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五分前仮説のブランニューワールド  作者: 幾楽あくた


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未来シコウのチートデータガール 81

「データによれば、多くの挑戦者がケイオス・ウィッチに挑みました。そして、一定のチャレンジャーが見事ケイオス・ウィッチを倒したようですねぇ。徒党を組んだと言えども、なかなかにやると評価するべきなのでしょう」


 わざとらしく一拍間が置かれる。


「ただし、単独撃破は甘咲ハジメただ一人です」


 そうと言われてしまえば反論は出ない。誰でも良かった、ハジメが偶々選ばれただけだと言われてしまえばそれまでだし、取って付けた様な理由があれば、それだけでも口を挟めない。


「何より、ゲーム内のイベントと騙されて、ケイオス・ウィッチを演じたのもポイントが高いですねぇ」


 思い出したように笹月は、ぽそりと笑う。

 完璧な理由がそこにあり、静夜は今度こそ言葉がでない。


「そんな甘咲ハジメですからねぇ。人の死を経験し、絶望すれば、ケイオス・ウィッチと同じ道を辿ります。すなわちケイオス・ウィッチの伝承の再現です。同じ道を辿るのなら、同じ化け物が生まれる。ともすれば、オリジナルを超える物が産み落とされるでしょう。この世界だからこそ許される現象です。伝承が存在し、縁がある物がその伝承を辿れば、それは伝承の存在になりうるというふざけたシステム。ご存知ですかぁ? んっふふふ。有名な所ではぁ……脆弱な魚が滝を上り神龍へと変わった話などがありますねぇ」


 笹月は笑う。ちっとも面白くない事を、ちっとも面白くなさそうに語って、造られた笑みで笑う。それこそが楽しい事なのだと信じているかのように。


「……ワンダフルワールドを憎しんだグッバイワールドが、ワンダフルワールドの作った世界のルールを利用するかい」

「ええ、グッバイワールドは器が大きいですからねぇ。利用できるものは何でも利用するのでしょう。特に、奴等の物を使って奴等を追い詰めるのはさぞ胸がすくでしょうねぇ」


 精一杯の皮肉も、笹月には糠に釘だったようである。


「グッバイワールドってなぁなりふり構わず世界を滅ぼしてぇわけだな」


 が、負け惜しみで言う静夜の言葉に笹月は、眉をしかめる。


「あー、あー、そうでしたそうでしたぁ。これはグッバイワールドの名誉のためにお伝えしなければなりませんがぁ。グッバイワールドの目的は世界を滅ぼす事ではありませんよぉ」


 笹月が、随分似合わない事をいう。

 笹月なら訂正するにしても相手を馬鹿にした言葉を選択しそうなものだが、実にシンプルな否定だった。


「彼等の目的はただ一つ。この世界を奴等から奪い取る事だけです。いつかは世界を自分のモノにしたい。しかし今いきなり手を引かれても無能政治家の政権交代のように破綻すると自覚している。だから、グッバイワールドはこの世界において奴等の影響力が高くなりすぎる存在を排除したい。と、そう考えているそうですよぉ?」

「……だからなんだっつぅの。甘咲が暴れるのぁ結局世界が滅ぶって事だろ」

「今奪ったら滅んでしまうから奪わない。滅ぼしたくないから、甘咲ハジメの用途は別に考えられていましたよ。ねぇ、弓代さん。いえ、弓代静夜。奴等が期待する最強さん」


 笹月の目は酷く鋭利な目付きで静夜を見据えてきた。


「グッバイワールドは貴方の転生を的確に警戒しています。転生した弓代静夜に対するカウンターを用意するほどには。正しく警戒しているんでしょうねぇ」

「……俺を殺す為だと?」

「これはすごい事ですよ? いえ、弓代さんが警戒される事がすごいのではなく、最低スケールが惑星規模の方々が、街一つ壊せない人間の実力を正確に把握してそれに合わせたのですから。何が言いたいかと言えば、いいですか? 良いですか? グッバイワールドは心の底からこの世界を手に入れたいのですよ。滅ぼしたいと考えているとは、決して勘違いしてはいけません。それだけは裏切り者の笹月といえども看過できません」


