初恋と視聴覚教室
ぼくがアイツを意識し始めたのは、中学一年の春だった。
新しい教室の匂い。
まだ硬い制服の襟。
窓から差し込む白い光。
その中で、アイツは特別目立つわけでもないのに、
なぜか視界の端に残る存在だった。
体育の時間、走るフォームがきれいだった。
授業中、落ち着いた声が耳に残った。
ピアノを伴奏する姿が素敵だった。
帰り道、友達と笑う横顔が妙に印象に残った。
その理由はまだ分からなかった。
ただ、クラスメイトとして普通に話したり、
それがキッカケで男子に茶化されたり。
アイツに誘われて、同じ塾に通ったり。
そんな日々が、あっという間に過ぎていった。
春の風がまだ冷たい頃、クラス替えの発表があった。
ぼくとアイツは――
別々のクラスになった。
その瞬間、胸の奥が少しだけ沈んだ。
理由は分からない。
ただ、同じ空間にいないことが妙に寂しかった。
クラスが離れると、廊下ですれ違うことも減り、
話す機会なんてほとんどなくなった。
“ああ、こうやって人って離れていくんだな”
そんなことを、ぼくは初めて知った。
冬。
学年委員会の集まりがあった。
「3年生を送る会に出す写真スライドの“生ナレーション”を誰がやるか決めます」
その言葉が出た瞬間、
教室の空気がピタッと止まった。
誰も手を挙げない。
誰も目を合わせない。
沈黙が教室を支配する。
委員長が困ったように息をつき、言った。
「……じゃあ、学年ごとに集まって話し合ってください」
机を動かす音が一斉に響き、
ぼくたちの学年も輪になった。
しかし――
誰もやりたがらない。
沈黙。
視線の逃げ合い。
気まずい空気。
その中で、ぽつりと一人の女子が手を挙げた。
「……私、やってもいいよ」
その声は小さかったけれど、
輪の空気を少しだけ動かした。
でも、男子は誰も続かない。
女子一人だけでは成立しない。
結局、話し合いはまとまらなかった。
「……北村、ちょっといい?」
背後から、聞き覚えのある声がした。
振り返ると、アイツが立っていた。
クラスが離れてから、ほとんど話すこともなかったのに。
突然の一年ぶりの声。
胸が跳ねた。
「ナレーション……やってくれん?」
その一言で、頭が真っ白になった。
周りの視線が一斉に集まる。
“なんで北村?”という空気が刺さる。
「いや、無理無理。俺じゃないって」
反射的に断った。
断らないと、なんだか“変に思われる気がした”。
アイツは少し困った顔をして、静かに言った。
「お願い。本当に、ナオしかおらんのよ。」
その声は、ぼくの逃げ道をふっと消してしまうようだった。
焦ったぼくは、苦し紛れに言った。
「……じゃあ、この話し合いで決まらんかったら考えるわ」
逃げ道を作ったつもりだった。
しかし――
話し合いは当然、決まらなかった。
「……じゃあ、一旦休憩にします」
委員長の声で、委員会は休憩に入った。
その瞬間、ぼくの心臓は跳ね上がった。
(やばい……来る……絶対来る……)
そして――
予想通り、アイツがまっすぐぼくの方へ歩いてきた。
「ナオ……さっきの話、どう?」
逃げられなかった。
逃げたくなかった。
でも、怖かった。
だからぼくは、隣にいた連れの腕をつかんだ。
「……おい、お前も一緒にやるぞ」
「は!?なんで俺!?」
「いいから来い!」
強引に巻き込んだ。
それが、ぼくの精一杯の“勇気”であり“逃げ道”だった。
「……じゃあ、女子の子と合わせて3人でやるわ」
そう言った瞬間、アイツはほっとしたように笑った。
その笑顔が、胸の奥に静かに落ちた。
「ナオ、こっち」
アイツが迷いなくぼくを指名した。
