炎と共にあらんことを
鎧と言うものを着て、使うことが味を生み、本物らしさを見たものへ感じさせると分かった。
次は西洋甲冑の番と言うことで、初めての着用を終えた私は農作業に繰り出した。
この時期、田んぼの草を切らねばならず、とても人力では手に終えない広さのために機械の力を借りている。
どう言うことかと言うと、苅はらい機を導入しての大規模除草作戦結構となるわけだが、これにはいつも危険が伴った。
この機械は棒の先端にマルノコが剥き出しでつけられており、無数の刃で草の根もとから切断する機械なのだが、その回転機構ゆえに地面の石を撥ね飛ばすことが良くあった。その石は使用者に跳ね返ってくる。
そのエネルギーは22口径の拳銃並みで、知らず知らずのうちに服を貫通し、真皮内側にまで石が到達する事もある。使用者はこの危険と、飛んできた飛散物の痛みに耐えながら機械を使用することになる。
そこで思ったのだ。これ、西洋甲冑着てったら無敵なのでは?
何しろ、甲冑は飛来する弓も弾き飛ばす鋼鉄の鎧として生まれた。石程度で貫通するのか?
やってみようと言うことで、使ってみた。もう無敵である。石が飛んでくるがそのすべてが乾いた音と共に弾き返される。全く怖くない。それだけでなく、万が一の事故においても、手や足が接触したところで切れません。めちゃくちゃ安全に作業ができるのだった。
ただ問題は、重さだった。
そして、見た目だった。
中国人労働者に警察を呼ばれそうになった。
藪の中から、西洋甲冑がエンジン音を響かせて登場するイメージだ。背丈ほどもある雑草を斜めに切り裂いて、ブンブンメキメキと音をたてながら向かってくる。それが13日の金曜日に出てくる殺人にみたいに見えたのではないだろうか。
良いじゃないか。楽しいじゃないか。
ここまで来ると変な噂がたって、時々お客さんが来るようになった。そのほとんどは甲冑を見せてほしいということだったが、中にはプレゼントを持ってくる人いた。
昨日持ってこられてのは農業用の使わなくなった火炎放射機だった。要らなかったらこれから捨てにいくが、一度見せておこうと思ったとのこと。
私をなんだと思っているのだろう。でもこういうのは好きだった。
長さ1メートルちょっとの鉄パイプでその中に燃料の灯油を入れるタイプだ。
中には非常に簡単な加熱用燃料パイプがあって、その中の灯油を通し、気化させることで火のつけにくい灯油を火炎放射として利用している。肝心の燃料はパイプ後方のポンプで圧力調整をして射出する機構で、注意書には『炎が5~10メートル吹き出ることがあるので注意』とあった。
ネットで調べてみたのだが、ちゃんと市販されているものである。この殺意つよつよの火炎放射機。ヤバくね?というか、鎧着てるやつに譲って良いのか?
ちなみにただで譲り受けた。
非常に原始的な機構ゆえに、始動には細心の注意が必要だった。勿論、全身甲冑姿で挑む。
説明書には射出穴から灯油を漏らし、着火布に染み込ませてライターで火をつけよとあった。
何の安全装置もない。火をつけたら、パイプ中の燃料が熱せられ、爆発する危険まであった。そんなこと説明書のどこにも書いていない事がなにより気がかりである。わざわざ書かなくても分かるだろう?と言うことなのか、そもそも危険性を触れたくなかったのか。両方かな。
おそるおそるヘルムのスリットから覗いて、チャッカマンで火をつけてみる。火を近づけただけ。まるでその瞬間を待っていたかのように、ボッと燃え上がった火が、15センチくらい吹き出た。
焦って調整レバーが閉になっていることを確かめたが、それでも火が、ボッボっと吹き出る。これ火事になるんじゃねぇかと心配していると、どんどん吹き出る。大きな口から30cmくらい真っ赤な炎が断続的に吹いた。
まるでドラゴンのブレスだ。ものすごく怖くて、美しい。それがギラギラ光る装甲に反射して、それはもう綺麗。なのだった。
機嫌を良くした私は、ポンプで加圧し、意気揚々と燃料コックを開いた。
舐めていた。ドラゴンのブレスを。
両手で持っていた筒が、反動で後ろに持っていかれる。赤かった炎は黄色、そして青色へ染まり、一瞬にしてゴーという飛行機のエンジンのような音をたて、一メートルを越える火柱となった。空気を焼いた。匂いが変わる。何もかもが焼ける臭い。ゴーーーー!!!という爆音と共に地面が真っ黒に焼け、地中の水分が湯気となって立ち上った。
すげぇじゃんこれ!!これをドラゴンブレスと名付ける!!
なんか、西洋甲冑を着たやつがドラゴンの炎と共にあるって凄く良いじゃないか。奪い取ったのか、祝福されたのか。下手したら丸焼けになって死ぬってこと以外、すべて完璧だった。
こんなもの売ってていいのか? さすがにこれはホームセンターに置いていないだろうが、はっきり言ってかなりヤバイ。何の免許もなく買えるのだった。流石に都会には持っていかないが、こんなのあったなんて知らなかった。
灯油の焼ける匂いは、寒い日の朝のストーブの臭いに良く似ている。それが、摂氏数千度近いというだけだ。燃料が灯油というのもコスパがよろしい。火力もよろしい。見た目も良い。これで毎日草を焼こうぜ。相棒。
田舎の庭が広い家庭じゃないとこれ使わんだろうな。
ちなみに短時間ならば甲冑は熱も遮断できる。鉄を熱するには多量の熱を必要とするからだ。まさに相性抜群であった。