 今までにない程の強い迫力で、笹月は静夜に捲し立て、静夜は困惑する。

 裏切り者という文言も更なる困惑の原因だ。


「弓代さんが覚醒すると、この世界の変化は加速します。奴等が望む行動を、文句を垂れながらも実践しますからねぇ。怖いですねぇ」


 今語られているのは、おそらくはこの状況に至る主題だと言うのに、他人事のように言う。


「何もしなければ弓代さんはあと数年で新しい人格に目覚め、これまでの行いに戦々恐々としながら人生を再スタート。この時点で多くの人物に命を狙われますがぁ、弓代静夜の転生を歓迎する勢力によって命を救われてしまいます。これをきっかけとして魔法も武術も極め、その上で鼻持ちならない善人に仕上がっています。弓代という名前だけあって、異次元に存在する人間すら射抜く魔法が得意ですねぇ。仲間や自分の命が狙われたと思ったら、例えばここ第三世界から百世界の王を打ち抜くんですよぉ」


 自分の事を語られているのに、静夜にとってはまるでぴんと来ない。

 それでも酷く心がざわつくのは、知らなかった自分の罪を暴かれているような居心地の悪さに近い。


「世界を救い続けながらも、女性関係で四苦八苦する。それが生まれ変わった弓代さんです。多少の介入ではこの未来は変わりません。きっと元の人格はモテなかったんでしょうねぇ。前世の鬱憤を晴らすかのようにハーレム三昧ですよぉ」


 認めたくもない、きっと訪れてしまうだろう未来の話だ。

 笹月から語られなければ、きっと何とか笑い話にしてごまかすだろう。


「奴等の望むままに、忖度した行動をとり続ける弓代さんは、グッバイワールドの方々にとって極めて不愉快な害悪でした。よほど許せないのでしょうねぇ。変貌した貴方を殺すために未来予測の技術の限界を超えて活用しました」


 様々な人物を静夜にあてがう世界線の未来を圧縮された時間軸の中に構築し、甘咲ハジメに可能性を見出す。

 そして甘咲ハジメの人生をシミュレート。百万回以上の試行錯誤、小さな介入から大きな介入まで、彼女の人生への介入を繰り返した。

 事実上、一億年以上の時間を費やして、転生後の静夜を殺せる道筋を見つけ出した。


 これらは説明されても、嘘か本当かもわからずに、その苦労の意味も解らない事だった。


 暴露話が楽しくて仕方がないのか、笹月は極めて饒舌である。


「弓代さんと知り合いになる。癖を自動的に観察する。弱点を知り、弓代さんが転生者の弓代静夜となるその時に合わせて覚醒する。奴等の傑作と、グッバイワールドの傑作の代理戦争です。これに勝てる道筋を見つけたからこその、今回の騒動です」

「俺にばらしたらあいつとの距離を取っちまうんじゃねぇの?」


 ハジメと疎遠になろうが、ハジメに殺される未来があるなら静夜は離れるべきである。

 たとえ、変わってしまった自分を殺してくれる存在であるとしても、それで彼女が傷つくのは違うと思うのだ。だだ、その結論は笹月にしてみれば大した話でもない様だった。


「結構ですよぉ。笹月から無事に逃げおおせる事が出来たなら、お好きにどうぞ」


 挑発するように言う笹月。

 実際にここから逃げたらどうするべきか。ハジメと距離を取るべきなのか、今まで通りに付き合うべきなのか。静夜自身が死ぬ事は受け入れるとしても、彼女を人殺しにしてしまうのは忍びない。そもそもどちらが笹月の思惑通りなのか……。

 逃げてしまえば笹月の思惑通り、ハジメは世界を滅ぼすのか。

 逃げないならばハジメはケイオス・ウィッチになり、そして静夜を殺して……世界は滅びない?