その声は、中1の頃と同じ響きなのに、
胸の奥に落ちる重さが全然違った。
「え、あ……うん」
返事が少し遅れたのが自分でも分かった。
委員長は女子を連れて廊下へ。
副委員長は連れを連れて別の教室へ。
椅子が引かれる音、机が動く音、
足音が遠ざかっていく音。
教室のざわめきが、少しずつ薄くなっていく。
ぼくは原稿を持ったまま立ち尽くしていた。
そして、
最後に残ったのは――
ぼくとアイツの2人だけ。
教室の扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
「視聴覚教室、空いとるはずやけん、そこに行こ」
アイツが軽く顎で廊下を指した。
その仕草が、
妙に自然で、
妙に距離が近くて、
胸の奥がじんわり熱くなった。
ぼくは無言でうなずき、アイツの後ろを歩いた。
廊下は夕方の光が差し込んでいて、
床に長い影が伸びていた。
アイツの影と、ぼくの影が、
少しだけ重なったり離れたりしながら進んでいく。
視聴覚教室の扉を開けると、中は薄暗くて、
プロジェクターの白い幕だけがぼんやり光っていた。
アイツが壁のスイッチに手を伸ばす。
カチッ。
蛍光灯が一斉に点いて、
白い光が静かな部屋に広がった。
長机が何列も並んでいて、
その表面には誰も触れていない埃の薄い膜が
光を受けてうっすら浮かび上がっていた。
窓の外は夕方の色に染まり始めていて、
校庭のフェンスがオレンジ色の影を長く落としている。
「ここやったら、落ち着いてできるやろ?」
アイツがそう言って、前の席に腰を下ろした。
ぼくはその隣に座る。
距離が近い。
肩が触れそうなくらい。
原稿を机に広げると、
紙の白さが蛍光灯に反射して、視界が少し眩しくなった。
アイツは赤ペンを取り出し、ぼくの方をちらりと見た。
「じゃあ……ここから一緒に直そうか」
その声は、
1年ぶりに距離が縮まった瞬間の音だった。
「……じゃあ、ここ読んでみて」
アイツが指で示した行は、
スライドと全く噛み合っていない文章だった。
ぼくは喉が少し乾いているのを感じながら、
ゆっくり声に出した。
「三年生のみなさん……ご卒業、おめでとうございます……」
自分の声が、静かな視聴覚教室にふわりと浮かぶ。
その声を、アイツがじっと聞いているのが分かった。
視線を上げるのが怖くて、
ぼくは紙の文字だけを見つめた。
でも、視界の端にアイツの姿がどうしても入ってくる。
蛍光灯の光がアイツの横顔の輪郭を照らし、
その影が机に落ちて揺れていた。
「……うん、ちょっと待って」
アイツが赤ペンを走らせる。
紙の上でペン先が擦れる音が、
やけに大きく聞こえた。
「ここ、“おめでとうございます”の前に、
もう一行入れた方が、ナオの声に合うと思うんよね」
そう言って、アイツはさらさらと一行書き足した。
ぼくは、その手元をじっと見ていた。
自分のために文章が変わっていく。
それが不思議で、少し胸が熱くなった。
「はい、もう一回、ここから読んでみて」
渡された原稿には、さっきはなかった一文が増えていた。
『いつも優しく見守ってくれた三年生のみなさんへ』
その言葉を声に乗せた瞬間、
自分の声がさっきより自然に前へ出ていくのを感じた。
「……ああ、やっぱりイイね」
アイツが、ふっと笑った。
その笑顔は、中1の頃に見たものと同じで、
でもどこか柔らかくなっていた。
「ナオの声、こういう“まっすぐな感じ”の文章の方が合うよね」
アイツがそう言って笑った瞬間、
胸の奥がじんわり熱くなった。
「そ、そうなんかな……」
それだけ言うのが精いっぱいで、耳が熱くなる。
アイツは気づいているのかいないのか、
