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11.幽霊さんは・・・



 翌日神殿からは殆ど見送りの人はなく、追い出されるように出ていくこととなりました。私の存在は不要と切り捨てた、ということなのでしょうね。

 帯同している騎士の方々の態度も悪く、目隠ししている私を神殿から馬車まで連れて行ってくれたものの、神殿からも見捨てられているとか、お前の存在など誰からも不要とされているなどと、中々に酷い言葉を浴びせてきました。地の果てが近づいてきたし、私が唯一逃げ出す先として可能性のあった神殿から追い出されたので、もう私が逃げられないからサンドバッグにしてもよいと思っているのでしょうか。

 地球でも何度もそういう目に遭いましたが、他人を格付けして自分より下と認識した人間に対して行う態度というのは、どの世界でも共通なのでしょうか。そういう態度をとる人たちを嘆かわしく思いますし、反論したら暴力で返されるかもしれない、と恐れて何も言えなくなる自分自身もまた、情けなく思います。


 馬車に入ると、ガイルさんが既に乗っていてくれたのでホッとしました。もしガイルさんがいなかったら、私の心はきっと耐えられなくなってしまっていたでしょう。ガイルさんは、泣きそうになっていた私の愚痴を黙って聞いてくれました。そのおかげで、このままどこかに逃げだしたい気持ちをぐっと抑えることができました。勿論逃げても捕まるだけで、意味はないでしょうが。


 そうそう、ガイルさんから地の果てが近づいたから、と小さな鈴をいただきました。これをつけていると、魔獣が近寄らないそうです。そんな代物があるのですね、とびっくりすると、以前は王族にきちんと伝えられていたのにねと嘆かれました。

 でも、混合部隊の隊長さんですら、このような鈴はお持ちでない気がします。とすると、現在の王族の方々はこの存在を知らないのか、あるいは地の果て巡礼一行には渡す必要がないと考えていたのか、どちらかなのでしょうね。



 最終日は野営となりましたが、私は馬車の中で過ごさせていただくことにしました。勿論寝難いですが、軍幕で覆われただけできちんと締め切ることもできない場所で、ただ雑魚寝しろと言われても、さすがに男性陣と並んで寝る気にはなれませんでした。

 確かにこの状態で2週間近く過ごしてこられた騎士団の方々は尊敬に値しますが、だからと言って私が一緒に寝られるかは別です。ましてや、初日に卑猥な台詞を浴びせ私に乱暴を働こうとした人たちの傍には、恐ろしくていることはできませんでした。

 ガイルさんが、馬車に入ろうとする人がいたら叩き出すから安心してお休み、と毛布を渡してくれたので、上半身だけ横にして眠ることにしました。ガイルさんには夜通し見張りをお願いしてすみません。



 さて、翌日体がかなり固まってしまいましたが、それなりに眠ることができました。少なくとも騎士団の方と雑魚寝をするよりは、精神的にかなり安心できたと思います。

 朝食として乾パンをもらえたので、水分なしでしたが何とかそれを齧り、出発するに任せました。

 ガイルさんに、直接攻撃を受けるまでは黙って様子を見ていてほしいと言われておりますので、彼らの私を軽んじる態度に腹は立ちますが、祭壇に向かうまでは大人しく言うことを聞いていようと思っています。



 急に馬車が止まり、「おい、降りろ」という声が外からしました。

 私は、護送されている囚人などではなかったと思っていましたが、違ったのでしょうか。もう少し人並みの扱いをしても、罰は当たらないと思うのですけれど。善なる心の薄れた人たちというのは、どうしようもないのですね。

 ガイルさんは少し前に、地の果てに近づいたから魔獣を抑えるために先に行っているから、と出ていかれました。地の果てが拡大していることにより魔獣が増えている今、私には鈴を渡したから大丈夫だけれど、同行する騎士団の人たちのことも考えて、少しでも魔獣を抑えるためにできるだけ頑張ってみる、と。

 そうやって、ガイルさんは騎士団の方たちの善性を信じて気にかけてくださっていたのに、彼らは私を生贄として囚人のような扱いをしているこの事実。彼らを信じようとするガイルさんの気持ちを悉く潰していく人たちに、ガイルさんのことを思うと心が痛みます。


