人に仇をなす迷惑な妖魔であることに代わりはない。全て滅してしまえばいいとカケルは考えるが、ただ闇雲に術式を使うべきではない、というのが陰陽師協会の鉄則となっている。

 若頭にでもなってしまえば、そこのあたりの細かな事情というものを理解できるのかもしれないが、カケルにとっては数年先の話であった。


 足立も遅れてやってくる。招集された陰陽師に言い渡されたのは結界術式の協力要請ということらしかった。


「発見されたのは一匹の蒼色の妖狐。体長10メートルを越し、口から炎の息吹を吐く。どこからか迷い込んだと思われる。二度、三度炎を吐いた以外は攻撃をしかけてくることはないが、その炎の威力はすさまじい。山に住む、他の狐や妖狐たちは彼を知らないという。どこの地方の出身であるかもわかっていない」

「ヌシ様でしょうか?」

「ヌシ様になるだけの器はない。ヌシ様が火を噴くなら我々の手には負えない」


 会堂が騒ぎたて始める。

「せめて生霊か死霊かだけでもわかればいいのだが」

「見た者の話では突然現れたということだから、もっと別の類のものかもしれないということだ」

「邪気のないものに祓いを行うと祟りが出る故、被害の少ない今は手をこまねくしかないのだろう」

「ああ、それで女子供も総動員で結界を」

「とりあえず強固な守りが必要ということらしいな」

「数に勝るものはないというわけだ」


 

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