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僕と魔王の復讐協定 ―皆殺し復讐物語―  作者: パン
2章 2つの世界と2つの復讐
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勇者との決闘物語

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「……ミクトラント様、勇者共が到着しました」


 蒼く光る松明以外に光源が無い、暗い部屋。

 静寂に静まり返った空間には玉座に座る私と教育係のセバスト、ただ2人だけが存在した。


「そうか、ではお前の役目は終わった。消え失せるがいい」


 私はたった今受け取った言葉の意味を馴染ませるように、両手を強く握った。


「しかしミクトラント様、このままでは……」


 覇気を放ち、これから口に出すであろう言葉を黙らせた。


「二度は言わん。魔王である我と勇者の決闘だ。邪魔をするな」

「……ご武運を」


 セバストは鉄仮面のように表情を出さず、影に沈みこの場を去った。


 あと数分もすれば勇者共が到着するだろう。

 そう予感した瞬間、この暗い部屋に、どこからか一筋の紅い光が差し込んだ。

 その光は、引き寄せられるように私のもとへとやってくる。


「ありがとう、お母様」


 紅い光は部屋を血のように赤く染め上げ、全身が太陽の如く熱を帯びた。

 溢れ出した紅い光は、やがて瞳に収束し黒から紅い瞳へと変化させた。

 紅い瞳、それは真の魔王になった証拠であった。



 紅い瞳の涙は、血のように赤く染まっていた。



 私には、家族がいた。

 父、母、妹の4人で仲良く平和に暮らしていた。


 父は、魔王の子孫であるにもかかわらず温厚な方だった。

 必要以上に人間を殺さず、共存の道を歩んでいた。

 理由は分からなかったが、今思えば家族を思う気持ちがそうさせていたのかもしれない。

 一部魔族からは軟弱だの魔王失格だのと言われていたが、毅然とした王者の風格は多くの魔族からの親しまれ、故に人間との大きな争いは起きなかった。


 そんな平和な話も、人間達の反逆によって過去の話となった。

 人間の城で行われた和平の場にて、父と妹が殺されたのだ。


 知らせを受けた魔族は人間たちに戦いを仕掛けたが、誰一人生きて帰ってはこなかった。

 勇者とは、魔王を殺す為に生まれし者。

 不意打ちだろうが罠だろうが、魔王の血を引いた父と妹を殺したのだ。

 圧倒的な力を持っていることは疑いようもない現実であった。


 戦術の鬼才を持った母が指揮する魔王軍は、枯れ木のようにボロボロに朽ち果てていった。

 勇者率いる軍隊が城の前まで来た時、母は命を懸けて戦っただろう。


 ……母の魂が取り込まれたという事は、母は息絶えたという事。

 これで魔王の血族は、私だけとなった。



 母が私を残したのには、2つ理由がある。

 1つは私の持つ能力が起因していた。


 ――死神の錬金術(デス・アルケミー)

 所有者の魔力に依存した回復能力を持ち、魔力を媒体に魔法具を生成する能力。


 ……魔力に依存した回復能力。つまりは無限に魔力があれば無限に回復能力を持つ不死身という事だ。

 しかし、残念ながら私にはそこまで大きな魔力を持っていない。


 ここで2つ目の理由につながる。


 ――魔王という存在は、魔王を崇める者、人類を憎む者の信仰心によって強くなる

 ――故に魔王は、人類の敵そのものであり、滅ぼす存在


 魔王とは、願いによって生まれた存在。

 願いが強ければ強いほど力が大きくなる、という単純な話であり。

 故に魔王の数が少なくなればその願いが集約され一人あたりの力が増大する。


 母の軍神スキルでは、いくら強くなっても限界がある。

 限界のない私の回復スキルは、絶大な魔力量と相性が良かった。

 だからこそ、私を最後に残した。そこに母としての感情があったのかは知る由もない。

 ……最後に、魔王の存在が1人になった時、開花するスキルがあった。


 ――勇者殺し(ブレイブ・ブレイカー)

