第十話
「何してんの?」
と笑顔で声をかけると、机の下に置いていた手を不自然に机の上に置いて、
「何もして無いですよ。ただ授業受けてただけです。」
と言われた。
彼の太ももの上にはスマホが置いてあった。
それをさりげなく取って、画面を見てみると明らかにゲームしていたのが分かる。
「授業中に戦場なんか行ってたんだぁ。大変だね。」
と言うと、クラスの人達が笑って、彼に恥をかかせて、嫌がらせをした。
「じゃあ、これは放課後まで預かっとくから。」
とポケットの中にそれを入れて、授業を続けた。
授業後、彼が謝りに来たが、放課後までという縛りなので返さなかった。
「四組の男子が塩ちゃんにスマホを取られた。」
と生物選択の女子達が噂していた。
みかちゃんをずっと眺めていれる状況でスマホを見るなんて僕には考えられない。
放課後、みかちゃんに連絡をしてみると、ちょっと職員室で用事があるから遅れると連絡があった。
気になるのもあるし、暇つぶしも兼ねて、職員室に見に行った。
案の定、みかちゃんと男子生徒が話していた。
「生物の授業は生物の勉強をして貰わないと、私のクラスだけ成績が低いのは嫌だから。」
凄い自己中心的な理由だ。
「でも、それは授業後に謝ったじゃないですか。何でその時に返してくれなかったんですか?嫌がらせですか?」
みかちゃんと話している男子生徒も結構反抗的だな。
「君、友達いないだろ?」
「そんなの関係無いですよね?」
「少しは友達作った方が良いよ。こんなもの見てないで。」
とスマホを出して、見せている。
「そうやって、友達友達って。友達がそんなに重要ですか?まあ、先生みたいにキラキラしてる人は俺なんかの気持ち、分からないですよね。」
と嘲笑って、そのスマホを手から奪うと、そのまま帰って行った。
残された彼は一驚して、少し固まっていた。
「あぁ、クソ。」
と頭をかいてから、髪を無造作に整えて、職員室に入って行ってしまった。
そしてすぐに煙草を手にして出てきた。
「煙草、吸うんですか?」
「あぁ、馨。今回だけは見逃してくれ。」
「良いですよ。酷い言われようだったんで。」
「あれ、見てたのか?」
「はい。」
屋上に行って、鞄を枕にして寝っ転がる。
「暑いですね。フライパンの上にいるみたいです。」
太陽がギラギラしていて歪んでいる。
「はぁ。それにしても、学校なんて人間関係を構築してなんぼだろ。」
と不機嫌そうに彼はフェンスに寄っかかって、煙草を吹かしている。
「そうですね。勉強だけなら家で出来ますもんね、キラキラしてる人。」
「それ、嫌味か?」
「はい。みかちゃん、友達いませんから。」
「むかつく。連絡取ってないだけだ。」
と脇腹を蹴られた。
「みかちゃん、聞いて下さい。」
「何?」
「家でバースデーメガネしてたら怒られました。」
「何してんだよ。」
と笑ってくれた。
「百均で良いの見つけちゃって、目を見せなければいけると思ってたんですけど、結局怒られちゃいました。」
「ふふっ、面白い事してんだね。」
「はい。あと、このにゃんこ、みかちゃんに似てませんか?」
と指で髪留めを示した。
「え?そのにゃんこが?」
「似てません?」
「似てるかも。」
「だから、あまり外したくないんですよ。お守りみたいで。」
「んー、本当に守れたら良いんだけど。」
と困惑した表情を見せられた。
「慰めてくれるだけで十分です。」
と言うと、苦笑いされてしまった。
「もうすぐで夏休みですね。」
「楽しみか?」
「最悪です。」
「言うと思った。」
「だって、みかちゃんと会えなくなるんですよ。寂しいに決まってるじゃないですか。」
と鞄を抱きかかえて座って、上目遣いで見てくる。
いつも馨の方が背が高いから、余計に可愛く見える。
「友達と遊べるだろ?存分に楽しめ。」
「それはそれで嬉しいですけど。みかちゃんは寂しくないんですか?」
「…夜、電話くらいならしても良いぞ。」
と腕を組んで、ニヤリと笑ってみる。
「何ですか?やけに上から目線。」
「馨を見下ろすなんて、あまり無いからな。」
と顔を近づけて、座っている馨を見下ろす。
「ご機嫌になったんですね。」
「うん、馨のおかげ。」
と髪の毛を撫でた。
目を細めて微笑む姿がちゃんと見える。
それが凄く嬉しかった。
「馨、お父さんと何かあったの?」
僕が帰るやいなや、心配そうに質問してきた。
「あぁ、まあ。」
「あれほど、あれほど言ったのに。…私がどれだけ貴方の事を想ってやっているのか分かんないの?」
と肩を強く掴んで揺すってきた。
「分かってるよ。ごめん、母さん。」
「ごめんで済む話じゃないのよ。貴方の将来がかかってるんだから。」
「…将来なんて考えられない。」
「え、何言ってるの?」
「ごめん。なんでもない。」
「貴方は色々と反抗したい年頃だと思う。けど、私は貴方の親だから。貴方を正しく導かなければならないの。あと、一年半。我慢してね、お願い。」
と訴えかけられた。
「分かったよ。我慢する。」
それしか言えない。それしか選択肢がなかった。
「ごめんね、馨。貴方には我慢させてばかりで。」
父親は兄貴を贔屓してばかりいた。
洋服もゲームも僕には買ってくれたことが無かった。
「良いよ。でも、これだけは教えて欲しい。僕の実の父親って誰?」