 馬車のタラップを降りると、薄暗い森のようなものが前に見えました。

 ただ、色合いが非常におかしいです。森だけでなく空の色も昏いです。夜の暗さとは異なる、何か未知なるものへの恐怖を感じさせる色なのです。今までいた場所が明るい絵ならば、ここから先は暗い絵、その異なる二枚の絵を無理矢理貼り合わせたような、有り得ない線が空に引かれていると言えばいいのでしょうか。

 この世とあの世の境界とでも言えばよいのか、そんな風に空間そのものが仕切られているような感じ。この先は明らかに何かが違う、そう思わせる空間が目の前に開けていました。


 私が固唾を呑んでしまっていることに気付いたのか、チッっという舌打ちの後、いきなり目隠しがされました。おそらく、馬車の中に置きっぱなしにしてあった目隠しを使ったのでしょう。その上、両手首に紐のようなものを掛けられ、そのまま引っ張られます。

 確かに先ほどまで馬車の中にいたので、目隠しを外したままでいたのは悪かったかもしれませんが、これはもう完全に囚人の扱いとしか思えません。あまりにひどい。

 きっとこの風景を見せたくないために、今まで目隠しを強要していたのだということは分かりました。明らかに、まともでない場所に連れてきているわけですから。まるで死者の領域へと踏み込もうとしているような、言い知れぬ恐怖を感じます。

 もう見てしまったのだから目隠しをする必要はないと思うのですが、何故に再度目隠しをするのでしょうか。きっと、少しでも私が逃げ出す可能性を減らそうとしているのでしょう。確かにこの空間が纏う雰囲気は、叶うことなら後ずさりして逃げ出してしまいたいですから。

 とはいえ、たとえ目隠しがなかったとしても、見えない騎士団の方に囲まれたこの場所から逃げられるはずはないと思いますけれど。


 両手首にかけられた紐がずんずん引っ張られます。周りに人が沢山いるらしく、よろよろ引っ張られながら歩くと、左右にいる人にぶつかっているようですが、謝る気にはなれません。一体私が何をしたというのでしょうか。


 途中、かなり前の方から、生き物の唸り声が聞こえました。あれが、話に出ていた魔獣なのでしょうね。ザシュッという音と、ギャン! という鳴き声と、そしてより大きな唸り声。誰かが剣で斬ったということなのでしょう。二度、三度剣を振り回す音と、小さくなる唸り声。無事に退治ができたのだと思われます。

 かすかに鉄の錆付いたような、けれどどこか腐敗したような匂いがしてきました。吐き気を催すような匂い。これが魔獣の血の匂いなのでしょうか。


 そんな血の匂いにつられたのか、魔獣が数頭現れたようで、慌てたような声と共に私は血の匂いとは異なる方向に強く紐を引かれました。速く走れ、ということなのでしょうが、両手首を縛られて、どうやって全力疾走できるというのでしょう。

 ギャーっと今度は遠方から人の声が聞こえました。魔獣との戦いで怪我をされたのでしょうか。紐を引かれる速度がどんどん早くなっていくので、私にはわかりません。足がもつれそうになりますが、紐を引く力は全く弱まりません。


 走っているうちに、汗のせいなのか、締め付けが弱かったせいなのか目隠しが外れましたが、誰も気にしてはいないようです。急いで魔獣から逃げることが、何よりも優先されているのでしょう。私はガイルさんからいただいた鈴を腕につけているので、私のすぐ近くにいる方は魔獣から攻撃を受けないとは思いますが、皆さんにはそんなことは分かりませんものね。


 いくつかのグループに分かれてしまったのか、遠くからは魔獣とやり合っている剣の音や叫び声などが聞こえますが、私の周りに魔獣が近寄ってくる気配は一切ありません。

 私の周りには、何人の人がいるのでしょう。足元の草が、それなりに踏みつけられている跡があるので、おそらく5,6人はいるのだとわかります。走っているために、人の息も聞こえていますから。

 でも私には、以前石畳であった跡が一部見える地面に蔓延っている薄気味悪い草に、かつて街道沿いに並んでいたと思われる木々が不自然に歪み、またその枝があり得ない方向へ伸びている禍々しい森、そして薄暗いというか空まで昏い、摩訶不思議な空間しか見えないのです。その状態で、空中に浮かんでいる紐に一人引っ張られている自分。信じられない状況に、頭が付いていきません。