赤ペンをくるくる回しながら次のページをめくった。
視聴覚教室は広いのに、
ぼくたちの周りだけが2人だけの小さな世界みたいに静かだった。
外の廊下からは、部活に向かう足音が遠くに聞こえる。
でも、この部屋の中には、
ぼくの声
アイツの赤ペンの音
紙の擦れる音
それだけがあった。
夕日が少しずつ角度を変えて、
窓の外の光が弱くなっていく。
その光がアイツの横顔に当たるたび、
影がゆっくり揺れて、胸の奥がざわついた。
「ここさ、“ありがとう”って言葉、ナオの声で最後に残したいっちゃんね」
アイツが原稿の最後の行を指さした。
『三年生のみなさん、本当にありがとうございました』
「この“本当に”のところ、ナオの声で締めたら絶対いいと思う」
その言葉に、胸の奥がきゅっとなった。
(……なんで、そんなふうに言うんだよ)
「……分かった。やってみる」
そう言うと、アイツは少し安心したように笑った。
その笑顔を見たとき、
ぼくはようやく気づき始めていた。
――ああ、やっぱり、
この人のことが、好きなんだ。
最後の一文を読み終えたとき、
視聴覚教室の空気がふっと落ち着いた。
蛍光灯の白い光は変わらないのに、
部屋の温度だけが少し上がったように感じた。
アイツは赤ペンのキャップを閉めて、机の上に置いた。
「……これで、だいたい形になったんじゃないかな」
その声はどこか満足そうで、でも少しだけ名残惜しそうでもあった。
ぼくは原稿を見つめたまま、小さくうなずいた。
「うん……なんか、思ったよりちゃんとできたな。」
アイツは少し笑って、髪を耳にかけながら頷いた。
外の廊下からは、もう誰の足音もしない。
部活も終わり、校舎全体が“夜の学校”の静けさに包まれていた。
風が窓を揺らす音だけが、遠くでかすかに聞こえる。
アイツがふっと息を吐いた。
「……なんかさ、こうやって2人で作業するの、久しぶりやね。」
その言葉に、
ぼくの心臓が強く跳ねた。
「……そうやな。てか、1年ぶりくらいやろ?
クラス離れて、話せなくなったし。やけん、ちょっと嬉しかった」
今のぼくに言える精いっぱいの表現。
その一言が、視聴覚教室の静けさに溶けていった。
原稿はもう直し終わっているのに、
ぼくもアイツも立ち上がらなかった。
アイツは少し照れたように笑って、
赤ペンを指でくるくる回しながら、ぼくの方をちらりと見た。
「……今日さ、本当に助かったぁ。ありがと。
やっぱり、ナオにお願いして良かった」
その言い方は、
褒めるでもなく
気取るでもなく
ただ素直な感想みたいで
胸の奥がまた熱くなった。
「……そうなん?」
「うん。なんか……落ち着く声しとるけん。うち、聞きやすかったよ。」
その瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。
(……今、言ったら……
“好き”って言ったら……
どうなるんやろ)
喉の奥まで言葉が来て、
でも形にならずに止まった。
アイツは机に肘をついて、ぼくの方を見たまま少し笑った。
「明日さ、緊張したら……ウチの方見てイイけんね。」
その言葉が、視聴覚教室の静けさにふわっと落ちた。
(……なんでそんなこと言う?そんな優しくされたら……言いそうになるやん)
(……お前がたくさん勉強してる事も知ってるし、好きな男子がいる事も知ってるし……)
胸の奥がざわついて、
言葉が勝手にこぼれそうになる。
「……あのさ、オレ……」
言いかけた瞬間、アイツが首をかしげた。
「ん? どしたん?」
その“ん?”が、
ぼくの心の奥を一気に揺らした。
(……言う?
言ってしまう?