 未来を知れば行動が変わる。解っているのに、なぜ笹月は伝えたのか。

 いよいよ混乱し始める静夜。

 馬鹿にするように鼻で笹月は笑った。


「ちなみにですよ。なかなか骨が折れますがぁ、弓代さんを一年間。笹月が隔離することに成功するとですねぇ。これからの未来で、甘咲ハジメは孤立します。助けてくれる筈だった心優しき人々は、どういう訳かもうこの世にいないですからねぇ」

「……ああ、そう言う事かい」


 ここ最近の、ワールドシリーズと呼ばれるワンダフルワールドの関係者の暗殺はこのためだったのだと確信する。


「甘咲が絶望すりゃ、お前が言うケイオス・ウィッチが出来上がる訳だな」

「ええ、そして、弓代静夜を殺す為に全てを掛ける筈だったその力は、自分を追い込むこの世界に振るわれます。解り易くていいですねぇ。笹月がここで弓代さんに勝てば、笹月の目的は達成されるんです。どうしますぅ? このまま一年、おしゃべりしましょうかぁ?」

「……なるほど、テメェはグッバイワールドに対しても裏切りモンだ。理解したぜ」

「んっふ。実のところ、いつ裏切ってもいいと言われていますのでぇ。多分怒られないですよぉ?」


 グッバイワールドは、おそらく笹月の行動まで想定済み。それを想定されている事も笹月は想定済み。どこまで読み合ってるいるのか、考えるだけ無駄な静夜は何も想定しない。


 ただ、ペラペラと騙られた内容をシンプルに言えば、勝手に異世界に連れてきた少女を寄ってたかって追い詰めて、人殺しに仕立てようとしているそれだけの話になる。


 それは、どうしようもなく気に食わない話だった。


「ああ、いい時間ですねぇ。それでは最後に、甘咲ハジメとは何者か。これについて――」

「うるせぇな。時間切れだぜ」


 ただ閉じ込められて、驚かされる話を聞かされ続けた訳ではない。

 いたずらに時間が過ぎるだけなら、こんな話を続けたりしない。残された切り札を切るための時間稼ぎだと思って笹月に付き合ったのだ。


 これから静夜は笹月が作ったこの不可視の檻を破壊し、笹月を倒す。その時間が来たのである。

 それが始ると確信したからこそ、静夜は強気に言葉を使ったのだ。

 静夜が何かをすると気が付いたのか、笹月が、笑みの奥の瞳を鋭く残虐性のある光を灯らせる。


「んふ……もう少しお話しましょうよぉ」


 次の瞬間、静夜の両足首から下が消えた。激痛と共に転倒。うまく手が付けなかったのは右手首もなくなっていたからだ。顔から地面に倒れ伏した静夜が、そのまま起き上がれないのは、足首が回復しないから。明らかにそれは、笹月が何か、不可解な現象を起こしたから。


「……だがそれでも関係ねぇ……ぞ」


 倒れ伏す静夜の背中が膨らんで蠢き、膨大な量の触手が突き破って爆発したのは静夜が原因となる現象だった。


「――何度か見ましたがぁ、いったい何が原因なんでしょうねぇ、それ」


 静夜を包む魔法の箱。

 それは小さな風穴から崩壊する。静夜が空けたあの穴こそが出口だと、本能だけに従う生命が群がる。

 静夜の体から生えてきた乳白色半透明の紐状生物は、餌付けされた魚のように一点に向かって頭を突っ込み、たった触手一本分の穴に数十の頭が捻じ込まれて、あっという間に穴は広がる。

 

 一瞬で笹月に襲い掛かり、飛びのいた笹月のいた場所に触手は突き刺さる。

 

「くきっ……? くきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃっ!」


 笹月との距離が開き、触手たちは鎌首をもたげ、その先端を切り裂いて牙だらけの口を形作って一斉に笑い叫んだ。

 この世界を支配する為に転生を目論み、静夜の体を狙う蟲の王の眷属が、笹月の事を敵と判断したのである。


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