 そうして引っ張られているうちに、木々の間から前面に白いものが見えてきました。

 近づいてみたら、白亜の建物のようで、太い丸柱が荘厳さを醸し出しています。柱と屋根の間には、細かいレリーフが施されており、昏い森なのが残念で仕方ないほどです。きっと神話などをモチーフに書かれているのでしょうが、位置が高いため、暗くてはっきり見えません。

 なんて神々しい。昏い森の中に、何故か白さが引き立ち、とても神聖なものに見えました。きっと来る途中に寄った2つの神殿もこのような作りだったのだと思いますが、目隠しをしていて見られなかったのが残念で堪りません。


 その建物の中に入って直ぐに広い空間があり、3mくらいの大きさの像とその前に四角い低い台が見えました。おそらく像は神を模したものでしょう。きっと前の神殿にもこうして神様の像はあっただろうと思いますが、目隠しをしていたので神様の像を見たのは初めてでした。なんとなく雰囲気がガイルさんに似ているような気がします。

 よく聞く、王族は神の子孫とかいう話を考えると、王族であるガイルさんが神様に似ているのもさもあらん、ということなのでしょうね。


 そう考えていた時、おそらく紐を引っ張っている人が叫んだのでしょう、すぐ近くで声が聞こえました。


 「アモーンロッテナリールシエントリエアスガイルート神よ。あなたが望む聖なる力をお持ちしました」

 

 神様の長い名前が告げられたと思った途端に、紐をさらに引っ張られる私。像の前にある祭壇に頭を載せるような形で、跪かせようとしているのでしょうか。無理矢理肩を抑えられます。


 ガイルさんが助けてくれると言っていた言葉を信じて、黙って祭壇のところに跪きました。何が行われるかはわかりません。けれど、ここはきっと神へ祈りを行う場所のはずです。

 日本の神道と同じなのかはわかりませんが、神様と相対するのであれば、こちらも敬虔な態度で接するべきです。両手首を縛られているという、かなり情けない形ではありますが、とりあえず小さく二礼二拍手一礼を行います。神社によってやり方が違うので、異世界ならば更に異なっていて当然とは思いますが、神様に向き合う気持ちがあるのだとご理解いただけたら……と思いながら、神様に向かって頭を下げました。

 みっちゃんのお父さん、神様へのご挨拶の仕方を教えてくれて、ありがとうございます。

 

 その上で、お願い事でごめんなさいと心の中で呟きながら、助けて! と神様へと祈願しました。私をここまで連れてきた騎士団の方は、きっと私をこの場で殺そうとしているのだと思います。鞘から剣を抜くであろう音が聞こえてきました。やはり彼らに躊躇はないようです。

 ガイルさんが助けてくれると言ったけれど、間に合うかは分かりません。なので、神様!


『大丈夫、助けるから』


 ふわっとガイルさんが空中に現れたと思ったら、キーンという大きな音が響き、バタバタと人の倒れる音がしました。私の傍にいた人たちが、皆倒れたということでしょうか。


『ごめんね、怖い思いさせて』


 ガイルさんが、悲しそうに言います。いえ、ガイルさんが怖い思いをさせたわけじゃないですし…、と言おうとしたら、ガイルさんが更に言葉を続けました。


『僕がね、この世界の神様なんだ』


 え?


『魔獣が溢れてきたから助けてほしいと祈られたから、善なる心が薄れてきたせいだよ、って神託をしたのに、自分たちで何とかしようとしないで、まさか異世界から人を召喚するなんて暴挙をしていて、びっくりしちゃった。昔、異世界から侵略者に酷い目に遭わされたから、心のどこかで他の世界には何をしてもいいと思っている節があったんだろうね』


 あぁ、そういうことでしたか。とはいえ、私はいい迷惑でしたが。


『うん。あずさには迷惑しかかけてないよね。本当にごめん。それでも、彼らが最後の最後には、生贄なんてやめてくれるんじゃないかと、彼らの善性に期待してたんだ。結果は、どうしようもないほど善なる心が無くなってたってことが分かっただけだったけど』