でも……
もし違ったら……
もし壊れたら……)
喉の奥まで来ていた言葉が、
そこで止まった。
「……いや、なんでもない。お前見ても何も変わらんよ」
ぼくは視線をそらした。
蛍光灯の光が少し眩しくて、
目の奥が熱くなるのをごまかすみたいに。
アイツは少しだけ笑って、赤ペンを机に置いた。
「ふふ、なんそれ。変なの。」
「そろそろ行こっか。鍵、閉めんといけんし」
アイツが立ち上がり、壁のスイッチに手を伸ばした。
カチッ。
蛍光灯が一斉に消えて、
視聴覚教室は一瞬で暗くなった。
外から差し込む外灯の光だけが、
白い幕と床を淡く照らしていた。
その光が――
アイツの横顔を照らした。
髪の輪郭が光に縁取られて、
まつげの影が頬に落ちて、
表情が少し大人びて見えた。
ぼくは息を飲んだ。
(……綺麗すぎる
なんでこんなに綺麗に見えるんやろ。
今言ったら……
…………言ってしまいそうだ)
胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
アイツは扉の鍵を閉めるために、
くるりとぼくの方へ振り返った。
「鍵、返してくるけん……これ、ちょっと持っとって?」
そう言って――
自分の荷物を、ぼくに預けてきた。
あまりにも自然で、
まるで“当たり前”みたいに。
(……彼女かっ!)
心の中で突っ込みながらも、
手はしっかり荷物を受け取っていた。
アイツは鍵を閉め、カチャリと音が響いた。
「ちょっと行ってくるけん、待っとってね」
そう言って、職員室の方へ小走りで行ってしまった。
外灯の光の中、
ぼくはアイツの荷物を抱えたまま、ひとりで立ち尽くした。
夜の校舎は静かで、
風の音だけがかすかに聞こえた。
ぼくの影とアイツの影が、
外灯の下で長く伸びていた。
(……なんなん、これ
なんでこんなに胸がざわつくんやろ。
……さっき、思わず言いそうになった。
危なかった。
でも……言いたかった?
違う。
アイツを困らせたくない……)
荷物を抱えた腕が、妙に熱かった。
しばらくして、職員室の方から足音が近づいてきた。
外灯の光の中に、アイツの姿がふっと現れた。
少し息が上がっていて、
頬がほんのり赤い。
「お待たせ。ありがとう、持っとってくれて」
ぼくは荷物を返しながら、自然に言った。
「……うん。大丈夫。」
その瞬間、アイツがふっと笑った。
外灯の光がその笑顔を照らして、
胸の奥がまたざわついた。
荷物を返したあと、
ぼくたちは自然と並んで歩き始めた。
外灯の光が背中から差して、
ふたりの影が前に長く伸びていく。
校舎の窓はもう真っ暗で、
風がガラスを揺らす音だけがかすかに聞こえる。
部活の声も、
走る音も、
誰かの笑い声もない。
学校全体が、
まるで夜に飲み込まれたみたいに静かだった。
「……なんか、今日めっちゃ静かやね」
アイツがぽつりと言った。
「そりゃ、そうだな。多分オレ達が一番最後じゃない?」
ぼくの声は、自分でも驚くくらい小さかった。
アイツは外灯の光の中で、髪を耳にかけながら言った。
「でもさ……何か、こういうのも良いね。」
その言葉が、胸の奥にふっと落ちた。
(……やめてくれ
そんなこと言われたら
また言いそうになるやん)
返事に迷っていると、アイツが少し笑った。
「1年ぶりくらいやろ?こんなに話したのって。」
「……そうやな」
「ウチもさ、なんか……ちょっと嬉しかった。」
その“嬉しい”が、
外灯の光に照らされて
やけに綺麗に聞こえた。
ぼくは視線をそらした。
心臓の鼓動が早くなる。
校門の外灯が見えてきた。
その光が近づくにつれて、
ぼくの胸のざわつきは逆に強くなっていった。
