表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エリート官僚はどこかの誰かに飛ばされた異世界で頂点を目指すことにした  作者: 田丸 彬禰


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/15

閑話 本当の初陣

 ロシェの町を襲撃。


 これがアルディーシャ・グワラニーの初陣の公的記録となる。


 もちろんその準備段階で旧魔族領各地に姿を現していたときこそが彼の初陣であると主張する者も一定数おり、戦いは剣を振るうことだけはないことを考えれば、彼らの主張も正しいといえる。


 ただし、グワラニーの初陣は彼が自らの部隊を持ってからであるというのがすべての意見で一致している。

 だが、グワラニーが最初に戦場に出向いたのはそれよりかなり前のことであり、さらにその後も度々戦場に姿を現していた。

 もちろん戦地に行ったといっても、グワラニーは魔法も使えぬ人間種。

 実際に剣を振るったわけではなく、後方要員として、武器や食料などの必要物資を前線で戦う兵士に届け、王都へ戦況を報告することが役目だったのだが。


 だが、グワラニーはその時、視覚、聴覚、嗅覚、そのすべてで経験した。


 本当の戦いとはどのようなものかということを。


 そして、この時期に凄惨なシーンを数多く目の当たりにしていたために、指揮官として戦場に立ち、グロテスクな場面に直面する、または部下たちにそれをおこなうことを命じなければならない事態になったときでも冷静に対応できたのだと言っていいだろう。


 だが、それはあくまで表面上の出来事。


 「ロシェ襲撃」の際に起こった戦闘で切り刻まれたフランベーニュ軍の兵士を見たグワラニーは誰もいないところで嘔吐し、その後長い間悪夢に魘されていたのだから。

 そして、これこそがまともな者の感性であり、腕を切り落とされ、脳や内臓が飛び出した死体を見ても何も感じない方が異常なのだ。

 まして、元「普通の高校生」が異世界にやってきたとたん、顔色ひとつ変えず人殺し、いや、たとえ魔物であっても、躊躇いなく殺すことができるなどあり得ない。

 それこそ、それができるのであれば、最初から普通ではないということだ。

 もっとも、そのようなことが日常に行われている世界に、口はよく動くが、このような世界で生き抜くのに役立つ特別な技術や強靭な精神を持たず、さらに見掛け倒しで実際にはたいした覚悟もない「普通の高校生」が放り出されたら、殺す前に殺されてしまうのだろうが。


 さて、大部分の者には認定されない文官時代におこなわれたグワラニーの幻の初陣。

 そこから数えて七度目となる任務。

 その任務の大部分を終え、その最後のものとなる戦況報告のために王都に戻る馬車内でグワラニーはこう呟いていた。

 

 ……今回はとくに酷かったな。


 ……そして、改めて思う。


 ……これは物語やゲームではない。

 ……文字通り、自らの命をかけた、生きるか死ぬかの戦いであり、殺されたら、そこですべてが終わる。


 ……法やモラルを守って名誉や名声とともに潔く敗北するのと、後世の歴史家や単なるギャラリーでしかない部外者に後ろ指を差され、悪名が歴史に残ろうとも、勝利を得て生き残ること。


 ……現場を任せられた指揮官がそのどちらを選択するかなど考えるまでもないことだ。


 ……しかも、魔族にとって敗北は即、自らの死に直結する。

 ……自らと配下の兵たち、さらにその翼の下で震える民たちが生き残るのであれば、どのようなモラルに反する行為であろうが、それをおこなうことを指揮官が躊躇するなどありえぬことだ。

 ……いや。あってはならないとさえいえるだろう。

 ……もちろん私が指揮官であっても、同様の判断をする。


 ……それに、この世界でおこなわれている魔族と人間との戦いにおいては元の世界にあるような戦時国際法的なものは存在しない。

 ……つまり、どのような手段を使っても法的にだって問題はない。


 ……もっとも、元の世界にあったあの大仰な条約だってそれによって罰せられるのは常に敗者。

 ……勝者は自らが犯した罪をすべて敗者に擦り付ける。

 ……たとえそれができなくても、うやむやにしたうえ、こっそりと闇に放り込むことはできる。そして、後世の歴史家がその非道を発見したときには時効が成立し、汚名は残るかもしれないが、当事者にはお咎めはやってこないという構図だ。


 ……まさに「勝てば官軍負ければ賊軍」。強い者は何をしても許され、弱い者はただやられるだけなのだ。


 ……つまり、始めたからにはどんな残虐行為をしてでも勝たねばならない。戦いというものはそういうものなのだ。


 ……法律やモラルに縛られて死ぬことなど御免被る。


 ……生き残るためなら、そんなものはいくらでも踏みにじり唾を吐きかけてやる。


 心の中で、元とはいえ、二十一世紀の日本の住人とは思えぬ身も蓋もないことを言ってから、グワラニーはさらに思考する。


 ……それにしても不思議なものだな。

 ……モラルの欠片もないような世界。しかも、このような状況にもかかわらずそれを厳格に守っていられるとは……。


 グワラニーが心の中でそう呟き、驚いていたもの。

 それは魔族軍内に存在する別世界の封建社会に伝わる騎士道精神のような奇妙な慣習だった。


 ……魔族社会では戦いに参加するのは純魔族の男のみ。人間種は女だけではなく男も守るべきものとして戦場に立たせることはしない。

 ……そして、その基準は実際の戦闘だけではなく、戦場からの離脱や撤退の際にも徹底されているのは今回も含めて何度も確認した。

 ……もちろん、普段純魔族に比べて数段階低い地位に置き、あれだけ見下している人間種とともに戦うことをよしとしないし、まして人間種よりも純魔族の兵士が先に逃げるなど絶対に許されないという純魔族の選民意識やプライドがその理由の根底にあるのは間違いない。

 ……だが、これが人間社会なら、そのような身分の低い者は作戦上死ぬべき者が必要となった場合に真っ先に選ばれ、ひどいときには弾除け代わりに使用されて捨て駒以下の扱いで消費されていくはずだ。

 ……むろん撤退の際にも置き去り。そういえば、あったな。神の国と自称していたどこかの国で」


 ……それに比べれば、あの姿勢は魔族社会の美点として評価すべき点であろう。


 ……そして、それが苦境のなかでも内部崩壊が起こらない理由ともいえる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