ごじゅう。
「まだ小説なんて書いていないのに、そう“世界唯一の小説家”などと連呼されるのは、なんだかこそばゆい気持ちがするな」
肩をすくめて、水澤がつぶやく。
「というか、私も引き受けてもいい気にはなってはいるけれども、そもそも本当に私は小説を書けるのか? いろいろと言ってはくれているが、もしも書けなかったらどうする? 書いたところで面白くもなんともない、笑えもせず泣けもせず、恐怖するでもなく感動するでもない、毒にもならなければ薬にもならない、そんな三流小説だったらどうなるんだ?」
両手を肩の高さまで広げたポーズで、水澤は裁縫に問う。そんなひとつひとつの仕草までが妙にキマっていて、格好いい。
対して裁縫は首を振った。
「書けるよ。大丈夫だ、そのあたりは問題ない」
淡々と、裁縫は断言する。
「キミは小説を書ける。書けるし、それは間違いなく面白い小説になる。――少なくとも、この、小説だか何だかわからない、五十話に至るまで無計画に書き散らして書いてる本人が設定を遡って探さなければいけないようなものよりは絶対に面白い」
「えと、何の話だ?」
「わからないのかい、はやみん。例によって例の如く、御都合主義の話さ。全く、遅筆な上に拙筆で、残りはいよいよ十日だっていうのに、完結できるのかどうかも怪しいんだから……」
わからない。見れば姫森はもちろん、水澤も要領を得ていないようだ。




