攻撃開始
どうやって私が重い甲冑を着たかというと、下半身をあきらめたのだ。
ゲームと同じ。持てなかった分の重量を置いていく。マジだせぇ。下半身丸出しじゃねえか。
今考えても顔から火が出そうである。お前に戦士としての誇りは無いのかと坂東武者に笑われる。甲冑は両足合わせて16キロだ。それをあきらめてなお、日本鎧よりも重かった。
設計者という者は、作る物の寸法と材質が分かれば、計算で重さを導くことができる。その計算上、30キロだったはずの塊は、なぜか私の所に来た時は47キロに増大し、にっちもさっちもいかない状態になっていた。
例えるならば、常に小学生高学年の子供を背負っているような感じだ。しかもすべては連結されており、全ての重さが肩にかかってくる。この重さは数字以上の物があった。
重さっていうのは痛みなのだ、と昨日知ったよ。何のクッションもない鉄の装甲板が肩に食い込むのだった。この日のために買った、屋外活動用の強靭な繊維でできた服が甲冑に負けて一日でお釈迦になった。
過酷な山仕事でも8カ月持った服が、新品そのままにゴミになった。
勿体ないので縫って使うが、甲冑とはこういう物だったのだ。
そこにあったのは夢と、現実である。
服にダメージ加工なんていらないよ。だってすぐ擦り切れるもの。
勿論服だけじゃない。体もあざだらけ、ずり傷だらけですごい。キスマークをつけられたみたいだった。
特にひどかったのは首と二の腕で、点々と重なり合って痣ができていた。
恐ろしいことに、着ている時は全く痛みなど感じなかった。アドレナリンが常時駄々洩れとなっていたのだろうか。
これがあの輝かしい甲冑の現実だ。今回私は誰にも攻撃されていない。なのにこれ。今も筋肉痛で腕が肩より上に上がらない。皮膚だけでなく、身体中の筋肉がボロボロだった。
私の体はマシュマロのように柔すぎたのだ。甲冑を着るに至るにはあまりにもレベルが低すぎだった。足をあきらめてもなおレベルが足りなかったのである。
ここに書いたかは忘れてしまったが、私は毎日3キロから5キロ程度走り、自重トレーニングを行ってきた。日本鎧を十分に着こなすためだ。
それなのにまるで歯が立たなかったのである。根本的にトレーニングを見直す必要があった。
とりあえず今日、通信販売大手でアドベンチャーレース用のリュックとエマージェンシービビーとタンパク質を買った。
アドベンチャーレースというのは、この世界で最も過酷なレースのことである。検索していただければわかると思うが、なん十キロも寝ずに走るようなレースだ。そしてほとんどの場合走るのは道ではない。その過酷なレースで使うためのリュックだった。3~4日の日程で山に入る予定で、極限まで孤独になろうと思ってこの小さなリュックを選定した。
エマージェンシービビーというのは、あのNASAも使用していると言われている緊急用の寝袋である。死にそうになったときに最低限命を繋げるために持って行く。
タンパク質はプロテインだ。なにが私の体に合っているか、私は既に知っている。
極論、痛みを感じなければ、肉体は変えられない。
特にパワーの源となる筋肉は破壊されることで修復され、以前よりも強靭に生まれ変わる。
そのためにはまず、痛みを受け入れなければならない。
そのためトレーニングを始める。
私は、私の心の中にある地獄を隅々まで見届ける覚悟だ。
自分の弱い心とも決別するいい機会となる事だろう。
荷物の到着予定は明日。明日の晩より装備品に慣れるための訓練を開始する。
現在9時43分。攻撃開始だ。




