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英霊たちは未だ草葉の陰

 暫く更新を休んでいる間に、靖国神社に行ってきた。


 理由は簡単。


 弱気を助け、強きをくじくための勇気の御助力を英霊たちにお願いしに行ったのだ。


 靖国神社には、四年八カ月続いた太平洋戦争で戦死した軍人がいる。名簿で記されている人だけで、辞書の分厚さだ。遺影が残っている人だけで展示室が二つも埋まっている。


 私は朝から冷水にて身を清め、黒い服に身を包んで参拝を行った。


 普通は白い服がいいのだろうけれど、白無垢は、私のような人間にはとても着られないのである。


 挨拶が遅くなったくらいだと思った。ここにいる彼らは自分の守りたい物のために命をささげた人たちなのだ。


 今まさに、退屈な日常を変えるために鎧を着ることが、誰かの助けになればと考え始めていた私には、正にぴったりの場所だった。


 私が思うに、英雄とは産まれながらに英雄なのではなく、強いられて英雄になるのだ、と思うのだ。


 問題は強いられた時に準備がちゃんとできているかどうか、なのである。精神的にも、肉体的にも。


 靖国神社には、隣に博物館があって、太平洋戦争当時の武器の展示を見ることができる。



 そこには、『桜花』と名付けられた兵器の展示があった。



 実機を見て目に飛び込んできたのは、そのあまりにもベコベコと波打った姿だった。それもそのはずで、その飛行機ができたのは戦争末期、男は全員戦争にとられて、女学生が工場で飛行機を作っていた。素人が飛行機を作るようなものだ。そんな環境で、それは産まれてしまった。


 桜花はロケット機で、特攻機である。


 日本の当時の技術者が、少ない材料と、つたない技術で必ず当たる爆弾を作った。それが、桜花である。



 こんなに悲しいことがあろうか。その爆弾で最も価値が高い部品は、操縦席に座る人間である。人間が乗ったまま、最後の瞬間まで爆弾を操作するのである。



 この桜花には車輪が無い。つまり、飛んだっきり、再び地面に下りることを想定していない。なんと残酷な設計かと思う。どういう頭をしていればこんなにも残酷な設計ができたのだろう。きちんと空を飛んだというのだから、設計者は馬鹿ではない。分かっていてやったのだ。


 桜花には照準器があるが、それはまさに、自分の命を相手にぶつけるための最後の機械なのだった。実に単純で頼りない、最後の機械。


 桜花の下には、鎧や兜の展示があったが、そのどれもが、あまりにも小さく、子供用なのではないかと思ったほどだった。


 体の大きな私からすれば、なぜ彼らは立ち向かえたのだろうと思わずにはいられない。


 恐らくそれは、そうせざるを得ない環境に置かれたためだ。 


 戦った方々の遺骨は、戦後78年の現在、未だ日本に帰ることができず、南方の島々に散っているそうだ。遺骨さえ、無いのである。


 なにか、日本人としてできまいか、と思う次第である。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 七十八年もの歳月が過ぎ去り、しかしながら……お教の一つとてあげられてはいないだろうその場所。 今もまだ残られているのでは無いかと思うと、それとは対象的な現在の日本人、特に若者を見やり……何…
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