この世界でで生きていく
「エメラルダ、お前への援助はあと3年で終わる」
「へ??」
「それまでに婚約者をつくるか毒杯を仰ぐか選択しろ」
「ええー??」
美しい兄弟から告げられた衝撃的な言葉に、不満を漏らす。
ここはエトリア王国の王城にある離宮。
華やかな王城から離され、森に近い場所にその建物はひっそりと建っている。離宮とは名ばかりで、建物内にはキッチンダイニングと寝室が二つあるだけのボロボロの小屋。
しかし、私にとってこの離宮は天国だ。
異母兄弟姉妹と継承権を争うことなく、小屋の近くに作られた畑と城からのささやかな配給で食べ物や着る物にも困らない。
異母兄弟姉妹からは、もっと向上心や出世欲をもてと言われるが、王位継承なんかして多大な責任と責務を背負わされるのは真っ平ごめんである。
もう誰かの為に働くのはこりごりなのだ。
私はこの世界に転生する前は日本人として生きていた。
父や母を早くに亡くし、大好きな祖父母が経営しているカフェを手伝いながら、学生時代を忙しく過ごしていた。大学を卒業し、憧れていた会社への入社直前。
祖父母が体調を崩し介護が必要となった。
会社勤めをしながら介護をする事は難しく、祖父母のカフェを経営しつつなんとか介護もこなした。
しかし、祖父母を看取った後、カフェの土地を親戚に取り上げられ、僅かな貯金と衣類のみで追い出された。
新しい住まいを探すのに貯金を使い果たし、安い給料で日々の生活費を稼ぐ…そんな毎日を繰り返していたら疲れなのかベッドの上で事切れていた。
目を開けた時にはこの体…エトリア王国第ニ王女エトリア・アン・エメラルダになっていた。
転生した時にはすでに三歳で、どうやら本当のエメラルダは高熱の末亡くなったようだ。体の記憶をたどると、国王がメイドの女を手籠にした時に出来た子供らしい。王家の血が流れている証拠である、紫色が入った紫紺色の髪。ボサボサに絡まった髪の毛の隙間から見えるのは、平凡なブラウンの瞳。顔は整っているが肌が小麦色に焼けており、少し前まで平民として暮らしていた事が窺える。半分平民でも、国王の血が流れている事に意味があるらしく、母と引き離され二歳の頃に王宮へ連れて来られた。母とはそれ以降会っていない。働かなくても一生困らない額を手渡されていたから、元気にやっているだろう。最初の頃は通いのメイドが世話をしてくれていた。しかし、だんだんと訪れる回数が減り、最終的に誰も来なくなった。病気を患った後に、ベッドから起き上がる事さえできず、そのまま…たった三歳だ。たった三歳の幼児が親から引き離され、寂しく命を落としたのだ。自分の境遇の事もあってか、転生した驚きよりも怒りが勝った。こうなったら何がなんでもだらだらと生き抜いてやる!!
と、そこから気づいたら3年経っていた。
日本での記憶と、この世界にあるスキルを頼りに食物を育て、王宮に忍び込み文字の読み書きや歴史を学んび、あっという間に六歳になっていたのだ。
そして、いつも通り畑に水を撒いていたら、第二王子のグレイブがきて、冒頭の言葉を投げかけられたのである。
鋭い眼力でこちらを見つめるグレイブに、へらっと笑いかける。
「平民に戻ることはできないんですか?」
「王家の血が混じる者を野放しにできるわけがないだろう」
「それもそうですね」
「前から言っていただろう。もっとお前の利用価値を国王に訴えておけよって!父上は使えないとわかったらこの俺でも見放すような奴だぞ」
「そうですねー。このぬるま湯生活気に入ってたのですが…」
(このまま存在を忘れてくれないかなーと、淡い期待をもってたけど、やはりダメかー。)
「お前の知識があれば王位継承も難しくなかっただろ。俺たち兄弟はこれでもお前に感謝しているんだぞ?」
「知識はあっても、実行できるような器ではなかったので。それなら信頼も実績も地位もある、兄様達が生かしてくれたらいいかなと…」
「国の疫病対策も、飢饉も、小さいものから大きいものまで、お前の知識がなければ成し得なかった功績が沢山ある。お前の存在を消すのは惜しすぎる」
(これって褒められてる?わーい!)
そんな私を見てグレイブははぁとため息を吐いた。
「にやにやしてる場合じゃない。とにかく、毒杯を仰たくなければ、婚約者を見つけることだな。俺たちも協力するから対策を考えておけよ」
そう言いながら頭を撫でられた。グレイブはキツイことも言うが、兄弟一面倒見がいいのだ。
「いつもありがとう、グレイブ兄様」
グレイブが少し照れながらぷいっと踵を返した。
「俺も忙しいんだからな!ちゃんと考えておくんだぞ!」
早足で去って行くグレイブを見送りながら、出来の良いこの世界の兄弟姉妹のことをボヤッと思い出した。




