近代的なジャングルの王者
何気に執事キャラ出てきます
「本当にターザンが出てきそうだね」
良美の言葉に較が襲い掛かってきた大蛇の首を片手で掴みながら言う。
「だからあれは、ファンタジーで……」
そんな二人の前に迷彩服を着、口に大型のサバイバルナイフを咥えた男が木々を飛び移っていく。
「ヤバイ、奴だ!」(英語)
密林の奥で、絶滅危惧種の捕獲に勤しんでいた男達が叫び、逃げ出すが、迷彩服の男は、直ぐに追いつき、男達を刺殺していく。
「ルールを守れないものには、死を」(英語)
そのまま消えていく迷彩服の男。
男達の死骸は、ジャングルの動物達が食べていくのであった。
「とんでもないシーンを見た気がする」
良美の言葉に較が平然と言う。
「自分達が非合法な狩猟をしてるんだから、死ぬ覚悟位は、しておくべきだね」
ジャングルに程近い町の食堂。
「結局、さっきのやつが問題のターザンって訳?」
良美の言葉に較が頷く。
「そうみたい。名前は、エーシャルス=エルセス。元は、立派な英国貴族だよ」
「英国貴族がどうして、こんな所に?」
良美の言葉に、較が難しい顔をする。
「大航海時代の名残って言うか、ここらへんには、まだイギリスの影響を強く残す地域があるみたい。一応は、独立してるんだけど、経済的には、イギリス企業が支配してる場所もあって、そういう場所に儀礼的に来てたのが、いつの間にかにって感じらしい」
「ふーん。ところで、あれって犯罪だよね?」
良美のストレートの言い方に較が肩をすくめる。
「相手の殆どが不法入国者で、立件されてないからいいんじゃない?」
良美が頬をかく。
「ヤヤのそういう、立件されなければ犯罪じゃないって考え方は、問題ない?」
「この頃は、人道的な事には、注意してる」
較の言葉に良美がため息を吐く。
「そう言えば、ヤヤって傷害と器物破損の常習者だったっけ」
不満そうな顔をする較。
「ヨシだって、殴ったりする事は、あるじゃん」
良美が半眼で言う。
「あたしは、全治三ヶ月以上の怪我は、させないよ。今年だけで何人再起不能にしたの?」
較が遠い目をして言う。
「人間頑張れば、どんな怪我も克服出来るよ」
そんな会話をしていると、一人の執事服の男が現れた。
「お久しぶりです、白風の次期長」
少し驚いた顔をする較。
「英志さん、どうしてここに?」
「出張中の主人の身の回りのお世話の研修中です」
そう答える、執事服の男、谷走英志であった。
「知り合い?」
良美の言葉に較が頷く。
「谷走の本家の人。確か、執事技能向上の修行中だった筈だよ」
驚いた顔をする良美。
「八刃がそんな非戦闘技能を気にするんだ」
「谷走は、例外です。執事として働く以上、それ相応の技能は、必要なのです」
英志が真摯な顔で答える。
「それでも、ここまでするのは、英志さんくらい。本来は、戦闘訓練の方がメインになるんだけど、英志さんの戦闘能力は、折り紙付だから、特別に許可されてるの」
そんな時、奥にいた淑女がベルを鳴らすと、英志が駆け寄る。
「お嬢様、何でございましょうか?」
淑女が小さな声で告げる。
「エーシャルス様の所在は、まだ掴めないのかしら?」
英志が即答する。
「誠心誠意、探索を行っておりますので、直ぐに掴めるものかと思われます」
「急ぎなさい」
淑女の言葉に英志が頭を下げる。
そんな英志を手招きして較が言う。
「もしかして、エーシャルス=エルセスの事を探してるの?」
英志が苦笑する。
「そういうことになっています」
歯に物が挟まった様な言い方に較が察する。
「ご主人様からは、探す振りだけして、お嬢様を満足させろって言われてるんだね?」
英志が小さく頷く。
「その通りですが、もしかして知っているのですか?」
良美が頷く。
「現代版ターザンだったらさっき見たよ」
小さくため息を吐く英志。
「困ったお方だ。お嬢様の婚約者であられながら、全てを捨てて、ジャングルの平和を守るなどと言われておられるのですから」
「それで、どうするの?」
較の質問に英志が淡々と告げる。
「お戻りいただきます。力尽くでも」
「そういうことなら、力を合わせましょう」
較は、そういって手を差し出す。
「喜んで」
英志も微笑み答える。
そんな二人を見て良美が言う。
「何か凄く強引な事になりそうな気がする」
「密猟者は、後を絶たない。どうしたら、ジャングルに平和が訪れるのだろうか?」(英語)
ジャングルの小さな小屋の中でエーシャルスの呟く。
「その様な無駄な事をせずに、婚約者の下にお帰りください」(英語)
影から現れた英志の言葉に、エーシャルスが首を横に振る。
「彼女には、悪い事をした。しかし、これは、運命なのだ」(英語)
「運命なんてくだらない物で、守られる動物達も迷惑だね」(英語)
入り口から入ってくる較。
「密猟者の手のものか?」(英語)
「違います。私は、エーシャルス様の婚約者の執事見習いをする者です」(英語)
英志がそう答え、頭をさげる。
「あちきは、貴方があったイートコの事を追っている者だよ。さっきも言ったけど、運命なんてくだらないよ」(英語)
「子供に何が解る。私は、このジャングルで、動物達に命を救われた。そうあれは……」(英語)
二年前のジャングル。
エーシャルスは、家の決まりで、ジャングルに来ていた。
