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第12膳 放課後コロッケパーティー

 茶道部の帰り道……。

 今までの茶道部トリオに北野さんを加え『茶道部カルテット』になった俺たちは駅までの道を雑談しながら進んでいた。


「そう言えばさ、まだあかりんってアレやってなかったよね?」

「アレ、ですか?」

「あ、うん、歓迎会も兼ねて久しぶりにやろうか、部活帰りのコロッケ会」


 茶道部帰りにコロッケ……。

 俺も先輩からその伝統を聞かされたときにはあれ?と思ったものだが実際問題、茶道部だってちゃんと活動していれば腹も減る。

 抹茶と菓子を飲み食いしているだけではないのだ。


「お、いいな! やろうぜ!」


 ――こうして、俺たちは若干戸惑い気味の北野(きたの)さんを連れて駅前商店街のほうへと向きを変えた。


 目的地は商店街の入り口にあるカウンターむき出しの肉屋――。

 油を満たしたフライヤーがカラカラと音を立てている。

 付近に立ち込めるパン粉と肉の焦げる臭いに心も弾む。

 その小さなスペースに、まるで誘引灯のように群がる部活帰りの生徒たち。

 時間帯からすると大半は文化部だろう。


「お、軽音部のヤツらじゃん」

「お先に!」


 背中に楽器ケースを背負った女生徒が何人か紙袋から揚げ物を頬張りながら駅の方へと向かっている。

 皆が放課後サクサクタイムを楽しんでいるその光景がますます空腹感を掻き立てるのだ。

 よしよし、さっそく――。


「ここのオススメは肉じゃがコロッケかな?」

「そうですね、ではそれを――」


 いつもの流れで肉じゃがコロッケを四つ購入。

 各自の手元に行き届いたのを確認して。


「「「北野さん!茶道部にようこそ!」」」

「あ、ありがとうございます!」


 乾杯するかのように紙袋を軽くぶつけあってかぶりつく!!


 さくっ

 はふはふ……


 揚げたての熱さに、白い息を吐きながらホクホクの餡が口のなかいっぱいに広がる感覚を楽しんだ。


「――え、お、おいしいですっ!」

「ホント、たまらないよね!」


 原型を残すことなくグニグニと潰され、挽き肉と油の旨味をその合間に敷き込んだコロッケの餡……。

 それはもうジャガイモとはまったく別の食べ物へと進化してしまっている。


 その味の違いがよくわかるのは潰しきれなかったジャガイモの塊がごろりと口のなかに入り込んでくる時。

 優しいでんぷんの甘さがアクセントとなってコロッケ全体の旨味を引き立ててくれる。


 少し温度が下がり、口に入れやすくなったソレを無我夢中で食べ進めてゆく。

 たまに口のなかに残る挽き肉のカケラ……。


(――お、ボーナスタイムじゃん)


 コショウとタマネギの風味がたっぷり絡んだ肉片をぷちっと噛み締める瞬間は最高だ。

 それならメンチカツでいい?

 違う!コロッケの中の肉片とメンチカツは……まったくの別物なのだ!


 ふと隣を見ると早馬(そうま)がこちらの顔をみて笑い声をあげている。


「なあ?ヨシノブの唇、リップグロスみたいだな!」

「早馬だって同じじゃん、それに衣もついてるしさ」


 うおっ!?と慌てて口の周りをぬぐう早馬を尻目に女子のほうを見る。


 俺たちがふざけあっている間にさっさとコロッケを食べ終えたようで……物欲しそうな目で再び肉屋のカウンターを見つめている北野さん。


「ん、あかりん、どうした?」

「カレーコロッケ……興味はあるのですが二つ目は、その……」


 戸惑いながら声をあげる北野さんにすぐさま反応する美鈴(みすず)


「あ~、じゃあさ! 今度ははんぶんこしない?」

「あ、はい、それなら!」


 ほいきたとばかりにカレーコロッケを買ってきて、さっそく紙袋から押し出す美鈴。



 しゃくっ、さくさく――ごくん。


 タイプは違うけれども学園上位の美少女ふたりが身を寄せあって、ひとつのコロッケを姉妹のように分けあう光景はかなり華々しい。

 思わず惚れ直してしまいそうだ。



「お、オレももう一個食おうかな」

「ああ、俺も――」


 慌てて女子の後を追って早馬と二人で店頭に並び、今度はカレーコロッケを購入。

 再び目を白黒させながら揚げたてのソレにかぶりつく俺たち。


 先ほどのものと比べて一段と増したコク、そして口の中にほんわか広がる甘み……。

 ほろりほろりと崩れる餡から顔を覗かせるニンジン、それに大きめに刻まれたタマネギの彩りも目に嬉しい。


「あ――忘れてた!」


 甘いカレーの風味に脳が刺激を受けたのだろう――俺は大事なことを思い出した。


「え?」

「いやさ、うちのクラスの文化祭の出し物の案、明日までだっただろ?」

「うわっ!?」


 どうやら早馬もすっかり忘れていたらしい。

 まあ無理もない、ここ最近は他にも色々考えなきゃいけないことがあったことだし。


「これ食べてたら……何となく、いい案思いついてさ」

「おいおい何だよコロッケ屋?」


 それは……ちょっと考えたけど得策ではない。

 借りるアテがないとは言わないがフライヤーは準備も型付けも大変なのだ。


「こう、喉元までは出かかってるんだけどさ――明日までにはまとまると思う」

「おう、頼むぜ。食いしん坊将軍サマ!」


 いつも思うのだが……何だよその呼び方は!

 俺がツッコみを入れる前に早馬がぽんと背中を叩いた。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――


 それから俺たち四人は電車に乗った。

 11月上旬――辺りにはすっかり夜の帳が降りてしまっている。

 窓から見えるビル街の煌めきを楽しみながら……。


「それでは、皆さん。また明日、ですね」

「うん! また明日――」


 途中の駅で北野さんが降り、早馬が降りて、そして最後は同じ駅で美鈴と手を振り別れて自宅への帰路に就く――。

 門をくぐった俺を、使用人さんたちが出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、慶喜(よしのぶ)様……今日はコロッケですよ!」

「あ、うん、ありがとうございます!」


 じいさんと父さんは帰りが遅くなると言っていたし……着替えたらさっそく揚げたてを頂こう。

 被ってしまったのがちょっと残念だけど。


(いやいや、放課後コロッケとおうちコロッケはまた別モンじゃね?)


 うん、そうだな――。

 私服に着替え、シャワーを浴びて……。

 俵型コロッケを満載した大皿が待っているキッチンに……いざ進まん!


 しっとりふわふわのおうちコロッケ、横にはちゃんとキャベツも載っている。

 こちらも美味しく頂きました!

学校帰りに食べるコロッケって何故あんなに美味しいのでしょうか。

次回からは新章『文化祭』編突入です。引き続きよろしくお願いしますっ。

また、この度、カクヨムでも(一部表現など変更して)投稿することとしました。

といってもこちら先行で行くと思いますので引き続きよろしくお願いします。


面白いと思って頂けましたらブクマ・評価(目次下の☆☆☆☆☆を★★★★★に)して頂けると励みになります。


――――――――――――――――――


この作品はフィクションですが放課後に食べるお肉屋さんのコロッケの美味しさは本当です。

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