 所有者が勇者の体に触れた場合対象の魂を破壊する能力。


 そう、これこそが魔王の切り札。

 勇者の存在すら認めない、魔王代々伝わる最強のスキル。


 不死身の身体を持ちながら、必殺の一撃を与えることができる。

 これこそ、母と私が考えた最強のカードであった。




 ――切り札で、あるはずだった。




 扉を破壊し、勇者4人が目の前にのこのことやってきた。

 戦士、聖女、魔法使い、アーチャー。なんともまあバランスのよさそうなパーティーである。


 唯一の男である戦士が、開口一番に言った。


「やあ魔王、とりあえず死んでくれや!」


 瞬間、詠唱も無く氷と光の大魔法が放たれた。

 私は魔力で創り出した魔剣で空間ごと魔法を切り裂いた。

 二つに割かれた大魔法は玉座と凍てつくし、天井を塵へと分解させた。


「あははー! 僕の魔法がこんな簡単に防がれるとはショックをなんですけどー!」

 生意気な魔法使いは呼吸をするかのように大魔法を繰り出し続ける。


「創世の光よ 神の意志が赴くがままに敵を粉砕せよ!」

 光を纏った聖女は味方を守りつつも軌道が変化する光魔法を繰り出していった。


「――死ね」

 アーチャーから放たれる矢は、一発一発ご丁寧に殺意を込めて心臓を狙っていた。


 本来の私であれば死んでいたであろう勇者の猛攻は、今の私には通用しない。


 心臓を射抜かれても、頭を潰されても、身体を凍らせ砕けさせても、私は死ななかった。

 無限ともいえる魔力と死神の錬金術(デス・アルケミー)の治癒能力で無敵となった私を殺せるはずがなかった。


 しかし、おかしい。何かがおかしい。

 灼熱の炎を繰り出しても、勇者は死なない。

 絶対零度の冷気を放っても、勇者は死なない。

 次元を歪ませる程の爆発を起こしても、勇者は死ななかった。



「はーっ! あっぶねーな! やっぱコイツを殺すのは無理そうだな」

 前線に立つべき戦士が、女三人の後ろに隠れながらそう言った。


「あはは! 壊しても壊しても回復するんだもん! 死なないから全然つまらない!」

「なんという神に対する冒涜。せっかく殺して楽にして差し上げようとしてますのに……」

「――化け物め」


 言いたい放題言ってくれているようだが、言葉が頭に入らなかった。

 全身の神経が戦士の持つ大剣に、赤黒い輝きを発するその大剣から、目を離せなかったからだ。

 見覚えが無いはずなのに、どこか見たことがあるようなその存在は、私になにか語りかけているかのように感じた。


「これ? わかる?」

 戦士は笑いながら言った。


「これね、お前の親父の眼をくり抜いて作ったんだぜ!」



 そう言い放つと戦士は大剣を軽く蹴り上げた。




「――貴様ぁぁぁあああああああ!!!」


 コイツを殺す事以外の思考を停止した。

 巨大な魔力を全身に通わせ、光より速く魔剣を振り下ろした。



 ――はずだった。



「フフフ、ようやく隙を見せてくれましたね」


 聖女が何かを呟いたその時、部屋全体、いや、城全体が白く光り輝きだした。

 何もない空間から伸びた無数の鎖が、私の動きを封じ込めた。

 伸びたという表現は間違いだ、コレは突如現れた。

 何の前触れもなく現れた光の鎖は、私の行動を何一つ許さないまま縛り上げた。


「いやぁー! 魔王相手に心の隙を作ってのは、案外簡単だったなー! オィ!」

 大剣を踏みつぶしながら、戦士は言う。


「――家族ごっこで弱くなった魔王なんてのは、こんなものか」

 つまらなそうな顔で、アーチャーは言う。


「あははっ! ええ、誰もアナタのスキルについて教えてくれなかったよ! 家族愛って凄いんだね! だから、妹さんをギロチンで殺した後、脳に直接聞いてあげたんだよ!はははっ! 用済みになった脳は豚にぶちこんで、ゴブリンに犯させながら殺してあげたから感謝してよね!」

 ……魔法使いは言う。


「残念ながら今ここで殺すことは無理ですわ。なので、悠久の時の中で、じわりじわりと弱らせる事にします。

 勝手に死ぬか、衰弱したあなたの回復力を上回る神の鉄槌で殺されるか、どちらかご自由に選んでください」

 不満そうに、聖女は言う。



 ――縛りつける光りの鎖は、思考することすら許さなかった



 戦士は笑いながら近づき、こう言った。


「ハッハッハ! わるいな魔王、俺は美味しいものは最後に食べるって決めてるんだよ。それに魔王が中途半端に生きていると、俺らにも都合がいい。人々は魔王を恐れ、勇者に救いを求める。その信仰心は、俺ら勇者の力にもなる」


 癇に障る高笑いが、私の耳で繰り返し響いた。


「と言う事で、最後まで利用されてくれや、魔王さんよ!」


 大剣に、父の眼に、唾を吐きながら露骨に挑発してきた。 


「……貴様……ら、絶対……殺し……やる!」


 末端の神経まで焼かれている身体では、これしか言葉が出なかった。


「せいぜい頑張って生きてくれよ! まぁお前が死ぬか出てくる頃には、俺達はとっくに寿命で死んでいるけどな! お前の大好きな家族愛とやらに見守られながら、幸せに死んでやるぜ!」


 4人全員が、醜く笑いながら私を視ていた。

 一瞬、視界が光りで覆われ、意識を失った。

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