単なる形式上の物で、一ヶ月もすれば、英国に帰る予定だった。
本人も気楽な物で、軽い気持ちで狩を楽しんでいた。
そんなある日、事故にあった。
傷つき動けないエーシャルスを救ったのは、ジャングルの動物だった。
そんな自分を救ったジャングルの動物を密猟しようとするハンター達。
無力だったエーシャルス。
彼は、イートコとの協力もあり、ジャングルの動物達を護る為の技術を身につけていった。
「命を救ってもらった恩は、この命をかけて返す」(英語)
エーシャルスの宣言にこれ以上ないくらい大きな溜息を吐く較に哀れみの視線を向ける英志。
「気持ちは、解りますが、無傷で確保して下さい」
較は、渋々頷く。
「馬鹿」(英語)
「何だと!」(英語)
エーシャルスが怒鳴ると較が淡々と告げる。
「一度失われた命は、戻らない。貴方のしている事は、単なる自己満足だよ」(英語)
「しかし、新たな不幸を呼ぶのを止められる筈だ!」(英語)
強く主張するエーシャルスに較が失笑する。
「そんなちっぽけな個人の力で? 昔の漫画にいい言葉がある。正義なき力も無力だが、力ない正義も無力だって。正義を語るならそれ相応の力を持たないとね。英志さん」(英語)
英志が頷く。
『影沼』
エーシャルスの言葉に答え、エーシャルスの周りに居た動物達が影に飲み込まれていく。
「止めろ!」(英語)
叫び英志に駆け寄ろうとするエーシャルスの前に較が立ち塞がる。
「残念だけど、通行止め」(英語)
エーシャルスは、サバイバルナイフを較の首筋に当てる。
「退きなさい。さもないと」(英語)
殺意まで籠めた脅しだが較は、苦笑するだけだった。
「それで脅しのつもり?」(英語)
苛立ちながらも掴みかかってきたエーシャルスを較は、無造作に掴み返すと投げた。
地面の激突する直前で、吊り上げられ、軟着陸するエーシャルスだったが、較が見下ろしながら告げる。
「そんな力じゃ、小猿一匹を助ける事も出来ないよ」(英語)
開放されたエーシャルスは、立ち上がると較にナイフを振るう。
『アテナ』
較の皮膚にあたったナイフが折れた。
驚愕するエーシャルスを較が挑発する。
「それで貴方の力は、お終い?」(英語)
「まだだ!」(英語)
服に仕込んだピアノ線を抜き出し、較の腕に二重三重に巻きつけるエーシャルス。
しかし、ピアノ線は、較の皮膚に食い込む事は、無かった。
「攻撃のつもり?」(英語)
較のあからさまな侮蔑の言葉にエーシャルスの怒りが爆発する。
「私の力は、こんな物では、ない!」(英語)
エーシャルスの体毛が一気に伸びて、ゴリラの様な姿になる。
「私の命の恩人の力だ!」(英語)
常人なら吹き飛ぶ、豪腕の一撃を較は、避けもしなかった。
「ギャァァァ!」
あがった悲鳴は、殴った拳が砕けたエーシャルスの物であった。
「白風の次期長、無傷でとお願いした筈ですが」
英志の突っ込みに較が頭をかく。
「了解。『ラクシャミ』」
傷がいえていくエーシャルス。
「化け物!」(英語)
較が無造作に近づいて告げる。
「単純な力だってこんな事が出来る。ジャングルの動物を狙っている奴らの力は、こんな単純な物じゃない。本当にジャングルの動物を救いたかったら個人の力じゃ無理だよ」(英語)
「どうしろって言うのだ!」(英語)
苦笑する較。
「そんなの自分で考えてよ。それとも、子供に解る答えで満足するの?」(英語)
エーシャルスが地面を叩く。
「解っていた! それでも私には、これしか道が無かったのだ!」(英語)
英志が淡々と告げる。
「貴方には、家の力があるでは、ないですか」(英語)
「そんな親の力を借りろと言うのか?」(英語)
意外そうな顔をするエーシャルスに較が逆に問い返す。
「大切な物を護るのに、何で使える力を使わないの?」(英語)
「それは、その力は、自分の力じゃないから……」(英語)
うしろめたそうに告げるエーシャルスに英志が断言する。
「家族の力も貴方の力の一つです。それを否定するのなら、人類は、孤立します」(英語)
「見栄を張るのも良いけど、それで護れる者を護れなくなってもいいの?」(英語)
較の問い掛けにエーシャルスが苦々しい顔の中、決断する。
「国に帰る。そして、もう一度、このジャングルを、動物達を護る方法を考え直す」(英語)
「よく、決心してくださいました」(英語)
英志は、そういうと、影に取り込んだ動物達を開放するのであった。
空港で貴族のお嬢様と一緒に帰っていくエーシャルスを見送った後、良美が首を傾げる。
「今回は、何も解決していない気がする」
較が肩をすくめる。
「当たり前だよ、ジャングルの動物を救うなんて人類を滅ぼさなければ出来ない事をやろうって言うんだもん、簡単に結論は、出ないよ」
「しかし、彼は、本当の意味で動きだしました。あのままでは、何の解決も出来ないうちに彼がこれされるだけでした。ありがとうございます」
何時もの如く、突然現れるイートコ。
「それで、次は、どこなの?」
良美が普通に質問するとイートコが告げる。
「オーストラリア、そこで鯨を護る為に戦っている人が居ます」
眉をひそめる較。
「また厄介なネタを」
こうして較と良美は、今度は、オーストラリアに向かう事になるのであった。




