第16膳 牛串、そして焼きマシュマロ☆
カリーヴルストは二日目も好評のうちに完売した。
時間はまだ昼下がり――とは言っても、やるべきことはまだ色々残っている。
残念だけど、客の側に回って文化祭を楽しむのは次の機会にしよう。
『もし暇ができたら一緒にどこか見て回れるといいですね』
うん、一緒に露店を回る予定だったけど仕方がない……。
後ろ髪引かれつつ、明里さんに断りを入れるべくスマホを取り出す。
級長や他の友人たちから助け船が来たのはちょうどその時だった。
「あとの片付けは私たちがやっておくから打ち上げまで楽しんでくるといいと思うよ? オーナー」
「え、いや……大丈夫かな?」
「ああ、これだけマニュアルが整っていればあとは何とかなるさ」
それなら片づけは任せて打ち上げの準備でも……って!?
「打ち上げの店の予約も万端ですぞ。 安くて旨そうなお勧めの店を教えてくれて感謝しますぞ」
「あかりんならさっき漫研のほうで見たよ? 何だか寂しそうだった!」
「そ、そうか……」
――結局、俺はスマホを仕舞い、級長たちの言葉に甘えて遊びに行くことにした。
正直、オーナーがこんな事をしていても大丈夫なのだろうか、という気持ちもあるのだが……。
(でも、嬉しいだろ? 文化祭デート)
ああ、それは間違いない。
俺はきっと良いクラスメイト達に恵まれたのだろう――。
「慶喜さん、いきましょうか」
「ああ、行こう」
無事に合流した明里さんと二人、露店の並ぶ校庭を歩く。
ちょっと恥ずかしいけど上着だけ軽く羽織り、下はお互いに相手の好きなコスチュームを着たままで……どちらからともなく、伸ばした手をつなぎながら。
鼻腔をくすぐる肉を焼く香り……おっ、コレ牛串だ。
「いらっしゃい!」
ちょうどお腹も空いてきたところだったので明里さんと一緒に一本づつ購入。
一番上の角切り肉を口に入れた瞬間、たっぷりかけられた焼肉のタレが俺の味覚をガツンと刺激する!
肉はやや硬め――。
「たぶんモモ肉ですよね? これ」
でもそれでいい、それがいい!
ここはお上品なステーキハウスなどではない、文化祭なのだ。
噛めば滲み出る甘辛いタレと肉汁の味を頼りにわっしわっしと食べ進む。
うん――今、俺達は間違いなく肉を喰っている!
アゴが悲鳴をあげる中、噛み続けていると原始の本能が刺激されてきた。
そんな俺の横でやはり、モモ肉相手に奮闘している明里さん。
最初のうちこそ上品に小口でいただくといった風だったがやはり限度を感じたのか?
それともこちらのほうがウシを食べ慣れている正しい英国スタイルということなのか。
すぐに豪快な食べっぷりを見せはじめる。
フリルたっぷりお人形のようなデザインのメイド服でも隠しきれないぐらい……グイグイと野生に満ちたかぶりつき方。
誰もが当たり前のように持っているはずの、しかし彼女がいつも見せない側面に思わずドキリとしてしまう。
(おいおい、最近ドキドキしっぱなしだな?)
うるさいうるさいうるさい!!
――実際、昨日の朝からずっと変な気分なのだ。
例えば、一昨日までは彼女のことを『北野さん』と呼んでいたはずなのに……。
自分でも今、ワケがわからないぐらい大胆になっている。
彼女がいつも見慣れた制服とは異なる、メイド服に身を包んでいるからなのか。
それとも文化祭という特別な場の空気がそうさせているのか――?
あまりじろじろ見るのはどうかと思うし、俺も食べるほうに戻る。
歯応えたっぷりの牛串、後味まで間違いなく旨かった!
最後のほう、アゴが疲れて別の露店で買ったドリンクで流し込むようになってしまったのはちょっと勿体なかったかもしれないけれど……。
それからも俺たちはいろいろなものを食べ歩いた。
特に素晴らしかったのは、この焼きマシュマロだ。
外はカリッとアメのように……中はふんわりとろりとクリームのように。
どちらも味は砂糖のシンプルな甘味。だが、外と中でこんなにも食感が変わるものか。
別添のチョコクリームをたっぷり付けて食べてみるのもまた旨し。
「美味しそうで何よりです」
横で見ていた明里さんが微笑みかけてくる。
「その顔をみていると一緒にならんだ甲斐がありましたね」
「うん、本当にありがとう!」
キャンプ部主催のスイーツショップ、行列の大半は女生徒たち。
男が一人で並ぶのは相当に勇気がいるのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――
そうして露店を回っているとお腹もいっぱいになったので、次は――。
「そこのお侍様にメイドさん、ストレス解消に一発どうだい?」
ずいぶんノリの良い男子生徒に誘導されて教室の中へ。
ああ、射的場か。
「やってみようか?」
「いいですね、やりましょう!」
まずは俺の番、10発中――2発。
「はい、賞品」
ポテトチップスと『キノコの里』の小袋を受け取って明里さんと交代。
(本当はタケノコのほうが良かったんだけどなぁ……)
「では……初めてですし、あまり自信はないのですけど」
――パン!
――パン!!
――ドパン!!!
正確無比なライフル捌きで放たれるコルクの魔弾。
次々と上段のぬいぐるみたちの急所を捉え、奈落の底へと叩き落として行く。
すみっこの方で震えていたしろくまやとかげもお構いなしだ。
「え、ええと……明里さん? イギリスで銃を使った経験がおありで?」
「いえ、ただのビギナーズラックですからご安心ください」
彼女が既定の10発を打ち終わるころには係員の顔はすっかり青ざめていた。
そして、射的ではそんな無双っぷりを発揮した明里さんだったが――。
「ッ!?」
「だ、大丈夫だから、明里さん!」
「いっ、嫌ぁぁぁ!!」
「いや、あれ、着ぐるみだからね? っていうか明里さんは俺が守るから!」
「――死にたくない……しにたくないよぅ……」
チープなつくりのお化け屋敷の闇の中ではずっと全身を震えさせて、俺にしがみついていたのがちょっと可愛くて、そして。
(いい感じの感触だったな!)
――心の中で思っていても口には出してはいけないこともまあ、あると思うのだ。
「む、昔はこんなの……平気だったんです! ホント、本当ですよ?」
珍しくむーっと膨れている、きっと本当に自信はあったのだろう……。
そんな姿もまた可愛い。
そんな感じであちこち回りながら遊んでいたら――眠くなってきた。
そういえば、最近あんまり寝てなかったな。
タイミングよく、ちょうど近くにベンチがあった。
自販機も近くにあるし、ちょっとした休憩所ということなのだろう。
周りを校舎に囲まれているので通り風に晒される心配もない。
打ち上げの出発まであと一時間……寝るほどの時間はないが少しぐらいぼーっとしていてもいいかもしれない。
「少し休もうか、明里さん」
「そうですね、楽しかったのですけど……疲れてしまいました」
明里さんと二人、ベンチに腰を下ろして目を閉じた。
涼しい秋の匂いがとても美味しくて――。
「……千寿殿ぉ 打ち上げに出発しますぞ」
次に俺が意識をうっすら取り戻したのは、クラスメイトが打ち上げの呼び出しに来たまさにその頃合いだった。




