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第20膳 ざまぁ ~友に捧ぐ言葉~

活動報告のほうにも書きましたが今回、本業と社会情勢の兼ね合いから

更新が遅れてしまいました。大変申し訳ありません。

今後もしばらくの間不安定になるかもしれませんが宜しくお願いします。

「ぅぅ……」

「痛っーー!」

「もうだめ……」


 部屋のあちこちで女生徒が苦悶の喘ぎを発している。

 といっても、勘違いしてもらいたくないのだが、別にここは拷問部屋でも、いかがわしい秘め事の場でもない。


 これは茶道部が終わるといつも始まる定番の光景――リフレッシュタイム。

 各々畳の上で足を伸ばし、痺れをリセットするための大切な時間である。


 そんな中、いち早く回復した美鈴の唐突なひとことから新たな事件は始まった。


「ところで慶喜くん、そろそろ大事な日が近づいてると思うんだ」


 彼女は周囲をころころ転がっていた早馬を捕まえ、ぽふんと伸ばした太股を載せながら……。


「大事な日?」

「うん、ほら、再来週じゃなかったっけ? あかりんの誕生日」


 ……!

 明里さんの誕生日だって!?


「え!」

「あ、その顔は……間違いなく知らなかったクチだね?」


 ――仕方がないだろう。

 こちらは釣書を見せてもらった事もないのだ。

 むしろ何故美鈴が知っているのか聞いてみたい、女子のネットワーク凄すぎだろう。


 ちなみに当の明里さんは今日は学校を休んでいる。

 家の用事だそうで明日も欠席すると聞いているのだが……。


(やっぱり心配か?)


 ああ、じいさんからあんなことを聞いた直後なのだ。

『家の用事』だからこそますます心配にもなる。


 美鈴の太股に敷かれた早馬が声を上げたのは俺がそんな感じのことを考えている最中のことだった。


「なあ美鈴」

「ん?」

「ごめん、重い……」

「あ、うん!」


 その一言を聞くや否や早馬の背中の上でバタ足を始める美鈴。

 まるで彼の体をなめろうかミンチにでもするかのような勢いだ。


「ウギャアアアアアア!!!」


 いつものやり取りではあるが、いつになく痛そうな悲鳴を上げる早馬が少し心配になる。


「ところで今回は何をやったんだ?」

「文化祭の時、あかりんの足をガン見してたんだよ……だから美脚ダンスの刑」


 ああ、うん。前言撤回、これは同情の余地はないな。

 バタ足で美脚になれるかどうかは定かではないが。


「おーい、ヨシノブ助けてくれよ~」

「悪い、死なない程度に仲良くやってくれ」

「いや、そんな薄情だろ!?」


 いや、どうして薄情などと言われなければならないのだろうか。

 例えばコイツは俺が美鈴の胸をガン見していたら文句の一つだって……。


 いや、言わなさそうなタイプの奴だったな、むしろ謎の自慢をしてきそうだ。


「ああ、そうだな、じゃあ友人として一つ。早馬の好きそうな言葉を贈るよ」

「うぅ、何だよ……」

「ざまぁ」


 あまり好きな言葉じゃなかったけど、こういう時に言ってみると案外スッキリするものだな。


「というわけでプレゼント見に行くなら手伝うよ」

「ああ、助かるよ」


 正直、女子宛てのプレゼントを選ぶセンスに自信はないので美鈴の申し出はありがたい。


「で、見に行く日なんだけど……明日の午後でどうかな?」

「うん、いいと思うよ!」

「じゃあそこで、よろしく頼むよ美鈴先生」

「任せて」


 美脚ダンスはもう飽きたとばかりに早馬をぺいっと蹴り転がした後――満面の笑みで美鈴はうなずいた。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 さあ、待ちに待った土曜日だ。


「じゃあね」

「ああ、また後で!」


 午前の授業を終えた後、一度家に帰り、着替えてから美鈴と合流する。

 ちなみに早馬は――。


『もう知らん!お前らとは口も聞きたくない!』


 絶賛インスタント絶交状態なので今日は不参加らしい。


 そういうことなので今日はありがたく美鈴を借りていくことにする。

 彼女と二人でどこかに出掛けるのは久し振りだ。


 昔は家族ぐるみの付き合いもあって一緒に縁日など遊びに行ったりもしたもんだが……。

 中等部に入ってからめっきり会う機会も減り、それから二年三年とだんだんと疎遠になって、次につるむようになったのは高校のクラスと部活でたまたま一緒になったから。


(うん、小さい頃からの幼馴染って……普通はそういうもんだよな)


