人それを奇手と呼ぶ
そして、そこから会議が始まる。
そこでグワラニーは示す。
前日、王からの命令を受けた直後から送り出していた魔術師とコンビを組んだ斥候たちが手に入れた情報も書き加えて自らが作成したクアムート周辺の地図を。
その中心に描かれた城塞都市クアムートの西部には湖が広がる。
その湖に沿って北西から延びる街道と南北からそれぞれ延びる街道はクアムートの町中で交わる。
それこそがクアムートが要衝といわれる所以である。
そして、クアムートからの三本の街道うちの一本であるクアムートから南へ延びる道の先に魔族の国の王都イペトスートがある。
当然イペトスートから陸路を使ってクアムートに向かえば、やってくるのはその方角からとなる。
現に最初の援軍も南から延びるこの街道を使ってクアムートに向かったわけだが、そこを見下ろす丘に居座っていたのがノルディアの対魔族軍の切り札である人狼軍だった。
そして、攻略軍の主力が母国へと繋がる北方の街道を抑え、本隊から分派された別動隊が本国への別ルートとなる森林地帯と湖に挟まれた西の街道を守備する。
それからクアムートの城塞を何重にも囲む包囲軍。
それが地図に書き込まれたノルディア軍の配置となっていた。
「さて、南からクアムートに進むパラトゥード将軍率いる本隊が無事城に食料を届けることができるようにすることが使命である我々はこの地図のどこに布陣することが最良の選択なのか」
「各々の意見を聞かせてもらおうか」
グワラニーのこの言葉から始まったひとりの将軍と三人の下位指揮官との議論は大いに盛り上がる。
だが、その重点をどこに置くかについては違いがあるものの、そのすべてが自軍の全滅を前提とし、その中でどれだけの敵を倒すかに焦点が当てられたものだった。
もちろん、情報から敵の数は約四万。
それに対して、こちらの数は二千。
勝つ負ける以前の問題、とも言える彼我の戦力差なのだから当然であろう。
だが……。
すべての案が出払ったところで、仕切り直しをするようにグワラニーは咳払いをする。
「さて、皆の意見がどれも素晴らしいものだった。だが、それでは輸送部隊をクアムート城に送り込む道をつくるという我々に与えられた命令を果たすことができない」
「では、どこに転移すれば、目的を果たすことができるのかといえば……」
「ここだ」
グワラニーは地図上の一点を指さした。
そして、グワラニーが差し示したその場所とは……。
クアムート城塞の東側に広がる小高い丘を中心とした草原地帯。
つまり、南に展開する人狼軍と北に布陣する敵本隊の中間地点。
言うまでもないことだが、そこに転移すれば、遠方に転移し街道を徒歩で進むよりはるかに城の入り口に近い。
さらに、突破しなければならない敵陣を避けることができる。
だが、一見すると最良の場所に思えるそこは南北双方の敵から挟撃されるだけではなく、城を包囲している敵からも攻撃を受ける可能性が高い。
いや。
実際にそこに転移した第二回救援部隊はすぐさま城の入口に向かったものの、ノルディア軍が構築した強固な防御陣地を破れず、結局三方からの攻撃を受けて時を置かずに全滅している。
つまり、敵があえてその草原に自軍を布陣させていないのはそれが狙い。
それにもかかわらずそこに転移することが最良だというグワラニー。
当然のようにその案にはすぐさま疑念の声が上がる。
「グワラニー様。さすがにそこは……」
「そうです。そこは敵がわざわざ開けているだけであってとても最良の場所とは言えません」
「間違いなく罠です」
三人の男は異口同音、当然のことを当然のように言う。
だが、その案に疑問を持った全員がその言葉に乗ったわけではない。
自らの考えを素早くまとめ上げたもうひとりは三人の若い実戦部隊の指揮官たちとは違う理由で懸念を示す。
「グワラニー殿。それでは城の入り口付近に敵を集める結果になり、本隊が入り口に到達するのは困難になるのではないのかな」
つまり、そこに自分たちが転移してしまっては囮にはなりえない。
ペパスはそう言ったわけである。
だが……。
「たしかにここは囮役を務める者の転移先としては不適格といえます」
ペパスの言葉にグワラニーは同意すると受け取れるその言葉とともに頷くものの、続いて口にした言葉は肯定とは程遠いものだった。
「ですが、私にとってはここが最良の場所です。なぜなら私と将軍では根本的な部分で考え方に違いがあるからです」
「根本的な考え方の違い?それはどういうことでしょうか?」
さすがにここまでハッキリと言われてしまうといくら抑えても感情は漏れる。
丁寧ではあるが少しだけ強い調子の言葉で問うペパスにグワラニーはこう答える。
「我々が命じられたことは本隊が城に入ることができるようにすることであって、本隊のために囮になることではありません。つまり、我々は囮以外の手段を用いて本隊が城の入り口に辿り着けるようにしてもよいということです」
グワラニーの言葉は正しいと思いながらも、その言葉はあまりにも現実離れしたものだと思ったペパスは、咳払いで場を整えると、もう一度口を開く。
「もちろんそれはそのとおりですが、そこまで言うということは、グワラニー殿には我々が囮になる以外の案があるということでしょうか?」
「はい」
「どのような……」
ペパスを右手で制すると、グワラニーはその男を正視する。
「将軍に問います。この場所に転移した我々が本隊の入城に協力できるのはどのような場合だと思いますか?」
問われたペパスは思考する。
いや。
思考するまでもなくそれはすぐに導かれる。
なにしろその答えはそのひとつしかないのだから。
ペパスが苦悶しながら口を開く。
「……集まってきた敵の殲滅」
グワラニーはやってきた言葉に頷く。
「そのとおりです。つまり、我々はクアムート近郊にたむろするノルディア軍を殲滅して包囲を解除し、輸送隊を城内に送り込みます。もっとも……」
「以前、コリチーバが言ったとおり、包囲していたノルディア軍は消え、主力を失ったノルディア軍が再びやってくるまでには相当な時間が必要になるため、本来の目的は用をなさなくなりますが」
「ですが、命令を履行しただけではなく、ノルディア軍を再起不能に追い込む。そこまでやれば、陛下からの相当な報奨金が期待できることでしょう」
「しかも、我が軍の大部分は戦いの後に勝利の美酒に酔いしれることができることも約束しましょう」
「ですが……」
「敵の二十分の一の兵力でそのような勝利を得られる策など本当にあるのですか?」
コリチーバの言葉にグワラニーが答える。
「ある」
そして、彼らはその言葉に続いて示されたグワラニーの策に驚愕することになる。
「そのためには完全な準備と入念な訓練が必要となります。さらに、これを成功させるために補充する必要がある人材があります」
それから八日後。
同じメンバーの前でグワラニーの口が開く。
「すべての条件と準備は整った。では、クアムートに赴くとしようか。すでに確定している我々を明るい未来に導く完璧な勝利を実際に手に入れるために」