 ガイルさん悲しそうに周りを見渡しています。私には見えませんが、ガイルさんには倒れている人たちが見えているのでしょうね。彼らが躊躇なく私を殺そうとする人でなしであった姿を見るのは、神様としては辛いことだったでしょう。


『もう彼らには罰を与えるしかないね。しばらく魔獣が溢れる世界で、怯えて暮らしてもらうしかない。地の果ては死の領域を具現化したものだから、僕は本来手を出さない場所なんだ。早めに心を入れ替えないと、地の果てにすべてが侵食されるからね。勿論二度と召喚なんてことはできないように、異世界に干渉できる知識は抜いておくよ』


 優しく言ってくださいますが、神様として本当に遣り切れない思いでいらっしゃることでしょう。自分が神託まで下ろして改善を願ったのに、人間がやったことは国を挙げての人攫いとか。聞いているだけで、私も涙が出てきそう。


『異世界とこの世界が干渉し合う時は僕にもわかるから、この世界にあずさが来た時は直ぐわかってね。あずさの世界の神と話し合いをしようとしたのだけれど……』


 とても言いづらそうにガイルさんは話し始めます。表情がどんどん暗くなっていくのがはっきり見えて、きっといい話ではないなというのがわかりました。


『まずは座標を特定するのに時間がかかって。そして座標がわかっても、あずさから全能神なるものがいない世界だと聞いた通り、本当に全能神に当たる神がいなくて。何度も色々な神々を訪ねて、誰と話をすればあずさを問題なく戻せるか、聞いて回っていたのだけれど……』


 うん。全能神がいないということは、誰も相手をしてくれなかったってことですよね。

 私の表情を読んだのか、ガイルさんは続けます。


『いや、神々も、色々調べてくれてね。君の世界の全能神というのは、惑星そのものだったらしい。それが神という自分の手足を作り、地球を治めていたようだよ。だから地球の意思(ガイア)に声を掛けて返事をもらったんだ。でも、あずさ自身がかなり特殊だったので、あずさの存在が元に戻されてしまったんだ』


 特殊って何のこと? 元に戻されたというのは?

 ガイルさんの声が、どんどん申し訳なさそうになっていくのが、怖くて仕方がありません。


『実はね、あずさはあの世界で、幼い頃に亡くなるはずだったらしいんだ。みっちゃん、だっけ? 君のお友達の。彼女が境内で君を見つけたのは、君が追い出された当日ではなくて、本当は翌朝だったらしい。一晩外にいたあずさが高熱で倒れているのを見て、あわてて病院に連れて行ったけれど、君はそのまま亡くなってしまった。それでみっちゃんは、自分がもっと早く君を見つけられればよかったと後悔したようで、『時を戻して、あずさちゃんを助けて』と君の世界の神に祈ったらしいよ。

 彼女はもともと善人で徳は高いから、その純真な祈りに心を打たれた一人の神が、前日のうちにみっちゃんが君を見つけ、また以降君が頑丈になるようにと力を与えて、世界を少し変えたんだ。それで君は今まで生き永らえたようだよ。その神の力が、おそらく今回召喚の聖なる力というものにリンクしたんだろうね。君に神の恩恵が与えられていたから。

 で、無理に延命していた命だったので、君がこちらに転移した時点で、そちらの世界は元に戻る力が働いて、あずさは幼い頃に亡くなったと世界が決定してしまったんだ』


 ……そうでしたか。私は、本来亡くなっていた人間でしたか。ガイルさんのことを幽霊だと思っていたのに、私の方が幽霊さんだったなんて。どうしよう、涙が止まりません。道理でこの世界に来てから、自分の命が終わっていてもおかしくない気になっていたはずです。


『君の世界では、神は地球の意思(ガイア)の使いでしかないから、一人一人の神の力は弱かったらしくてね。地球の意思(ガイア)の正す力の方が優先されてしまったらしい。ごめんね。君の世界を奪って本当にごめんね』


 ガイルさんが私を抱きしめます。ガイルさんが悪いわけではないのに。悪いのは私を召喚したこの世界の人間でしょう?

