鯨を護る活動家
捕鯨反対は、本当に鯨の擁護活動か?
「でも何で鯨を護ってるのが面倒なの?」
オーストラリアの町を歩きながらの良美の言葉に較が肩をすくめる。
「前にレッドデータアニマルを保護しようとしていた人も居たでしょ?」
良美が頷く。
「そんなのが居たね。あの人は、今頃何をしてるんだろう」
「一応元気にやってるみたいだよ。他人から見たら、物凄い惨状だけど」
較の答えに良美が遠い目をする。
「深く考えない事にしておくよ」
較が強く頷く。
「話を戻すけど、捕鯨反対って言うのは、ああいうのと少し違うんだよ」
首を傾げる良美。
「どういうこと? 絶滅するかもしれないから保護しようとしているんじゃないの?」
較がデータを見せる。
「日本がやっている様な調査捕鯨じゃ、絶滅なんて間違いなく起こらない。それでも、捕鯨反対の人達は、日本の調査捕鯨すら止めさせようとしている。何でだと思う?」
「鯨が好きだから?」
良美のストレートの答えに較が頷く。
「正解。あの連中は、自分達の好き嫌いで、鯨の保護を訴えているだけ。あの連中の考え方で、一番嫌いなのは、鯨の頭が良いから、殺して食べるなんていけないって奴」
良美も眉をひそめる。
「それじゃ、馬鹿だったら食べても良いって事になっちまうじゃないか?」
「そこまで単純じゃないけどね。ようは、頭が良いから痛みとか解るとか色々、難癖をつけてるんだよ。その上、政治問題までからんでるからひたすら面倒なんだよ」
較がため息を吐き、目的地の料理屋に来た。
「それにしてもこの店が、このオーストラリアでよく営業できてるな」
較は、漢字で鯨と書かれた料理屋に入っていく。
そして、中に入ると今回の目的の人物、オーストラリア人の男性、ホイル=マッコウが居た。
「待っていたよ。君たちがイートコさんの言っていた、反捕鯨団体に致命的なダメージを与える事が出来る人間なんだね?」(英語)
意外な言葉に較が驚く。
「えーと、貴方は、鯨を護る為に戦っている人だって聞いたんですが?」(英語)
ホイルが頷く。
「そうだ。だから、今日もこうやって、鯨料理屋に来て、鯨を食べる罪悪を背負っている」(英語)
頬をかく較。
「もしかして、鯨の食べないで美味しい不味いって論争する訳には、いかないから?」(英語)
震える手で鯨の肉を口に運ぶホイル。
「そうだ。真に鯨を護る為には避けて通れない道なのだ!」(英語)
「何か、変な人だね」
良美の言葉に較が頷く。
食事をしながら詳細の話を聞いて較が言う。
「詰まり、今の過激な反捕鯨活動を止めたいと言うのですね?」(英語)
ホイルが机を強く叩く。
「奴らは、何も判っていない! 捕鯨禁止などでは、鯨を護る事など出来ないのだ!」(英語)
頬をかく良美。
「よく言葉も良くわからないけど、とにかく、捕鯨禁止でどうして鯨を護れないの?」
較が苦笑する。
「禁酒時代に酒が無くなった事は、無いってんだよ。どんなに禁止されていても酒は、求められる。今だって麻薬が禁止されているのに世界各地で違法に栽培されているしね。結局のところ、禁止されても捕鯨は、行われる。そこで問題になるのは、今みたいな計画的な捕鯨でない、密漁が横行すれば、洒落抜きで絶滅する鯨が何種類も居るんだよ」
「実際に食べて見たが、決しても不味いものでもないのがハッキリと判った。そうなれば、後は、個人や民族の習慣による差しかない以上、何時意見が切り替わるか解らない。絶滅の恐れのないレベルで捕鯨させた方が建設的だろう」(英語)
ホイルの意見に較が頷く。
「そこまでは、解りましたけど、どうしてそこまで今の捕鯨団体を嫌うのですか?」(英語)
ホイルが新聞に取り上げられている一面記事を広げてみせる。
「そこに載っているのは、捕鯨反対を掲げて選挙に当選した議員だ。奴らは、鯨を選挙の道具にしか考えていない。そんな奴等は、選挙の為なら幾らでも鯨を見殺しにする」(英語)
較は、少し考えてから言う。
「それなら、もっと詳しく鯨を理解してもらえば良いんじゃないんですか?」(英語)
「詳しくだと?」(英語)
ホイルが問い返すと較が笑顔で答える。
「はい、それこそ一緒に暮らす感じで」(英語)
こうして較の反捕鯨団体に対する大胆な作戦が始まるのであった。
数日後、鯨擁護の第一人者であるホイルの呼びかけで、反捕鯨団体の幹部達が集まった。
「ホイルさん、今回は、どういった趣旨の集まるなんでしょうか?」(英語)
代議士の男性が尋ねるとホイルは、満面の笑顔で答える。
「鯨を愛する者にとっては、とても有意義な時間になる事でしょう」(英語)
一般参加者が首を傾げる。
「どういう意味ですか?」(英語)
ホイルが後方のドームを指差す。
「そこのドームで、鯨との共同生活を疑似体験出来るのです。直ぐ傍で鯨と触れ合えるのは、我々にとっては、これ以上無い経験では、ないでしょうか?」(英語)
歓声が上がる。
「なるほど、鯨の事をもっと良く知り、一層の結束を高めようと言うのですね」(英語)
代議士の男性の言葉にホイルが笑顔のまま答える。
