誘拐犯の正体
いつも読んでくださりありがとうございます。
カテゴリー恋愛ではなくファンタジーでは?となり始めてます。
波打つ美しい藤色の髪の毛、大きく煌めきこぼれ落ちそうなエメラルドグリーンの瞳、すっと通った鼻筋の先には美しい薔薇色の唇…まるで鏡を向かい合わせているかの様な完璧なアイリーンが二人いた。しかし、一人は土で汚れた水色のマーメイドドレスを纏い、もう一人は城のメイド服を着ていた。
「なんだ。もう到着しちまったのか」
つまらないとでも言うように、メイド服のアイリーンが唇を尖らせる。いつも清廉なアイリーンとは真反対の、毒々しい雰囲気に寒気がする。グレイブとローレンが剣を抜き、臆することなく前に出たリデアが声を発する。
「スキルでアイリーンに変装しているのか。…アイリーンに何をした!!」
リデアの怒りに魔素がビリビリと揺れた。
土であちこちが汚れ、破れてしまっているドレスのアイリーンは、瞳を閉じてぐったりとしている。メイド服のアイリーンがチラリとそちらに視線を向けるが、とくに問題はないとでもいうように髪の毛を掻き上げた。
「眠ってるだけだよ。暴れられたら邪魔だし、逃げる時にドレスをひん剥く予定だった。けど、見つかっちまったし、その手間は必要無くなったなー」
この世界で、女性が身内以外の人間に下着姿を見せるのは相当な辱めだ。いつも優雅な姿で微笑んでいるアイリーンのぐったりと動かない姿をみて、エメラルダが静かにキレた。スキルを展開する。
『ヴォルヌス。貧困街出身の暗殺者。スキル『模倣』。触れた相手になりきることができる。1日の最大模倣数は三人。???の命令により魔素の森に???を探しに…』
検索画面を読んでいる途中で強い力で引っ張られる。気づいたらリデアの腕の中で守られて、エメラルダのいた場所にはナイフが突き刺さっていた。
「何、お前?気持ち悪いんだけど」
さっきまでの軽薄そうな表情は削げ落ち、暗い表情でじっとりと凝視されていた。
(あぶなー!!!刺殺エンドは嫌すぎる)
「なるほど。お前の名はヴォルヌスと言うのか。どこかの組織に所属しているみたいだが、王族の誘拐に魔素の森での無断侵入と窃盗。どうなるかは分かっているだろうな?」
ヴォルヌスとエメラルダの間に進み出たグレイブが、抜刀したまま問いかける。
「もちろん分かってるぜ?でも、それは捕まったらの話だろ」
ヴォルヌスが懐からナイフを取り出しアイリーンの首元に近づける。
「アイリーン姉様!!!」
白い首筋に赤い線が入った瞬間、森から黒い影が飛び出した。黒い影が軽々とアイリーンを包み込み森へと消えていく。
「……黒魔法?」
エメラルダが呟くと、影が伸びていた位置からクロが出て来た。
「クロ!!」
クロの登場にエメラルダ以外は驚き警戒したが、エメラルダの親しげな呼びかけにリデア達は敵では無いと判断する。
一人となったヴォルヌスに全ての視線が向けられ、空気が一段とピリつく。絶体絶命のはずであるヴォルヌスは、特に気にすることなく面倒くさそうに髪を掻き上げる。
「人質まで取られたらこっちの分が悪いなー。命が1番大事だから、一旦退散しまーす」
アイリーンの姿のまま、ヴォルヌスが小瓶を取り出し地面に叩きつけた。ぱりんという音が響き渡ると同時に、割れた場所を中心に爆風が発生する。
リデアとクロがエメラルダを庇うように覆い被さり、グレイブとローレンがヴォルヌスを追おうと踏ん張る。
しかし、数秒で爆風が収まった後には誰もいなくなっていた。
エメラルダが慌ててスキルを使いヴォルヌスの位置を検索したが、すでに魔素の森にはおらず名前は消えていた。
「リデア兄様ごめんなさい…私の力不足でヴォルヌスの位置を検索できません」
エメラルダを守っていたリデアの腕が解放される。
「アイリーンが持っていた魔道具を奪って、森から脱出したみたいだな。魔素の森ではスキルが使えないから、まだアイリーンの姿のままだろう…近衛が見つけても取り逃がしてしまいそうだな…」
思案するリデアの横でエメラルダは悔しさに俯く。
(位置検索を始めて使ったけど、範囲が決まってるだなんて…まだこのスキルを使いこなせてないんだわ)
チートだと喜んでいた自分のスキルに落ち込んでいると、クロが優しく擦り寄ってきた。いつもと変わらないクロに緊張していた身体がほぐれる。
「慰めてくれてるの?ありがとう」
いつものように柔らかく艶やかな毛を撫でる。すると、前髪からマメが出て来てくるくると回り出した。
「マメも慰めてくれてるの?ありがとう」
くすくすと笑っていると、グレイブとローレンがこちらに歩いて来た。
「おい。黒狼魔。アイリーンを出せ」
いつもとは違う冷ややかな声でグレイブが命令する。
クロが耳をピクリと反応させ、エメラルダには絶対向けないような冷めた目でグレイブを見据える。二人の間でバチバチと火花が散っているのが見えるようだ。
エメラルダが慌てて二人の間に入る。
「グレイブ兄様!クロは私のお友達なの!クロ!アイリーン姉様の無事を確認したいの。ここに出してもらえるかな?」
わたわたと二人を交互に見ながら仲をとり持つ。溜め息を吐いたクロが、黒魔法で包んでいたアイリーンをそっと地面に横たわらせた。
「アイリーン!!!」
グレイブが素早くアイリーンを抱きかかえる。アイリーンはまだ睡眠が効いているのか目を瞑っている。呼吸は正常で顔色も悪く無い。
アイリーンの無事がわかったグレイブが強く抱きしめる。いつも気丈なグレイブがこんなにも疲弊している姿は始めてみた。
ローレンがエメラルダに近づき肩に触れる。
「エメラルダありがとう。エメラルダがいなければ、アイリーン姉様は今もあいつに捕まったまま酷い扱いを受けていたと思う。…本当にありがとう」
ローレンの潤んだ瞳に、エメラルダの不安げな顔が映り込む。次にリデアが二人に近づき頭を優しく撫でた。二人の優しさにエメラルダの瞳から不安の色が消えた。