  それに、私はみっちゃんの祈りで、死ぬはずの運命を何とか永らえることができていたのですね。やっぱりみっちゃんは徳の高い人だったわけです。


「……私はこれから、どうしたらいいのでしょう」


 地球に帰る場所はない。ここでは、誰の姿も見ることができない。私はこれから、どうやって生きて行けばいいのでしょう。


『もしあずさが良ければ、この世界に一緒にいてくれないかな。あずさは君の世界の神から恩恵をもらっているから、僕がこれから与える恩恵と合わせれば、君も十分神となれる資格がある。神になればこの世界のものはきちんと見ることができるから、こんな世界で申し訳ないけれど、僕と一緒に彼らを矯正させる手伝いをしてくれると嬉しい』


「私でもお手伝いできますか」


『勿論。あずさの世界のこととか、色々聞きたいし。君の世界で見かけた神たちはみな人間っぽくて、とても面白かったよ。僕のために色々手伝ってくれたし。世界の在り方がこんなにも違うと思わなかった。死の領域については範囲が膨大だから別な神に任せていたのだけれど、それ以外は僕一人で殆ど全部やっていたからね、この世界の中については実際手が回っていなかったんだ。あずさの世界について色々教えてもらいながら、少しでもこの世界を良くしていきたいと思う』


 そう言ってガイルさんは、自嘲気味に笑います。


『以前異世界から侵略を受けて人間がかなり減ってしまったので、僕が過保護になって新たに魔法という概念を生み出して、より人間が暮らしやすいシステムを作ってしまったんだ。そういう積み重ねが、どんどん人間を甘えた方向へ進めてしまっていたみたいだ』 


 魔法システムを作るために力を使い、また今後異世界から襲撃を受けないよう外からの攻撃に耐えうる結界を世界全体にかけたりと、持てる力の大部分をそちらに割いていたため、人間たちの様子をしばらく見ていなかった。本当に申し訳なかった、そう言ってガイルさんは再度私に頭を下げます。


 色々びっくりしましたが、戻れないというならば仕方がありません。みっちゃんに今までのお礼を言いたい気持ちは沢山ありますが、既に私が死んでしまっている世界では、お礼をいう訳にもいかないでしょう。

 せめて、みっちゃん一家がずっと幸せでいてくれることを、私を生き永らえさせてくれたあちらの神様にお願いしておきたいですが、許されるでしょうか。


 私の希望を聞いたガイルさんは、『僕からしっかりお願いしておく』と言ってくれました。

 全能神を探すために何度も異世界に飛んだため、ただでさえ減っていた神力をかなり使いすぎたそうで、最終的に私をどうするかをまだ地球の意思(ガイア)に報告していなかったそう。少しは神力が戻ってきたので、お詫びの品をもって再度異世界に干渉した謝罪と、私をこの世界の神とすることを告げに行く予定でいるので、その時にお願いしておくと。


 お詫びの品って何を持っていくつもりなのでしょう。かなり気になりますが、神々の話し合いですものね。人間ごときが聞いていい話ではないでしょうから、聞かずにおきます。

 それでも、たった一人のために地球まで話をしに行ってくれたガイルさん。以前異世界から侵略された話を聞いたときには、大多数に影響を与えたから、異世界の神がお詫びを持ってきたと言ってましたよね。それが、こちらの世界がやらかしたのはたった私一人の召喚なのに、同じように謝りに行ってくれるなんて、そして私を帰そうと尽力してくれていたなんて、その優しさに涙が出そうになります。


 でも、私の望みが叶って、みっちゃん一家が幸せに暮らしてくれるなら、私もこの世界で神様の一人になってみるのも面白そうかもしれません。

 今まで虐げられることの多かった人生ですが、神様ならばこれからは虐げられることなんてないですものね。

 世の中甘くないと思ってきましたが、禍福は糾える縄の如し、なんて言葉を思い出しました。今まで辛かったことが多かった分、これからは幸せに生きていけるのかしら。


『僕を見ることができて、僕が触れることができる。その時点であずさは、君の世界の神からの恩恵だけでなく、あずさ自身の徳もかなり高いということなんだよ。この世界の人間は、僕の声すらどんどん聞こえなくなっていってたからね。神託を降ろすことも難しくなっちゃってたし。これほど僕をしっかり見ることができて、触れられる人間って今までほとんどいなかったから。今まで僕はずっと一人だったから、あずさがこれから先一緒にいてくれるなら、とても嬉しいんだ』


 そう言ってガイルさんは、その優しい瞳でじっと私を見ました。あまりにじっと見つめられたので、どうしたのかと私も見つめ返していると、ガイルさんが困ったように微笑んで口を開きました。


『えっとね。一緒にいてっていうのは、伴侶としてというつもりだったんだけど、理解してる?』


 え? え? え? はんりょ? 伴侶って、結婚相手ということですよね?