(……もうすぐ別れる
もうすぐ今日が終わる
なんか……嫌だな)
でも、その気持ちを言葉にする勇気はなかった。
アイツがふっと笑った。
「明日、頑張ろうね。
アタシと一緒にやったんだから失敗は許されんよ。」
その言葉が、今日いちばん胸に刺さった。
「……うん。そうやな。」
ぼくの声は、夜の空気に吸い込まれるみたいに小さかった。
校門の前で、アイツが足を止めた。
「じゃあ……また明日ね」
外灯の光が、アイツの横顔を柔らかく照らしていた。
ぼくは一瞬、言いかけた。
(……今日、楽しかった
また話したい
もっと一緒にいたい
……好き)
でも、喉の奥で全部止まった。
「……うん。また明日」
それだけ言うのが精いっぱいだった。
アイツは軽く手を振って、
これから塾へ行くために親御さんの車を待っていた。
ぼくは、自分の帰り道へ歩いていった。
車を待っているアイツの姿が外灯の光に照らされて、
ゆっくり遠ざかっていく。
(……明日、どうなるんやろ)
不安と期待が混ざったような、
なんとも言えない気持ちが胸に広がった。
でも、そのどちらも嫌じゃなかった。
☆☆☆
校門でナオと別れたあと、私はいつもの場所で親の車を待っていた。
夜風が少し冷たくて、
外灯の光が足元に淡い影を落としていた。
(……なんか、今日変やった)
ナオの声。
視聴覚教室の静けさ。
電気を消した瞬間の暗さ。
外灯に照らされた自分の影。
そして――
ナオが言いかけて飲み込んだ言葉。
(あれ……なんやったんやろ……)
胸の奥がずっとざわざわしていた。
車が来る音がして、私はドアを開けて乗り込んだ。
「塾、間に合うやろ?」
親がそう言った瞬間、
私は自分でも驚くほど自然に言っていた。
「……今日は、行かんでいい」
「え? どうしたん?」
「なんか……疲れたけん」
嘘ではない。
でも本当の理由は違う。
(……今、塾行っても無理や。集中できん)
ナオの声が、
ナオの横顔が、
ナオの“なんでもない”が、
頭の中でずっと回っていた。
家に着いて、自分の部屋の灯りをつけた瞬間、
今日の空気が胸に一気に戻ってきた。
(……なんて言おうとしとったんやろ、ナオ。)
あの“ん?”の瞬間。
ナオは何か言いかけていた。
それが気になって仕方なかった。
夕飯の匂いがしても、
テレビの音がしても、
胸のざわつきは消えなかった。
(……明日、どうなるんやろ……)
不安じゃない。
でも安心でもない。
ただ、今日の帰り道の“久しぶりの距離”が
妙に心に残っていた。
(ナオ……なんか、変わったね。)
そう思った瞬間、胸の奥が少しだけ熱くなった。
(……明日、また話したいな……)
その一言が、静かな部屋にぽつんと落ちた。
☆☆☆
家に着いて、部屋のドアを閉めた瞬間、今日の出来事がフラッシュバックしてきた。
(……やばい。なんなん?今日……)
ベッドに倒れ込んで、天井を見つめたまま動けなかった。
視聴覚教室の静けさ。
アイツの横顔。
「うちの方見てイイけん」の声。
電気を消した瞬間の外灯の光。
荷物を預けられた腕の重さ。
職員室へ走っていく後ろ姿。
外灯の下での笑顔。
帰り道の“久しぶり”という言葉。
(……言いそうやった
ほんとに言いそうやった。)
まだ、自分の耳が熱いように感じる。
もしあの時、あの“ん?”の瞬間に言っていたら――
どうなっていたんやろ。
(いやいやいや……考えるなオレ。)
枕に顔を押しつけて、声にならない声が漏れた。
(……明日、どうしよう……)
不安と期待が混ざって、心が落ち着かない。
(……また話したいな……)
その一言だけが、静かな部屋にぽつんと落ちた。