「本当に鯨好きの我々には、貴重な体験になる筈です」(英語)
そして、誰も何も不安を覚えず中に入っていく。
それを見送って扉を魔法で封印する較。
「準備完了。ちゃんと、事前に契約儀式も終えてるし、問題なく結界が発動するよ」
良美が眉をひそめる。
「結局、何をするの?」
較がドームの壁を軽く叩く。
「この中を鯨が住む海域と重ねるの。実際は、そこで発生する刺激をフィードバックするだけの物で、危険は、全く無いよ」
首を傾げる良美。
「それってどんな意味があるの?」
較が遠い目をする。
「あちきが始めて鯨とタイマンはったのは、小学校の低学年の頃だったけど、それは、何度死ぬかと思ったことか」
「鯨と生身でタイマンはるって考えが浮かぶ自体に問題があるけど、何となく言いたい事が解ったよ」
良美がドームの方を向くと中から悲鳴が木霊してくる。
ドームの中で逃げ惑う人々。
必死に壁と思われる場所を叩く代議士の男性。
「出せ! 私は、代議士だぞ! こんな所で畜生に食われてたまるか!」(英語)
ホイルは、平然と告げる。
「安心してください。これは、たんなる疑似体験です。絶対に死ぬ事は、ありません」(英語)
「冗談じゃないこんな、化け物の傍にずっといられるか!」(英語)
代議士の言葉に頷く多くの幹部達。
ホイルが眉をひそめる。
「化け物、冗談は、止めてください。彼らは、高い知性を持った生物です。性格も温厚で、人に害を与えたりしませんよ」(英語)
ホイルの直ぐ目の前を巨大な鯨が通り過ぎていく。
ただ、それだけで物凄い水流が発生し、ドーム内の人々に恐怖を与える。
多くの人間が泣き叫ぶしか出来なかった。
鯨の巨大な口が開き、大量の海水が飲み込まれながら、魚達がその喉の奥に消えていく。
鯨の口が閉じられ、鯨に飲み込まれた人間は、消化されていく魚達の姿に恐怖しか感じなかった。
開放された後も、子鯨達の喧嘩、激しい求愛行動など、様々な鯨の生態を間近で体験する事になった。
一時間も過ぎて、ドアが開放されると元気そうな数名が出て伝える。
「ホイルさん、この度には、本当に貴重な体験をさせてもらった」(英語)
目を輝かせる幹部に笑顔を返すホイル。
「私ものです。今回の体験も今後の活動に生きていくことでしょう」(英語)
そして、次に出てきたのは、代議士の男性を初めとする、反捕鯨を主張して、利権を得た者達だ。
「言いか! 鯨なんて地上から全滅させてやるんだ! あんな化け物なんて全滅すれば良いんだ!」(英語)
携帯で、怒鳴り散らす代議士の男性に苦笑しか浮かばないホイル。
「ほっておいて良いですよね?」(英語)
較の言葉にホイルが頷く。
「感情で今までの主張を覆す政治家には、誰も投票しません。これで、鯨を政治の道具にする愚者が大分減りました。これからは、私達が地道に鯨を護っていきますよ」(英語)
一切の迷いのない顔でそう告げてホイルが去っていく。
「やはり人間は、強い。私だって鯨と同じ空間に居たいとは、思いませんよ」
例の如くいきなり現れたイートコに較が言う。
「ホイルさんは、特別だよ。多くの人間は、自分の尺度で全てを考える。自分の目に映っていた遠くに見える小さな鯨だけが全てだと勘違いして、保護しようなんて馬鹿げた事を考える」
「私は、もっと凄い人物を知っています」
イートコの言葉に較が興味をそそられる。
「面白いわね、どんな人?」
イートコが良美を指差す。
「少しでも間違えれば地球を滅ぼす爆弾になり、鯨や戦闘機より高い戦闘能力を狡猾に使いこなす、地上最強の破壊の象徴、貴女の傍に居続けられる彼女こそ、地球上で一番勇敢な人間でしょうね」
口を膨らませる良美。
「冗談を言わないでよ。あたしがヤヤの傍に居られるのは、安全だと信じているからだよ。安全の保障も無いのに、信念で無理してる人達と一緒にしないで!」
苦笑するイートコ。
「そうですか。気をつけさせてもらいます」
「ところで、そろそろ準備が終わったんじゃない?」
較の問い掛けにイートコが遠い目をする。
「はい。死海、そこで儀式が行われます」
較が真剣な顔で言う。
「やっぱり、死海の魔王を再召喚するのが目的だったんだね」
イートコが頷く。
「生命を拒む海、全てを多い尽くす唯一者、死海の魔王、侵食者イーン、我が父親が再びこの世界に舞い戻るのです」
良美も睨む。
「そいつは、こっちに来て何をするつもりなの?」
イートコが淡々と答える。
「父は、元の世界を完全に覆いつくしました。その性を満たす為、新たな目標としてこの世界を目指したのです。しかし、高すぎる危険性故に八百刃獣によって押し返されてしまいました。父は、その性をこの世界で満たす為に再来するのです」
較が右手を突きつけて宣言する。
「絶対にさせないよ」
イートコは、何故か較を見つめて頭を下げて消えていくのであった。
「結局、あたし達は、死海の魔王を呼び出す助けをしただけなの?」
良美の問い掛けに較が笑みを浮かべる。
「八刃とあちきがそんな事をすると思った?」
「また悪巧みをしてるの?」
良美の言葉に頷く較であった。




