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メッセ

 今回二日連続で巨大イベントがあったため、我が家の日本鎧と新型を出すことにした。


 今、その一日目を終わり、興奮冷めやらぬままこれを書く。


 日本鎧。

 正式名称、総漆塗段比良具足は、厚さ数ミリの鉄板を打ち出し整形して作り上げた鎧だ。


 色は漆の黒。何にも飾らないが艶やかな黒。冑にいただく飾りは、太陽をモチーフとした物で、胴が黒いために、そのギラギラとした輝きが映え人目を引く。


 幾重にも重なりあった鋼鉄は、ダンゴムシやカブトムシの外骨格のように着用者を守り、動くと美しい金属音を奏でる。

 腕に吸い付くような籠手(こて)は、腕の筋肉のラインを強調するように巻き付き、彫刻のような美しさで見た人を釘付けにする。スカートのように広がった裾が足のラインを強調し、一足踏み出せば回りはシンと静まり返る。


 唯一の欠点と言えば、重さ25キロにも及ぶ超重量級であることだが、それを私は自分の体を鍛えることで解決していた。


 週5日、一時間の有酸素運動と一時間のウエイトトレーニングが必要となったが、これを着こなすためならなんでもない。


 何より今日は自衛隊がイベントにいるのだった。


 前回とは規模が違い、バックに防衛省が付くという徹底さである。お祭り騒ぎである。


 私は会場に降り立った。既にすれ違った女性には二度見、三度見、と見られ、『タイムスリップしてきたみたい……』との言葉をいただく。


 私は骸骨の仮面のズレを直すふりをして、赤くなった顔を隠さなければいけなかった。


 会場は正に、芋洗いという言葉が調度良い。右を見ても左を見ても人人人。肩が触れあう距離で人が沢山いる。


 大体みんな自分の気になるブースに行きたくてキョロキョロとしているのだった。何十ものブースと企業が肩を並べる会場だった。そこに真っ黒な鎧が立っているので、ぎょっと見てくる。


 もう私は、慣れたものである。まっすぐ自衛隊のブースへと突き進むと、各ブースでは有名人が来て生放送をしているようだった。


 今回の会場の特色はそれだった。今起きていることがネット上に瞬時に拡散される。


 面白いなと思って見ていると、原稿を読む司会者も、ゲストも、シンと静まり返って数秒前から動かなくなった。なんだろう。こっちを見ている。


 ああ、しまった!と私は思った。


 皆が皆、鎧を見慣れている訳じゃない。ガッチリ固まったみたいに動かなくなったゲストは60歳くらいだった。肩書きを見る感じどこかの県の偉い人らしい。


 人生で鎧を見たことがあっても、こんなにでかい鎧を見たことはなかったのだろう。


 人生の最後に会いに来るのは死であるべきという考え方から、私の設計する鎧にはすべてドクロがモチーフに含まれる。


 故に、その顔を見て固まった。調度会場のスポットライトに当てられて、目は真っ黒に落ち窪み、歯が抜けたガシャドクロのような化けのもが鎧を着てこっちを見ているのだ。


 お化けだって言われてもきっと彼は信じただろう。逃げるようにブースをあとにして自衛隊ブースに向かう。


ブースに近づくほど自衛官の姿が増え始める。ものすごく大きな出し物のため、沢山の隊員さんが代わりばんこで参加しているようだった。


 ちょうど休みになった隊員さんが他の出し物を見るために歩き回っているようである。


 向こうから来た。


 私は心を決めて、ジッと目を見据えて待つと、彼は私の鎧を足の先から頭のてっぺんまで舐めるように見たあとニヤリと笑って立ち去った。


 なんだったのだろうか。


 疑問に思いつつ歩き出すと、司令官レベルのおっちゃんが3人そろって歩いてくる。「おおお!!!」とおっちゃんは顔をほころばせた。カメラ向けられ、「孫一はどこだ!」などと絡んでいただく。


 もうね、当たり確定である。孫一というのは『戦国自衛隊』の登場キャラクターで武士である。


 おっちゃん達のドストライクゾーンをしっかりとぶち抜いて満面の笑みを作らせることに成功する。

 すごい楽しい一日が始まることがすぐに分かった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 鬼面を被って、身全て大鎧に包まれる……良い体験だと思うのです。
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