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ごじゅうとに。

 

 

 それから何事もなく、平穏なままに一週間が経過した。

 だが、決して“あっと言う間”ではなかった。

 少なくとも、姫森にとっては。


 水澤は、話の通りに書斎で端末に向かって一日中執筆をしている。食事とトイレ、入浴以外はずっと書斎にこもりっぱなしだ。これは裁縫も同じで、こちらは何をしているのかはわからないが、こっそり覗いた時には部屋中に所狭しと端末を展開して、どうやら先の言通り何かを調べているようだった。そのほとんどが異国の言葉で記述されている文献で、数少ない日本語の資料は内容が難解過ぎて姫森にはさっぱりわからなかった。

 早見はといえば、どうやら凝り始めるとはまるタイプだったらしく、水澤に借りたレシピブックのメニューを片っ端から料理していた。それも、初めこそ微妙な味わいのものだったのだが、一週間も経つとかなりしっかりしたものが出てくるようになった。それどころか、最近ではどうやらお菓子作りにまで手を出し始めたようである。

 ぶっちゃけ既に姫森より料理上手である。


 で、姫森は。

 日がな一日、リビングのソファでぼけっとしていた。

 することがないのである。

 裁縫の調べ物を手伝おうにも資料の内容がさっぱり解読できないし、早見はひとりで黙々と研究するタイプでもあったらしく入り込む隙がないし、水澤の執筆の手伝いなど論外である。

 つまりは暇人だった。

 一応、水澤の書斎から何冊か本を借りてきて、それを読んではいる。面白そうな、興味をそそる本はたくさんあった。だからそれを、ソファに座って膝の上で開いてはいるのだが、視線はひたすら文字列の上を滑り続けるばかりで、内容が一向に頭に入ってこないのだった。


 他の皆はちゃんとやることがあって、それをちゃんとこなしてるのに、私だけこんなことをしてるのはなあ……


 そんな思いがあって、なんとなく集中できないのだ。


 だからといって、彷徨する思考がどこに向かっているかと言えば、来年受験なのに勉強全然してないなあ、とか、春休み終わっちゃうなあ、とか、最近急に暖かくなってきたなあ、とか、買ったばっかりで読みかけの漫画、そういえば部屋に置きっぱなしだなあ、とか。

 水澤は小説家で。

 裁縫は、よくわからないがどこかの機関の一員らしくて。

 早見でさえ、実は世界最後の魔法使いで。

 自分だけ、何でもないただの女子高生で。

 総括するところの、


「私、ここにいていいのかな……?」


 ぽつり、と落とすようにつぶやいた。それは無意識のもので、誰かの答えを期待したものではなかったし、そもそも水澤と裁縫は缶詰めで、早見はキッチンにこもっているからリビングには自分以外誰もいないという心の軽さからもれたものだったが、


「ほう、なかなか面白い疑問を持っているようだな」


 不意に、背後からそんな答えが返った。

 

 


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