「ごめん待った?」

「いや、大丈夫だよ!」


 そう言う彼女の服装はいつもよりずっとシャープなもの、パンツルックなんて久しぶりに見た。

(最近、三人で動いてたときはずっとスカートだったしな)


「?」

「ああ、何でもない。行こうか」


 以前二人で出掛けていた時、そうしていたように手を繋ぐなどということもなく……。

 俺たちは商店街を、奥のデパートのほうに向かって歩き始める。


 11月も下旬と言うこともあり、それぞれの店舗の周りには色とりどりの電飾が灯り、薄暗い陽の光を補っている。

 そんな雰囲気にあわせて、ということだろうか、辺りを歩いているのはカップル連れが多い。

 ……このクリスマス前の街の景色、嫌いじゃない。

 特に今年はいつも以上に心が踊る。


「プレゼントはアクセサリがいいと思うよ」

「うん、一応ある程度のアテは調べてきた」

「さすがだね、予習復習は欠かさないんだ?」


 そういう美鈴だっておちゃらけたふりをしつつ実際は相当な勉強家だ。

 全科目の平均点ランキングでも学年10位から外れているのを見たことがない。


「あ、でも指輪はダメだからね?重すぎるよ?」


 そう言いながらも愛おしそうに右手の薬指の指輪を撫でる美鈴。

 まったく贈ったのはどこのどいつなのだろう?

 実際のところ、俺と明里さんでそれをやると輪を掛けてシャレにならない事態を招きそうなので……。


「そうだな、髪に付けるものにしようと思ってる」

「髪につけるもの?」

「ああ、明里さんの髪型ってうどんとか食べる時に大変そうだなって」


 以前彼女がラーメンを食べていた時、横髪が邪魔で食べづらそうにしていたのを思い出したのだ。

 そしてあれから一緒に学食で昼を食べるようにもなったけど、彼女が麺類を食べるのも見たことがない。

 一緒にご飯を食べる相手としては対処しなくてはならない問題だろう。


「あー、うん、慶喜っぽい発想だね!」


 くすりと笑う美鈴。


「でも正しいと思う。選ぶの手伝うよ!」


 ほどなくして俺たちは商店街の奥にあるデパートに足を踏み入れる。

 十一月も後半とあってか、館内放送で流れてくるのは心躍るメロディ――ジングルベル。

 弾む足取りできらびやかなツリーが飾られたエントランスと一階の化粧品売り場を抜けて……。


「一味違う本格イタリアンピザで笑顔に満ちた楽しいクリスマス! ご予約はお早めに!」


 二階のリビング用品売り場の片隅に置かれたテレビから流れてくるイタリア料理店のCMに耳を傾ける。

 そうか、どんなクリスマスを過ごすかまだ考えてなかったけど――美鈴たちと集まって四人でピザを楽しむのもいいかもな。

 もちろん早馬がそれまでに絶交を解除していればの話だけど……。


 そんなことを考えているうちにCMが明けた。

 どうやら昼の報道番組の最中だったらしい。


「次のニュースです。840便の慰霊式典が本日挙行されました」


 先程までの明るさとは一転し、画面から流れたのは暗い話題。


「あ、知ってる、これ、二年前だっけ?」

「うん、乗客全員亡くなったって……」


 当時は新聞の一面記事でもよく取り上げられていた事故だ。

 あの便に取引先の社長が乗っていたとか何とかで父さんやじいさんがバタバタ忙しそうにしていたのを覚えている。


「今回、遺族代表として式辞を述べたのは――」


 このまま見続けていたら画面の外に居る自分達まで暗い気分になりそう。

 心の中で黙祷を捧げながら、無意識に美鈴の手を引いてそそくさと通り過ぎる。

 そのままエスカレーターに乗り……。


「四階、婦人用アクセサリ売り場となります」


 さあ、着いたぞ。

 目的のものがありますように――俺たちは足を一歩踏み出した。


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― 新着の感想 ―
[一言] もうちょっとだけ見ていれば… これが用事だったのでしょうか?
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