 一瞬で、顔が真っ赤になっていくのが自分でわかりました。自分が誰かに好かれる、なんて思ったこともなかったのです。みっちゃん一家は私を気遣ってくれましたが、親ですら私を虐げるような世の中。誰かに愛されるなんてことは夢のまた夢と、結婚なんて最初から私の意識の外にあるものでした。それが、こんな見目麗しいガイルさんからの求婚…。

 今までガイルさんとは色々話をしてきたと思います。ギリギリまで人の善性を信じたいと思う、かなり心優しい神様で、そしていつも私を心配してくれていました。何より、私のために地球まで何度も行って、何とか私の帰る方法を探してくれていたなんて。

 そんな心優しいガイルさんが、私とこれから先を一緒にいたいと言ってくれるなんて。


「よ、よろしくお願いします!」


 声が裏返ってしまいましたが、気付かなかったことにしてください。

 そっと、ガイルさんに向かって手を出しました。私としては握手のつもりだったのですが、ガイルさんは私のその手を取り、指先に優しく口づけをしてくれました。


 指先から体の中に何かが入り込んできた気がします。あぁ、今生まれ変わっているのだと実感しました。人でなく、神へと変わろうとしているのだと。体の中が温かく、そして胸の内に何かしらの力をぼんやりと感じます。きっとこれが神力というものなのでしょう。

 私とガイルさんの傍に倒れている人たちがぼんやりと見えてきました。神へと変貌しつつある私は、この世界の人たちを見ることができるようになったようです。



 私はこれから、神様であるガイルさんと一緒に、この世界を良くするために生きていきます。誰かの手伝いができるようになりたい、いつか救う側になりたいと常々思っていましたが、まさかその夢が異世界で叶うなんて。

 困った人に手を差し伸べることが当たり前となるように、他人を格付けして他者を虐げることがないように。この世界をそんな風にできるよう、私もできる限り努力します。


 ありがとう、みっちゃん。

 すべては、みっちゃんが私を助けてと神様に祈ってくれたから。もしみっちゃんが祈らなければ、私は既に死んでいて、ここに召喚されることはなかったはずです。そうしたら、私はガイルさんに会うこともなかったのですから。


 私の祈りが地球まで届くかはわからないけれど、異世界からみっちゃん一家の幸せを祈っていますね。

 だからみっちゃん、私が亡くなってしまった世界に戻っているのだとしても、私を助けられなかったことを後悔なんてしないでいてね。あなたのおかげで、私は今とても幸せになったのだから。


おまけ


あ「そういえば、ガイルさんってどうして神殿には入ってこなかったの?」

ガ「神殿は、昔は徳の高い奴がいっぱいいて、そういう奴の作ったものに触れると、何故か光るんだよ。うかつに入って物を光らせたら、僕が来たってばれるでしょ? でも、あずさが光らなくって良かった。僕にずっと触れられてた徳の高いあずさだったから、、神殿の中で光り輝いてたらどうしようって心配してたんだ。幸い、向こうの神の加護と相殺されて、光が抑えられてたみたいだね」


 なんと。神様同士の力って相殺されるものだったのですね。確かに信仰する神が違うのだから、他の神の力は抑えになるのか……。なるほど。

 もし抑えられてなかったら、私電球人間みたいになっていたらしいです。それはとっても恥ずかしいです。ピカピカしなくて良かった!

 それでも、ガイルさんへの信仰心に溢れた聖遺物に触れた時は、私に触れていたガイルさんの力が引き出されて光ってしまったということらしいです。とりあえず神殿周りにガイルさんがいなかった理由は分かりました~。


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誤字報告いただきました。ありがとうございます。修正いたしました。

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